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メヌ・オン《》 岩堎

     もはや仕事をほずんど䞎えられなくなった私は、事務宀の机で忍耐匷く、省の広報誌を読んでいた。
     ペヌゞをめくるず、矎䜐のフルネヌムが目に入ったので、そこに目を移した。
     

    匔蟞通報
    厚生劎働省 倧臣官房 監察局
    䞀等監察官 䞻査 鳥谷矎䜐
    通倜什和䞉十二幎䞉月五日 午埌六時
       東京郜䞖田谷区 成城新教䌚


     䜕床読んでも、それは簡朔に矎䜐の死を䌝え、圌女のための通倜の開催を知らせるものだった。
     私は広報誌を眮き、昌前の事務宀を芋枡す。私以倖の机には、お土産のラスクが眮かれおいた。
     

     午埌五時半、私は教䌚に行った。
     䜕䞀぀信じおいなかった。矎䜐が死ぬこずは、絶察にない。
     私がここに来たのは、矎䜐の蚃報は䜕かの間違いであるこずを確認するためであった。身に着けおいた黒ネクタむも、バッグの䞭の銙兞も、確認のための小道具に過ぎない。死を受け入れ、死者を悌む気持ちはみじんもない。

     暗いチャペルに入る。長怅子に座っお前を芋るず、花々を添えた癜い棺が眮かれおいた。
     最前列に座っおいた五十くらいの男が立ちあがり、参列者に挚拶回りを始めた。

     私の暪にも来たので、立ち䞊がる。
    「本日は、劻の通倜にお越しいただき誠にありがずうございたす」
     圌は頭を䞋げお蚀った。長身で肉付きの良い男であったが、顔は憔悎しきっおいた。
    「私は、鳥谷䞻査の郚䞋でしお、生前はずおもお䞖話になりたした」
     私も、頭を䞋げた。
     圌は顔を䞊げお蚀った。
    「そうですか、職堎の」
    「本圓に、玠晎らしい䞊叞でした。この床は 」
     私は、蚀うべき蚀葉を芋倱う。
    「ええ、本圓に、なんでこんなこずになっおしたったのか。垞々、よく分からない人でしたが」

     私に察し、なんの理由があっお、䜕を蚀うのだろう。圌は続けた。
    「本圓に、玠晎らしい劻でした。
     でもね、二十幎以䞊連れ添っおいお、圌女を理解しおやれたこずは、そうですね、䞀床もなかったのかもしれない。
     もちろん、劻が私にしおくれたこず、䞎えおくれたものは限りなくありたす。ただ、それはみんな、資料に添付する写真ずいうか、泚意深く芋おいるず、すべおに情がないんです。笑顔の奥で䜕を感じおいたのか、䜕かを感じおいたのか。
     そんな劻ぞ、私に䜕が出来るのか、い぀も迷っおいたした」

     祭服を着た神父が入堎した。
    「でも、ここ最近になっお、劻が倉わったような気がしおいたした。圌女の行動や振る舞いに、どこずなく絵画のような枩かみや圩りのようなものが出始めおきお。
     そんな劻を芋おいお、幞せな気分にもなっおいたんですよね。
     ですが、突然、あんな颚に」
     私は黙っお、棺の䞊の十字架に目をやった。続きを聞きたくなかったからだ。

    「なんで、あんな銬鹿気たこずを。
     二階の寝宀で、銖を吊っおいたのです。
     これは、私のせいなのでしょうか」

     神父の声ずずもに参列者らは、聖曞を手に取り立ち䞊がる。
     再び頭を䞋げお、垭に戻ろうずした圌に、私は蚀った。
    「奥さんを、愛しおいたのですね」
    「そうでしょうね」
     

     私は献花甚の花を持ち、棺の䞭を芗いた。
     銖の郚分を癜い垃で芆い、目を閉じた女性が暪たわっおいた。
     やっぱりだ。よかった。この人は、矎䜐ではない。
     矎䜐は、こんなに痩せおはいないし、こんなに青ざめた顔でもない。こんな髪でもないし、こんな化粧でもない。矎䜐は、死んでいないのだ。

     安堵した私は教䌚を出た。
     矎䜐はどこかにいるはずだ。理由は分からないが、停の死䜓を自宅に残し、自らの死をでっち䞊げた。そしお今は、私ず圌女にしか分からない堎所にいお、私に芋぀けられるのを埅っおいるのだ。

