
【経理の不正 #2】横領調査で見えてきた。架空会社への外注支払い、ペーパーカンパニーへの還流スキーム──外注化で守る仕組みの話|印刷業編 第2話
うちの経理に限って、横領なんてあり得ないと思っていませんか?決済は一人で行える(シングル承認)になっていませんか?お金の動きを定期的にチェックしていますか?商品やサービスの質と、バックオフィスの管理体制の質が一致していない会社は、意外と多いです。急速なスピードで成長してバックオフィスが疎かになっていたり、老舗企業では昔からの信頼によって属人かしていることもあります。
また横領は事件化しないことも多いです。その理由は、事件化しても返金されるわけではないから。綿密な調査、横領という根拠を持って本人と話し、今後の返済計画を話し合うか、刑事事件にして罪を問うのか。刑事事件にすれば返済能力がなくなる場合が多く、さらに過去の決算も違ってくるため、横領された側の負担も大きいのです。
「経理の現場から」では、経理による横領や不正がなぜ起こったのか事例を紹介しながら、どうしたら防ぐことができるのかを書かせていただきます。
▼第1話はこちらから▼
第2話:調査の核心──元帳に隠された不正の痕跡
「契約では月30万円なのに、月に2回、3回と支払いがあるんです。支払額も月によってバラバラで……」
その一言から、水面下での調査が始まった。
本シリーズは、実際にあった経理横領の調査現場をベースに、
「どうやって不正が発覚し」「どこが抜け穴だったのか」を解説していくものです。
もし、あなたの会社でも──
経理が1人に任せきり
元帳は税理士に任せているだけ
入出金の詳細を「ちゃんと見ていない」
──そんな状況があるなら、今回の話は決して他人事ではありません。
まず手に入れたのは、顧問税理士からなんとか提出させた過去3年分の決算書と総勘定元帳。
経理担当者本人には調査のことを一切知らせず、限られた情報から“違和感の痕跡”を洗い出していった。
最初に目に留まったのは、D社(経理担当者の法人)への報酬支払いの不自然なパターンだった。
契約では月額30万円の業務委託契約であるはずが──
実際の支払額は28万円、33万円、31万5千円……と毎月バラバラ。
さらに、月に複数回支払いが実行されている月も存在していた。
「これは、単なる委託契約とは呼べない」──そう直感した。
さらに元帳を追っていくと、経費処理の中にも不審な支出がいくつも散見された。
飲食代:経理担当者の自宅近所の店で繰り返される会食
備品購入:明らかに高額な文房具や事務機器
交際費:期末直前の複数回支払い──しかも同一店舗
帳簿上は形式が整っているように見えるが、“自分の生活費を会社の経費で落としている”構図が見えてきた。
調査はまだ始まったばかりだったが、すでに「これは黒だな」という確信に近い感触があった。
■ 1|“架空の会社”とペーパーカンパニー還流スキーム
本格的な転機は、存在しない会社への外注費支払いが見つかったことだった。
元帳に記載されたその社名には、業務内容の記載が一切ない。
定額の外注費が、毎月機械的に計上されていた。
不自然に感じたため、社名を検索してみる。ヒットなし。
登記情報を調べるため、すぐに法務局で謄本を取得した。
代表者欄に記載されていたのは──
経理担当者の夫の名前だった。
つまり、存在しない業務を名目に、
会社の資金を夫名義の法人に流し、それを生活費として還流させる構造だった。
これは、ペーパーカンパニー還流スキームの典型的な形である。
■ 2|D社の請求書にも“改ざんの痕跡”
さらに、D社から提出されていた請求書にも複数の問題点が見つかる。
毎月、Wordで作られたPDF請求書
金額の前後に文字ズレや書式ブレあり
業務内容の記載はなく「業務委託費」とだけ書かれている
形式だけを整えて、中身は隠す──
これが、“気づかれない”帳簿の作り方だ。
■ 3|属人化の果て──「全部、その人しか知らない」
帳簿を洗えば洗うほど、“危うさ”が露わになった。
試算表は2か月遅れで提出
会計ソフトはD社が独占入力・管理
税理士は申告業務だけを担当し、日常の確認はしていない
ネットバンキングや通帳、印鑑類も経理担当者の手中
メールもすべて個人アドレスでのやりとり
これは、**完全な属人化による“ブラックボックス経理”**だった。
■ 4|解雇に踏み切る──証拠が出揃わぬ中での判断
依頼主であるB社・C社の社長からは、「とにかく辞めさせたい」との強い要望があった。
だが、横領の“証拠として通用する水準”にまだ到達していない。
ここで解雇に踏み切れば、法的リスクも残る。
それでも、社内の信頼と統制の崩壊を防ぐには、今が限界と判断した。
弁護士を伴い、出社した経理担当者に即時解雇を通告。
最初は呆然。
やがて怒号。
「私はこの会社のために身を削ってきたのよ!」
■ 5|引き継ぎ不可能──“すべて私だけが知っている”の末路
経理担当者が去った後、私たちは“何もないこと”に直面した。
通帳の在りかは不明、「家にある」とだけ返される
ネットバンキングのIDもパスワードも不明
請求書テンプレートは私物PCに保存されていた
クライアント情報や会計ファイルの場所も口頭でしか伝わらない
属人化された経理の末路とは、「ブラックボックスを開けたら空っぽだった」ということだ。
私たちは最低限の資料をかき集め、ようやく“再出発の準備”ができる状態に戻した。
ここでようやく、スタート地点に立ったにすぎない。
▶次回予告|第3話:横領の全容──経費の中に仕込まれた罠
勘定科目をすり抜ける私的流用
架空発注で水増しされたD社の報酬
属人化された経理をどう分解・再構築するか
外注経理+クラウド会計による再発防止の設計とは?
不正は、仕組みがなければ止められない。
あなたの会社には、「仕組み」がありますか?
⚠ 「うちの経理も似ているかもしれない」と感じた方へ。
属人化、横領、不正の兆候がある場合、初期段階でのチェックが肝心です。
経理体制の見直し・不正調査・業務再設計に関するご相談を受け付けています。
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