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シュンジさんのメガネ⑤(最終回)|アラフォーサラリーマンの人生再肯定ストーリー

    シュンジさんは家に引きこもりました。
    押し入れをピッタリ閉めて、中でロウソクを点けました。

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    昔はいやだいやだと思っていたじめじめした布団も、今は奇妙に懐かしいのでした。やっぱり私はこうして引きこもっているのが似合っているのだなあ、などと、ジーンとしてしまいました。

    「あなた、お食事ですよ。今日はお抱えのシェフが腕を振るったフランス料理ですよ。出ていらっしゃいな」

    奥さんがそう呼びかけますが、シュンジさんは押し入れを開けません。歪んでしまった奥さんの顔も家の様子も見たくなかったし、それに、押し入れの隅から、失くしたと思っていたオモチャが出てきたのが嬉しかったのです。

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    それは幼いころ好きだった漫画のキャラクターの人形でした。ヒーローになりたくて、なりたくて、いつも一番に駆け出すけれどまっさきにやられてしまうキャラクターでした。

    シュンジさんは彼を胸に抱きながら、一生懸命考えました。どうしたらこのメガネが外れて、以前のまっすぐな世界に戻れるだろうかと。
    しかし彼はこうも思うのでした。

    「いや……あの魔法少女が言ったように、私がいた世界が、まっすぐだったことなどあるだろうか?」

    シュンジさんはつらつら思いました。案外、私は前からずっとこんな世界にいたのではないだろうか?

    あの能面のお化けたちのように、みんながみんな、仕事は人任せーー自分ではできもしないことを下請けの業者さんに丸投げし、成功するのはあたりまえ、ちょっと失敗でもしようものなら、まるで拷問のようにギリギリと絞りあげる。

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    得意なことと言ったら数字のつじつま合わせばかり、都合の悪いことは隠して、さも自分が実績をあげているかのようにつくろう。

    プロジェクトを大炎上させた人間がプロジェクト管理の極意を語り、会社に何10億という損害をもたらした者が、イエスという魔法の言葉だけで出世する……その一方で報われないのは、あの人間の顔をした奴隷たちばかりなのでした。

    「昔は私も、あの奴隷たちのような存在だったのになあ」
    シュンジさんは思います。

    「とっても辛かった。辛かったけど、あの頃の私はちゃんと自分の顔をしていた」
    シュンジさんはロウソクの炎に照らされた自分の顔を鏡に映してみました。そこには皆が「イケオジ」と呼ぶ彼が写っていました。

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    「けど、私は元の顔に戻りたいんだ」
    シュンジさんは強く願いました。

    「イケてなくてもいい。毎日しいたげられてもいい。上司に却下されても、部下に却下されても、カエルに却下されても、メダカに却下されても、ウケグチノホソミオナガノオキナハギに却下されてもいい。でも、私はやっぱり、自分自身の顔に戻りたいんだ。不器用でも、一生懸命がんばっていたまっすぐな自分の顔に……」

    そのとき、シュンジさんの両目から涙がこぼれました。

    するとどうでしょう!

    その涙と一緒に、どうしても外れなかった魔人のメガネがポロリと落っこちたのです。

    「わっ!」

    鏡を見れば目はあのしょぼしょぼの3のマーク、自分の顔なのによく見えません。
    だけどこれが私の世界なんだと、シュンジさんはしみじみと喜びました。

    押し入れがガラリと開いたのはそのときです。

    「ちょっと、いつまでジメジメしてんのよ! 布団を干すんだから、どいてよ!」

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    そこにいたのは、あの懐かしい奥さんでした。
    シュンジさんは押し入れから蹴転がされ、そのまんま会社まで弾みながら転がっていったのでした。

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    出社してみると、上司も部下もまた以前のような塩反応でした。
    しかしシュンジさんは喜びました。だったら、自分が頑張ってみんなを振り向かせればいいと思ったのです。そしてそれは素晴らしい毎日になると、ハッキリ予感できたからです。

    帰り際、シュンジさんはあの骨董品店に寄ってみようと思いました。

    しかしなぜでしょう? 確かにあったはずの場所にお店はもうなく、ただ、黄ばんだ表紙の雑誌だけが一冊、風にページをそよがせていました。

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    今日もどこかの誰かが浮気したとか、これは戦争ではない,特別軍事作戦だとか,もっと頑張れとか頑張らなくてもいいだとか、そんなことばかりが書いてありました。近所の公園では、夏だというのに桜の花びらから死体が出たそうです。

    「まったく、妙なことばっかりだ」
    シュンジさんは雑誌を拾い、丸めてゴミ箱に放り投げました。

    「ま、私は私なりに行くしかないな」

    シュンジさんはそう言って歩き出し、すぐにコケ、ドブにハマり、そのうえハチに刺されました。

    でもラッキー、と思いました。だってハチに刺されるのはこれで2年ぶり18回目ですが、まだアナフィラキシーショックにかからずに済んでいるのですからね。

    シュンジさんは笑います。
    明日もまた奥さんに蹴られて、会社まで転がってゆくことでしょう。

    けど、転がるのも嫌いではありませんでした。

    (完)



    まだの人は第一回から読んでね!

    元ネタ漫画「女優のえこさん」もよろしく!

     
     
    ✒️絵も文も、デジタル手書きにこだわる創作屋 最近ほとんど自分の思考整理のために書いてます 笑

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