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病院の中の小さなコンビニ


    【初仕事の日】


    今、私の前には長蛇の列ができている。
    そして次から次へと呪文を唱える。

    エディー、アイディー、ラクテン、クイぺ。クレカ、クオカにペイペイ、マナカ。ワオン、メルペイ、アップルペイ。ポイントバライにディーバライッ!!

    …いや、呪文ではない。
    お客様が、レジでの支払い方法を言っているだけだ。
    電子マネーとは縁のなかった私には、どうしても呪文にしか聞こえない。

    昼時にはレジ3台のフル稼働で対応しているが、長蛇の列は店の奥まで長く長く伸びて行く。
    ひっきりなしに来店するお客様は、医師に看護師、入院患者に来院患者、付き添いの方や、お見舞いの方々だ。
    点滴スタンドを転がしながら歩いているお客様の横を、車椅子のお客様が横切る。
    目が見えなくて杖をついている人もいれば、ベビーカーを押しながら、小さな子の手を引いているお母さんの姿もある。

    街角のコンビニとは、だいぶ様相が違う店内の感じは、経験したことの無いカオス的な状態。
    そんな中、電子レンジがピーピーと鳴る。中のお弁当を取り出し、お客様に手渡す。ピーピー鳴る。手渡す。とにかく忙しい。
    またピーピー鳴っている。レンジの中を見るが空だ。慌てて他のレンジを覗いて回るが全部空っぽ。ピーピー音はどんどん早く大きくなっていく。

    なんなの⁈ と、軽くパニックになりながら慣れないレジを打っていると、ピーピー音の元が、目の前のお客様の点滴スタンドから鳴っているのに気付いた。
    もしかしてこれ、点滴が終わる音なんじゃないの?
    こんなに激しく鳴るアラームをよそに、お客様は涼しい顔で買い物してる。
    これが病院の中の日常…

    全く知らない世界が頭の中に流れ込んで来て、脳みそがジンジンする。
    バイトが終わる頃にはクタクタに疲れて、抜け殻のようになってしまったが、なんかいい! この仕事、癖になる。
    帰りのバスに揺られながら、一人ニヤつく私だった。


    【仕入れ上手】


    ある日、バイトリーダーのおばちゃんが風車のおもちゃを両手に持ち、微笑みながらウロウロしていた。
    柄の部分に金平糖が入っている、よく見るアレ。
    コンビニの制服を着ていなければ、完全にヤバい人に見える。

    「…何してるんですか?」おそるおそるそう聞くと、
    「ふふふ。夏に向けて仕入れたの。買う?」と言われた。
    値段を見ると、250円とある。
    どう見ても百均で売っていそうな商品に、強気の価格。誰が買うんだろう?

    リーダーは、なぜか嬉しそうにお菓子売り場の一番下の棚に風車を置く場所を作っている。
    小さなガムボールマシーンに、グルグル回る飴、キラキラ光るゼリー。
    そこは子ども達にとっての小さな遊園地。
    そこの一角に、丁寧に並べている。

    「えーん、えーん」と、子どもの泣き声がする。見ると、お父さんらしき人が、小さな女の子を肩に担いで懸命にあやしている。
    「えーん、えーん」
    「ほら、ジュースあるよ」
    「えーん、えーん」
    「ほら、プリンあるよ」
    「えーん。おかーさんがいい! ヤダヤダ、おかーさんがいいよー!」
    お父さん、切ないねえ…と心の中で呟く。
    「やだ! もう降ろして!」と、絶叫する女の子から目が離せない。
    しばらくして、急に泣き声が止んだ。ちょうど、レジからは見えない。
    え? なんで? 気になる。と、モヤモヤしていると、先ほどの女の子がお父さんとレジにやって来た。
    「これ下さい♪」
    手にはピンクの風車。早速、売れとるやん!
    いい仕事するね、 風車くん。

    結局、色違いで五本仕入れられた風車は、夏が終わる頃には全て売れていた。



    【夫婦】


    医療材料の棚が一画を占めている病院内のコンビニ。
    大人用オムツがズラリと並び、尿取りパッドが後を追う。肌着やパジャマ、靴下、パンツ、何種類ものマスク。パッと見、何に使うのかわからない商品も所狭しと並んでいる。
    買い求めるのは、入院が決まった人か、その家族。旦那様が入院するなら、サクサクと奥様が買って行かれるが、その逆となると中々そうは行かないようだ。

