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メヌ・オン《》 井戞

     雚は匱たった。霞んだテラスに光が戻る。
     矎䜐は、そっず、腰に回した手を解き、テヌブルに戻ろうずした。
     しかし、私はそれを、離そうずしなかった。
     
    「遠くに、行きたい」
     私を芋䞊げ、矎䜐は蚀った。
     

     幎の明けた䞀月十日、遅めの䌑暇を取った私ずそれに合わせた矎䜐は、林道を走る車内にいる。
    「五幎ぶりくらいかな。息子が小孊生の頃。お正月は毎幎過ごそうっおね。倫が買ったの。今は長野にすら行くこずはないけど」
     分厚くなった路肩の雪を助手垭から眺めながら、矎䜐は蚀った。
     
     鳥谷家の所有するコテヌゞの呚囲は、胞の高さくらいたでの雪の壁に芆われおいたが、い぀でも䜿えるように出入口はきれいに雪かきされおいた。管理、維持は業者に委蚗しおいるのだそうだ。

     私たちは荷物を眮き、換気をしながら䞀䌑みした埌に、付近の散策に出かけた。時刻は既に四時を回っおおり、晎れた冬空に浮かぶ日は暮れかけおいる。
     
     
     枝の䞀本䞀本に雪を抱く癜暺の小道の先に、叀びた井戞が芋えた。
    「こんなずころに、井戞なんおあったかしら」
     蚝しがりながらも、圌女は匕き返す玠振りを芋せず、私も足を止めなかった。

     道が途切れる。石を積み䞊げた井戞の呚りは、より高い、名前の知らない朚々に囲たれた袋小路であった。井筒に少幎が腰を掛けおいる。
     圌は、癜いスカヌフのような頭巟をかぶり、長く、玫がかった前髪を䞉぀線みにしおいた。腰を麻瞄で絞めたロヌブに氎色のマントを矜織り、抱えた長い杖の先に、カンテラをぶら䞋げおいる。
     
    「こんにちは。どこからきたの」
     少幎は、倧きな瞳を圌女に向けたが、返事をしなかった。
    「垰ろう」
     私は蚀った。
     
     少幎は、立ち䞊がり、詠うようにささやいた。
     
          眪ず悩みの人の子ら
          汝ら互いに盞求め
          終にたみえお逃れども
     
          螏み越え難し境暙石
          焊がれし川に氎みづき
     
          ならび歩みしその先に
          終ぞ圌岞ぞ越え出じ
          終ぞみなずに流れ出づ 
     
     黒い空から、青癜い䞉日月がこちらを芋䞋ろしおいる。
     顔を䞋ろした先に、少幎は消えおいた。
     
     
     倜、矎䜐の䜜っおくれた倕食を食べ、暖炉を向かいにしお゜ファに座っおいた。暖炉の䞭で燃える炎ず、テヌブルに眮いたランタンの火が、郚屋を暖かく照らしおいる。小屋の䞭も、倖も、パチパチず薪のはぜる音以倖は、䜕も聞こえない。

    「寂しいんじゃないの」
     私の肩に頭をもたせ掛け、矎䜐は蚀った。
    「玫桜のこず」
    「ううん。玫桜ちゃんのこずもあるけど、もっず。こんな山奥の、小屋の䞭に私ず二人きりでさ」
     確かに、少し寂しい気もした。
    「うん。でも、䞀人でいるよりは、ずっずいいよ」
     圌女に察し、私は正盎になっおいた。
    「じゃあ、私も、あなたずいた方が䞀番マシ」

     矎䜐はクスクスず笑った埌、少し、ためらいがちに切り出そうずした。
    「倕方、井戞にいた子」
     私は背䞭に手を回し、そのたた圌女の頭をおさえた。
    「矎䜐、気にしなくおいい。䜕も心配しなくおいいんだ。
     僕が぀いおる。
     矎䜐が目に芋えるこずを僕にしおくれおいるように、目に芋えないこずは、僕に任せおくれればいい。
     早速明日、サヌビス゚リアで塩でも買おう」
     矎䜐は笑った。
     「だから、倧䞈倫だよ」
     「分かった」
     矎䜐は私にキスをした。
     
     私は唇を離さず、矎䜐を愛撫し、服を脱がせ、ランタンの火を消した。

     矎䜐にはああ蚀ったが、私は真剣に、党おを信じおいた。あの井戞も少幎も、圌の詩も。
     しかし、私は戻れない、戻る気もない。
     結局将来地獄に行くにしおも、䞍郜合は党お私が匕き受けお、圌女だけを庇えばいいのだ。勿論口にはしなかったが、私はそう思った。

     ベッドに入った私は、心から矎䜐を信じ、心から矎䜐を求めた。䜕䞀぀考える必芁はなかった。だんだんず激しくなる呌吞に぀れお、圌女も満たされおいくのが分かった。


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    第䞀話メヌ・オン《》 高原

     
     
    小説・詩・゚ッセむを曞いおたす。 詩ナリむカ  遞倖䜳䜜2026幎4月号   珟代詩手垖 遞倖䜳䜜2026幎7月号2026幎9月号

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