
【経理の不正 #1】信頼していた経理が、2社合計1.5億の横領。その経理、信じていいですか?──外注化で守る仕組みの話|印刷業編vol.1
うちの経理に限って、横領なんてあり得ないと思っていませんか?決済は一人で行える(シングル承認)になっていませんか?お金の動きを定期的にチェックしていますか?商品やサービスの質と、バックオフィスの管理体制の質が一致していない会社は、意外と多いです。急速なスピードで成長してバックオフィスが疎かになっていたり、老舗企業では昔からの信頼によって属人かしていることもあります。
また横領は事件化しないことも多いです。その理由は、事件化しても返金されるわけではないから。綿密な調査、横領という根拠を持って本人と話し、今後の返済計画を話し合うか、刑事事件にして罪を問うのか。刑事事件にすれば返済能力がなくなる場合が多く、さらに過去の決算も違ってくるため、横領された側の負担も大きいのです。
「経理の現場から」では、経理による横領や不正がなぜ起こったのか事例を紹介しながら、どうしたら防ぐことができるのかを書かせていただきます。
第1話:経理に潜む違和感──横領疑惑の発端
「経理が何かごまかしている気がするんです。試算表も遅れるし、通帳も見せてもらえなくて……。でも税理士は協力的じゃないし、誰に相談したらいいかも分からなくて」
そう言って私のもとに連絡が来たのは、関東で出版・印刷業を営む中小企業の経営者からだった。2社あわせて年商は約4億円。2社とも経理を10年以上ひとりの人物に任せきっていたという。
その経理担当者は、かつて両社の母体であったA社の経理だった人物。A社が代表の死去により、B社、C社の2社に分割された際、A社の経理だった人物が自身の会社D社を設立し、両社の経理を“外部の業務委託”という形で一手に請け負うこととなった。
1社月30万円、2社合わせて60万円の報酬で15年にわたり経理業務を担当。会計ソフトの入力、帳簿作成、資金移動、果ては決算書の作成まで……すべてを1人で行い、口座の管理や印鑑の保管も担っていた。
顧問税理士も“経理とツーカーの仲”。実質、申告書にハンコを押すだけの存在だった。
試算表は2ヶ月遅れ、通帳は見せない、資金移動はシングル承認。
この時点で違和感を覚える方も多いだろう。だが当初は、大手取引先との受注が安定していたこともあり、経営者は何も疑っていなかったという。
状況が変わったのは、大手からの発注が減少し、資金繰りの把握が急務になったとき。経理担当者に資料提出を求めたが、何かと理由をつけては先延ばしにする。その様子に疑念を抱いた経営者が、私に相談を持ちかけてきたのだった。
横領調査開始。見えてきたのは”妙に豊かな”経理の生活
水面下で調査を始めるにあたり、税理士から決算書と総勘定元帳の3年分を取り寄せた。だが、ここでも税理士は「D社(経理担当者)の許可がないと渡せない」と主張。押し問答の末、ようやく資料が提出された。
表面的には数字に大きな異常はなかった。ただ、月ごとのD社への振込金額がバラついていたり、支払回数が月に何度もあるなど、細かな違和感は散見された。
また、この経理担当者(D社代表)の生活も妙に“豊か”だった。
・住まいは老夫婦2人には不釣り合いな高級マンション(賃貸)
・年に数回の海外旅行
・身の回りの物品も高級品が目立つ
・周囲には「宝くじが当たった」と話していた
……どうもおかしい。
経理担当者が不在のタイミングでオフィスを訪れ、業務環境を確認させてもらった。個室の中にあった机は鍵がかかっていたが、整理状態は雑然としていた。この規模の会社で経理が専用の個室を使っていたこと自体が異常だ。
通帳、試算表、総勘定元帳、そして生活水準――すべてが“何か隠している”と訴えていた。
調査は続く。だが、重要なのはここからだ。
この横領調査がやがて明らかにするのは、2社あわせて10年間・総額1.5億円にも及ぶ経理担当者の横領。そして、**その結果として私たちが行った「経理業務フローの再構築」**である。
不正は起きた。だが、再構築はできる。
次回:調査の核心──元帳に隠された不正の痕跡
架空発注、還流、私的流用…経理のフローの中に潜んでいた不正の痕跡をどのように洗い出したのか。そして、会社はどのように対応したのか。実務ベースで明かします。
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