    「すみませーん」と呼ばれて、お客様の元に向かうと六十代後半くらいの男性が一人、オムツコーナーの前で佇んでいた。
    「妻が手術をするので、オムツと腹帯が要るって言われたんですけど、どれ買ったらいいの?」。
    よくある問い合わせなので、棚にご案内する。
    「手術用でしたら、こちらのテープ式のオムツになります。サイズは何になさいますか?」
    「どれが良いと思う?」
    「?」
    「わかんないから、選んでよ店員さん」

    いや、そんなのわかんないって。と、思いながらも、「皆さま、下着のサイズに合わせられますけど」。そう言うと、男性は考え込んで「わからない…な…」と呟き「出直すよ」と、店を出て行かれた。

    数時間後、「あ、さっきの店員さんだ。教えてよ」と、声がした。
    振り向くと、先ほどの男性が、車椅子に奥様を乗せて来店してくれている。奥様は、ニコニコしながら、「すいませんねえ。本当にこの人、何にも私のこと知らなくて」と、なんだか嬉しそうに言いながら、テキパキと買い物を済ませた。
    会計の時、車椅子を押した旦那様が、照れ隠しのように、「この唐揚げのやつ、一番美味しいところを、こいつにやって」と言った。何だかこっちも嬉しくなって、「はい。ご用意しますね」と、一番手前から順に取ったものを手渡した。この仕事は、やっぱり癖になる。



    【募集要項】


    ここで働くようになった時のお話。

    ある日、夜中にふと目が覚めた。時計を見ると午前三時。何だか眠れない。ああ…そうだ、仕事を探さなきゃと、スマホをいじる。
    子どもが大きくなってきて、手はかからなくなったが、今度はお金がかかるようになった。
    指をスワイプして行くうちに、一つの求人に目がとまる。

    「コンビニクルー募集」

    よくある求人だ。目を引いたのは、「病院内」と言う部分だった。
    「ホスピタリティのある人を求めています」とある。
    コンビニに対するクールで無駄の無いイメージと逆を行くその言葉が、なんだか気になる。
    ハローワークを通じての求人だったので、窓口が開いたら行ってみようと考えているうちに、眠気の波が戻って来た。

    事務の人の仕事は早かった。
    あっという間に、履歴書持参の面接が二日後に決定する。
    「まだ、旦那にも何も話していないのに、面接が決まっちゃうなんて」と思わず笑うと、
    「こんなに早くまとまるなんて珍しいです。きっと、ご縁があるんですよ」と、微笑みながら言ってくれた。

    こうして何かに導かれるように、大病院の片隅にあるこのコンビニで働く事が決まった。



    【たま子さん】


    日本人は卵が好きな国民だと言う。ここ、コンビニにも卵を使った商品が数多くあると改めて認識したのは、あるお客様がキッカケだ。

    いつも夕方に来て、ゆっくり店内を回って買って行くのだが、必ず卵の入ったものを買って行く。
    定番は、カルボナーラ。そして、二個入りの半熟卵。あとは卵たっぷりのプリン。それにプラスして、温玉うどんだったり、卵みっしりサンドイッチだったりする。
    肌が綺麗で色が白くて丸顔。そして、いつも卵をいっぱい買って行くので、勝手に「たま子さん」と心の中で呼んでいる。歳の頃は、20代中頃だろうか?
    入院患者には見えないので、付き添いなのかも知れない。今日もご来店。
    定番メニューにプラスしたのは、レジ横のフライドチキンとアメリカンドッグだった。珍しい。
    注文する声も沈んでいる。なんだか瞼も腫れているし、疲れている様子だ。
    思わず、「いつもありがとうございます」と言うと、ハッとした表情をして「お腹だけは減っちゃうのよね」と言って、力無く微笑んだ。あれ? 私、やっちゃった?

