
【経理の不正 #6】預り金横領からの再出発。経理を“責める”よりも前にすべきこと|士業編 vol.3(完結編)
仕事は順調、でも資金繰りが回っていない。今回の相談は、20年以上の老舗士業。昔からのお客さんが多く、信頼も厚い先生だった。
「預り金」がないーーこれは経理担当者の不正なのか?代表側の怠慢なのか?当然ながら、預り金は自分のものではありません。いつか返すお金です。でも口座にあるから預金残高に見えてしまった・・・とても単純な話でも、実は士業では預り金を使ってしまった、と言うのはしばしば聞きます。今回は実際に相談を受けた士業さんの例をとって、数字の見える化、実務の見直しの方法を3話に渡ってお届けします。
「数字は語る、経理の不正」では、経理による横領や不正がなぜ起こったのか事例を紹介しながら、どうしたら防ぐことができるのかを書かせていただきます。
▼士業編は全部で3編です。過去の2話はこちら▼
▼過去の「数字は語る、経理の不正」シリーズは、マガジンからご覧ください。
預り金に手を付けていた事実が判明し、経営者は深い衝撃を受けていた。
これまで順調に業務が回っていたという認識は、どこかで信じたい現実の姿だったのかもしれない。
だが、問題はここからどう再出発するかだ。
「預り金の使い込み」と一口に言っても、それは単なる不正では済まない。
そこには、「誰が、何を、どこまで知っていたのか」という情報管理の問題と、
「使ってはいけないお金が、なぜ使えてしまったのか」というフローの問題が絡んでいる。
現金の動きを一人で管理していた経理担当者。
売上も預り金も、すべて同じ口座に入ってくる仕組み。
内部の誰も、残高や資金の使途をチェックしていない現実。
たとえこの経理担当者が退職しても、構造を変えなければ、また同じ問題が起きる可能性がある。
■ 処分の判断:「刑事ではなく、民事で」
横領が明らかになった以上、経営者は「どう処分するか」という判断を迫られることになる。
今回の事例では、処罰感情は当然強かった。
しかし、最終的には被害届を出すことはせず、民事での返済請求を行う方針となった。
経営者はこう語った。
「刑事事件にしても、お金が戻るわけじゃない。
本人が返済の意思を持っているなら、まずはそこに賭けたい」
一見、甘い判断に思えるかもしれない。
だが、現実的に回収を優先した場合、民事での合意形成を進めるほうが合理的であることも多い。
ただし──
経理担当者の年齢はすでに60代後半。
再就職は難しく、返済原資をどこまで作れるのかは正直不透明だった。
代表者たちもそれを理解していたが、再生の道を選ぶ以上、憎しみではなく仕組みの再設計を優先すべきだと考えた。
■ “属人化”との決別:仕組みの再設計
この一件を経て、事務所では以下のような再構築が実行された:
預り金を管理する専用口座の新設と分別管理の徹底
通帳・現金・帳簿の突合チェックを月次で実施
複数承認・複数チェックの体制整備(シングル承認の排除)
会計事務所との連携による外部監査的な関与の導入
代表者自身の定期的な会計数値のレビュー習慣化
経理担当者個人を責めるだけでは、何も変わらない。
「属人化された業務」そのものにメスを入れなければ、根本的な改善にはならないのだ。
■ 横領は“される方”にも責任があるのか?
横領の責任はもちろん加害者にある。
だが、**「横領されてしまう仕組み」**を放置していた組織にも、一定の責任があるのではないか──
これは、私が経理支援に関わった多くの現場で感じてきた実感だ。
経営者自身が「数字に弱い」として経理を丸投げにしてしまう。
それが結果として、“見ない・聞かない・分からない”経営体制をつくり出す。
だからこそ、経理体制の外注や見直しには意味がある。
第三者として客観的に数字を見て、経費の適正化や資金フローの見える化を進める役割が必要なのだ。
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