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乗組員の募集について

    女子高生の頃、私には夢があった。それは、潜水艦の乗組員になること。
    必ずなれると固く信じていた。その時に夢中だった潜水艦漫画の影響だ。単行本のカバーを外すと海図が載っていて、主人公の潜水艦が航行している位置が記されている。私の心もそこにあった。授業中、ノートにする落書きは、潜水艦とその内部でいっぱい。
    そして、乗組員になるためには物理が必須と思い込み、理系を選択する。高校2年生の時だった。
    好きになったら、とことん突き進んでしまう性格の私は、自分の適性を考慮することなど微塵もしなかった。恐らく、親や教師が何を言っても聞かなかったのだろう。ただ、妄想だけで突き進んでいた。頭の中はすでに乗組員、クルーの一員。やったー!

    得意だった国語を封印したことに気付いたのは、理系の授業に全くついて行けなくなってからだった。赤点のオンパレードに焦り、ようやく勉強に取り組む。特に苦手だった数学。懸命に公式を覚えて授業に臨むと、何とか理解できるレベルにまでなれた。やれやれと安堵した時、教師が言い放った言葉。「ここが数学の入り口です。ここから先に数学の世界が広がっています。一緒に冒険しましょう!」
    唄うように、朗らかに、そう言った。

    …必死になってようやく理解した地点が、皆にとってのスタートラインだったと知る。敢えなく撃沈。覚えた公式もテストの時には頭が真っ白になってどこかに消えて行ってしまった。安易に理系を選択した、頭がお花畑な自分を呪ったままクラスに居場所が無くなる。自分に自信が持てず、入っていた剣道部にも行けなくなり、ついには辞めてしまった。
    そんな黒い歴史が、仕事をしている最中に急に頭の中に蘇った。

    阿呆だ。我ながら、どんな高校時代だよ。乗組員になりたいだって?
    それが夢だったって?!

    夢なんかじゃない……だって今、私はクルーだもの。

    コンビニクルー募集の求人から始まったこの仕事。
    レジカウンターの内側で、他のクルーとギリギリぶつからないように、どんどん仕事をする。機敏に動く。考える。耳を澄まして、声をかけ合いながら、助け合う。
    油断していると客の海に沈んでしまうぞ。落ち着いて次に来る情報を読み取れ。箸とスプーンとストローが必要。
    艦長…いや、店長が呼んでいるので小走りで向かう。状況を報告しつつ、次への備えの指示を受ける。
    「肉まん6個、ピザまん2個、あんまん3個、至急補充せよ」
    「了解しました!」

    高校生の頃の私の夢を叶えたのは逞しい妄想力だった。くくくと、ニヤけながらメモってると「見たよ」と、副艦長…バイトリーダーの決め台詞が炸裂した。満面の笑みで「何をですか?」と返すと、「こわいよう…」と言って去って行く。
    キャラがぶれない、描きやすい人だ。そもそも、コンビニのことをエッセイにしようと思ったのは、この人がきっかけだった。この独特の面白さが表現したくて書き始めたら止まらなくなった。書いているうちに次々とエピソードが見つかり、書き続けているうちに自分が言いたかったことが、ぽっかりと顔を出す。

    ああ、そうだったんだ。私はそれが言いたかったんだ、と涙が出た。
    そんな経験があって、書くことが一際大切なものになった。自分の思いもよらない考えが、頭の中には眠っている。それに出会うための行為。そういう位置付け。
    もちろん、勢いだけで書くときもあるけれど、今、やりたいのは、そういう文章。なかなか到達できないけれど、目指したい場所。






     
     
    毎週月曜朝7時に、エッセイをお届け。 それ以外に出ちゃった時は、その都度ぶっぱなします

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