     たま子さん(仮名)は、母親が末期の癌でホスピス病棟の個室に入院しており、その付き添いでずっと泊まり込んでいると言う情報をパートのおばちゃんが「ここだけの話ね」と、後でこっそり教えてくれた。
    そうだったんだ、たま子さん。

    蛇足だが、ここのコンビニ店員はおばちゃんばかりだ。
    「ホスピタリティ」を募集要項に入れると、こうなってしまうのだろうか?
    親切を通り越して、もはやおせっかいに近いような接客している店員もいるし…。
    店長もおばちゃん。明るく元気なおばちゃん。
    おばちゃんだらけの中で、おばちゃんの私は居心地良く働いている。




    【雑誌】


    昔、コンビニの本棚には「成人向け雑誌」と仕切られたコーナーが、トイレの付近にあった。
    ギラギラしたオーラを放つ表紙が、そこだけ異世界を作り出していて怖かったのを思い出す。
    社会の変化に伴い、今では消えてしまったそのコーナー。
    今もその名残としてか、トイレ付近の棚にはちょっとエッチな本が置いてあったりする。
    (最近では、本の取り扱い自体が無いコンビニもあるけれど)

    私の勤めるこのコンビニには、その手の本が置かれていない。
    置いてあるのは、クロスワード、間違い探し、ナンプレなどの脳トレ系がズラリ。料理のレシピ本も何故かとても多い。
    健康ノウハウ本があるのは、いかにも病院らしいが、般若心経の写経本や遺産相続の本が置いてあるのは、いささか踏み込み過ぎではないかと思ってしまう。
    「良い病院の見分け方」なんて雑誌まで置いてある。
    この発注は、病院にケンカを売っていると捉えられないだろうか?

    不思議に思い店長に聞いてみると、本と雑誌は、店が発注をかけているのではなく、自動納品されているという。
    それを陳列して、売れないものは返品する。
    ただし、納品されたもの全てを並べるスペースは無いので、ある程度は店側でチョイスしているとのこと。

    ある時、バイトリーダーが本を棚から外していた。新しい号との差替えはもちろんだが、ギラギラエッチな表紙の雑誌もよけている。
    聞くと、「患者さんが、元気になり過ぎちゃうからね」と言って微笑んだ。
    なるほどね…。確かに、大部屋で元気になっちゃったら、大変だもんね。
    察し。



    【シマエナガだんご】

    この店は、店員が多い。
    店長がいて、リーダーがいて、レジに3人いて、売り場に1人。
    更に厨房の中に2人いる。
    全部おばちゃんだ。ここには色んな種類のおばちゃんが生息している。

    ごく稀に、このおばちゃん全員がレジの内側に集合してしまう事がある。
    もう、ぎっちぎち。
    客側から見たら、どう見えているんだろう。
    ああ、あれか。シマエナガの。

    …そんなには、かわいくないね。



    【チャレンジャー】

    奇妙な商品が入荷した。
    「ドレッシングをドリンクにしちゃいました」
    みたいな、実験的なやつだ。

    こんな狂った商品、誰が買うんですか? と聞いてみたら、
    「消防隊の人達が、そういう系をよく買って行くのよ」と、リーダー。

    普段は、仕事終わりにジュースやスイーツを何人かでキャッキャしながら買う、かわいらしい姿が見られる消防隊員の方々。
    チャレンジするべきものがそこにある時には、目の色が変わるのだろう。
    常にあらゆる状況と戦っておられるのだなと、変に感心。

    そういうリーダーも、ゲテモノ商品好きだ。この人は、一体何と戦っているのだろうか?


    【コンビニ界のパラダイス】

    レジで、「タバコある?」と聞かれた。
    「申し訳ございません。病院内ですので、お取り扱いがございません」
    そう答えると「そっか…」と、お客様はうなだれて帰って行った。
    その後ろ姿に、すみませんと心でつぶやく。

    コンビニのレジ奥、タバコが置いてあるその場所に、ずらりと並んでいるのは「入院検査食」。
    大腸を検査する前日に食べる、朝昼晩の三食入りの商品。
    腸の中の食べカスを残りにくくし、大腸カメラを見やすくするという専用食だ。
    そればかりが、びっしりと積み上げられている。

    考えてみると、
    タバコの銘柄や番号を覚えなくていい。
    お酒も置いてない。
    トイレ掃除とゴミ箱掃除も無い(病院のを使っているので)
    常連客(医師、看護師)がメイン。しかも、病院という職場の延長みたいな感じなので、皆さん丁寧で優しい。
    フリーのお客さんも入院患者や、その家族、付添いの方々なので、優しい人が多い気がする。
    早朝や夜は閉まっている。