     ◇
     私は、圌女ず蚪れたこずのある党おの堎所に行き、矎䜐を探した。
     長野の別荘、サヌビス゚リア、自由が䞘のカフェ、麻垃のバヌ、埅ち合わせに䜿った党おの喫茶店、圌女ず歩いた党おの道。
     法曹䌚通を探し、時蚈回りに皇居を回り、半蔵門を越えお、麹町たで歩いた。
     本省九階の事務宀を探しおも矎䜐を芋぀けられなかったずき、私はある堎所に思い至った。
     ああ、そうだ、なんで気づかなかったのか。䞀番倧事な堎所があるじゃないか。
     あそこの海だ。あそこの岩堎で圌女は埅っおいるのだ。そうに違いない。
     私は海岞広堎から階段を降り、切り立぀岩々を枡った。
     波の音が聞こえる。カモメの鳎き声が聞こえる。しかし、どれだけ歩いおも、海は芋えおこなかった。
     歩き疲れた私は、その堎に座り蟌んだ。知っおいる歌を口ずさむ。
      
          迷子の迷子の子猫ちゃん
          あなたのお家はどこですか
          お家をきいおも分からない
          名前をきいおも分からない
          わん、わん、わんわヌん
          わん、わん、わんわヌん
          泣いおばかりいる子猫ちゃん
          犬のおたわりさん
          困っおしたっお
          にゃん、にゃん、にゃんにゃヌん
          にゃん、にゃん、にゃんにゃヌん
     
     
    「わん、わん、わんわヌん」
     誰かが、私の肩に手を眮いた。埌ろを振り返る。
     手を眮いたのは、生田だった。
     分局の職員たちはみな、自垭に座る私を芋おいる。

    「係長、倧䞈倫かね」
     真剣な衚情で、生田は聞いた。
    「はい、倧䞈倫です」
     私は答える。
    「いや、僕から質問しおおいおなんだけど、ずおも倧䞈倫ずは思えないよ」
     生田はスヌツの内ポケットから、手垳を取り出した。
    「その、なんだ。君は今、粟神的に、正垞な状態ではない。䞀床ね、医者に行っお蚺おもらうずいいよ」
     手垳を砎り、メモ曞きを私の机の䞊に眮いた。
    「私が県譊から出向する前に知った医者だ。倚くの譊官はここを䜿っおいる。ここ以䞊にハヌドな環境で、粟神を病んでしたう巡査は倚いからね。
     公務員の立堎も、よく理解しおくれる医者らしい。物は詊しだ。䞀床、電話をかけおみるずいい」
     私は、机の䞊のメモを眺めた。
    「䌑暇も、君に倉わっお申請しおおこう。ずりあえず、十日くらいか。蚺断名が䞋ったら、忘れずに職堎に連絡し、動ける時で良い、蚺断曞を持っお私か、宀長のずころに来るんだ。いいね。 もう䞀床蚀おうか」
    「はい、倧䞈倫です」
    「ずにかく、ここに電話しお、曞いおある䜏所のずころに行くんだぞ」

     生田は埌ろに手を組み、少し間を眮いお蚀った。
    「今たで、やりすぎたようだ」
    「はい、倧䞈倫です」
     

     蚺察宀では、簡単な心理テストの埌、今の気持ちを自由に話すように医者から蚀われた。
    「倧切な人を探しおいたす。
     きっず、今もどこかで埅っおいる」

     医者は、手元のカルテに筆蚘䜓で䜕かを蚘茉し぀぀、私の目を芋お、うん、うん、ず頷きながら、芪身になっお聞いおくれた。話し終わるず、圌は医者ずしおの所芋を私に䌝えた。
     今は、薬を飲みながらずにかく䌑む。二週間に䞀床クリニックに来お療逊しながら、少しず぀、職堎に埩垰しおいくずいい。

     受付で蚺断曞ず凊方箋を受け取った。薬局を出たら、既に倜になっおいた。
     

     垰宅した私は癜い玙袋から、アルミシヌトの束を取り出した。
     そしお、足元のロヌテヌブルに薬を䞀粒䞀粒䞊べおいった。
     薄暗闇に色ずりどりのカプセルが、党郚であった。


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    第䞀話メヌ・オン《》 高原

     
     
    小説・詩・゚ッセむを曞いおたす。 詩ナリむカ  遞倖䜳䜜2026幎4月号   珟代詩手垖 遞倖䜳䜜2026幎7月号2026幎9月号

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