    コンビニバイトで大変だと聞くことの、ほとんどが無い。医療用品は、覚えなきゃいけないけれど。あ、あとは商品の特別な用途も。

    例えば、台所でよく見かける500mlの計量カップ。なぜか医療系の棚に並んでいる。 不思議に思って店長に聞くと「検尿用だよ」と、当たり前のように答えた。

    検尿の専用品を置いてるわけじゃないんだ…。
    「 ”お米も計れます” って、袋に書いてあります」そう言うと、「うちでは用途が違うからね〜、ははは」と、店長は笑った。


    【脂汗をかきながら】

    腰が痛い。昨日から腰の痛みがひどい。だが、働く。
    だって、シフト入れちゃったから。
    しかし、痛みに気を取られて上手く動けない。脂汗まで滲み出てくるし。

    気付けばここで働き始めて2年が過ぎた。
    最初の頃はミスの連発で、店長の顔をよく引き攣らせていたものだが、今では自然と体が動く…はずなんだけど。

    動作の一つ一つに痛みが加わって、頭が働かない。
    今も、冷やし肉そばを買われた常連のお医者様に、「温めますか?」と聞いて、真顔で考え込ませてしまったところだ。
    その様子を見て、「あっ! これ、温めちゃいけないやつですね」と慌てて言う。
    次のお客様には、コーヒーカップを渡し忘れてしまった。
    でも、お客様はニッコリしながら「カップ、頂けますか?」と、丁寧に聞いてくれる。「失礼しました」と謝ってカップをお渡しした。やれやれ。

    働き始めた頃、あまりにミスが多い自分に嫌気がさして泣いてしまった事を思い出す。
    「また、店長に怒られる」と泣く私に、
    「向き合うのは、お客さん。店長じゃないよ」と、前を向かせてくれたパートのおばちゃん。

    思わず「師匠と呼ばせてください!」と言っていた。
    何? このノリ。まるで部活。青春物語みたい。

    師匠、元気で働いておられるかな?
    相変わらず、おせっかいな接客しておられるかな?
    あの時、親身になって仕事を教えてくれて、ありがとう。

    シフトが合わなくなって全く会えないけれど、ちゃんと仕事続けているよ。
    ミスしても大丈夫なくらい、強く、図太くなったよ。

    …なんか、空に浮かぶ師匠の顔に向かって、叫んでいる漫画の主人公みたいになって来てしまった。

    「第一部完」ってこと!?




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    【病室にて】

    うとうとし始めた母を後に、そっと病室を出る。
    いつまで続くんだろうと言う思いと、このまま続いて欲しいとう言う気持ちがないまぜになり、涙になって溢れた。
    ソファーベッドにずっと寝転んで本を読んでいた私の身体はガチガチになっている。

    外の世界を求めて、病院の片隅にあるコンビニを目指した。
    明るい店内には、人の気配が充満している。
    その様子に、病室の中の方が夢の世界みたいに思えてきた。
    色とりどりのお菓子、ジュースにスイーツ。様々な種類のお弁当。
    レジ横のホットスナックからは、いい匂いが漂ってくる。
    母の死が刻一刻と迫っている状況でも、無常にもお腹は減る。
    カルボナーラ、ゆで卵、プリン…
    いつも買う商品を、なぞるようにカゴに入れているのに気付く。
    病室での変わらない風景を見るようだ。
    振り払うように、アメリカンドッグとフライドチキンを頼んでいた。


    母の癌は進行がとても早かった。大学を卒業して、就職もせずにフラフラしていた私は、その日から家事手伝いを担った。
    手術の甲斐も虚しく再発した癌は手のほどこしようが無く、ホスピス病棟へと入院が決まる。
    私の役割は、そこでの付き添いに変わった。
    母の横にいて、呼ばれたらすぐ返事をしてあげる。
    そんな役割になって、もう一ヶ月。

    …いつの間にか食べ終わっていた。油で重くなった口をサッパリさせようとコンビニに戻り、目の覚めるような水色の炭酸ジュースを買ってみた。

    ここでは、自分をさらけ出せる。
    病室とは違って暗い顔もできるし、食べたいと言う欲望も出せる。


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    【うらしま太郎さん】

    久しぶりの仕事だ。
    腰の痛みがひどくて、一週間ほど休んでいた。
    たった一週間だが、この業界は一週間サイクルで新商品が入れ替わる。
    棚の景色が違う。ホットスナックも新しい味が出ているし、何かのキャンペーンも始まっている。完全に浦島状態。

    でも、身体は覚えていた。レジの画面のボタンの位置も、自然と指が吸い付くように動く。箸、おしぼりも必要分だけ考えずに出せている。
    「ポイントカードはお持ちですか?」「お弁当は温めますか?」「レジ袋は、ご入用ですか?」と、口も勝手に動く。今までで一番早くお客様を捌けている気がする。絶好調だ。

    それにしても、一万円札で支払われるお客様が多い。
    そうか、今日は15日だ。
    偶数月のこの日は、年金支給日。どおりで年配のお客様が多いと思った。
    それはいいけど、この調子だと…やっぱり。

    レジからガーッと音がして、千円札が大量に吐き出されたのが分かる。
    「すみません。お釣り、細かくなりますけど」と、数えながら渡す。
    五千円札の釣り銭が切れたんだ。
    この調子じゃ、千円札もすぐに足りなくなりそう。
    店長に言って、お札の両替を補充すればいいのは分かっている。
    でも、今日こそ出来る気がする。

    強く念じる…「五千円札よ、来い!」
    心の中で何度も念じる。
    いい年して、こんな事してるなんて微塵も思わない。
    今までも、こうやって念じていて効果なんてなかったけれど、今日こそ行ける気がする。

    おばはん界のスーパースター、すち子さんも言っている。
    「女性が一番輝く時、それは…おばはん!!」と。輝け私。

    目の前のおじいさんが財布から一万円札を取り出そうとする。
    「NOーっ」と、心の中で叫ぶ。
    その指が、じわりと他のお札に動いて行った。そして、取り出したのは、五千円札。
    思わず「ありがとうございます。助かります」と言っていた。

    すち子さんのおかげかどうか分からないけど、その後は不思議なほど五千円札のお客様が多かった。私、すげー。店長、給料上げてー。

    この能力、履歴書の特技欄に書けるか? と、つい考えてしまう。
    …そんなこと書いた時点で不採用だろうな。

    なので、自分の中だけで思おう。
    五千円札を引き寄せる力…それは、私の特殊能力。



    【おせっかいなコンビニ】

    おにぎりを二つ買われた年配の男性客が、投げるように千円札をカウンターに置いた。

    その態度に少しモヤっとしながら、お客様の方を見る。
    手に持った財布の中、コイン入れが小銭でジャラジャラしている。
    それを見て、「細かいの、使われますか?」
    つい、おせっかいが発動してしまった。

    「え? いいの?」
    パッと笑顔になったお客様は、釣り銭のトレーにお財布の小銭を残らす出した。
    トレーは、小銭で山盛り。
    「うちのおにぎりはそんなに高くないですよ」
    思わずそう言って、笑ってしまった。
    お客さまも笑って、「目が、もうあんまり見えんもんだで…」と言った。
    なるべく細かいお金を整頓するように数え、お勘定をする。

    「ああ、軽くなった。心も軽くなったよ」と、ドラマみたいなセリフをおっしゃい、杖を小さくヒョイと持ち上げてお客様は帰って行かれた。

    「見たよ」
    振り向くと、いつの間にかリーダーが立っている。
    そして、それだけ言って去っていった。…本当、何なんだ。

    このコンビニには、いろんなお客様が来る。
    外から見ただけでは分からなくても、困っている方がいっぱい来る。
    困っているのを、知られたくないと思っている方も、寄り添って欲しくないと思っている方も来る。

    接客の距離感を見誤ってしまうこともあるけれど、気を付けて、慎重におせっかいをする。

    点滴スタンドのお客さま、今日はまだピーピー鳴ってないな。
    車椅子の方、今日は病棟スタッフに付き添われて来てくれている。
    ベビーカーを押すお母さんと手を繋いでいる女の子の顔、すごく嬉しそう。

    病院の中にある、小さなコンビニ。
    この中では、どんな人も堂々と自分らしくお客様であって欲しい。
    そんな願いを込めて、今日も私はレジのカウンターの中からお客さまを見つめている。




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