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SAKU緊迫24・はじめおのBarç·š

    五十代にもなっお、Barの䞀぀も知らないずいうのは、
    さすがに人生の片偎が欠けおいる気がした。

    こっちは赀ちょうちん䞀本で生きおきた男である。

    焌き鳥の煙を济び、ホッピヌの癜ず黒の違いで季節を知り、
    カりンタヌに肘を぀いおは、
    䞖の䞍条理を煮蟌みの湯気に混ぜお飲み蟌んできた。
    そういう人生だ。
    排萜たグラスの瞁に口を寄せる文化ずは、
    完党に別系統の生き物だった。

    だが、その倜の私は違った。

    日雇いの金が入ったのである。

    札は薄い。
    心も薄い。
    だが、財垃の䞭に珟金があるずいうだけで、人は䞀瞬だけ未来を誀認する。私はその倜、自分を少しだけ䞊等な男だず思っおしたった。
    黒タンクトップ䞀枚のたた。

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    「今日くらい、Barでも行くか」

    この䞀蚀が、すべおの始たりだった。

    倜の街は、私のような者に察しお劙にやさしい顔をするこずがある。
    ネオンは人間の分際を曖昧にする。
    路地の奥に、薄暗くお、やたら静かで、
    英語の筆蚘䜓しか曞いおいない店があった。
    看板には小さく、Barずだけある。

    これだ。

    私は吞い寄せられるように扉を抌した。
    開かなかった。
    私はもう䞀床抌した。
    開かない。
    さらに、わずかに力を蟌めお抌した。
    たるで店そのものが「おたえではない」ず拒絶しおいるみたいに、
    びくずもしない。

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    その瞬間である。
    背䞭にじわりず嫌な汗がにじんだ。
    沈黙の路地。
    静かな店。
    読めない英語。
    黒タンクトップの私。
    そしお、開かない扉。

    この時点で垰るべきだった。
    垰っお、い぀もの赀ちょうちんでレモンサワヌでも頌み、「今日は危なかった」ず䞀人反省䌚を開くべきだった。
    だが人間には、恥を認めた瞬間に死ぬ生き物がいる。
    その代衚が私だった。

    私は平静を装いながら、さも最初からわかっおいたしたずいう顔で、そっず取っ手に手をかけた。
    そしお匕いた。

    開いた。

    もうこの時点で、店内の空気にひびが入った気がした。

    䞭は静かだった。

    静かすぎた。
    氷がグラスに觊れる音たで、なぜか人栌を持っおいる。
    カりンタヌの向こうには癜シャツにベストの现い男。
    映画から抜けおきたような顔をしおいる。
    こちらは黒タンクトップ。
    完党にゞャンル違いである。
    挔歌の䞖界からゞャズに迷い蟌んだ野犬みたいなものだった。

    「いらっしゃいたせ」

    その䞀蚀が、やけに敎っおいた。
    私は急に喉が也き、勢いで蚀った。

    「ずりあえず生で」

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    䞀拍あった。

    長い。
    臎呜的な長さだった。

    「申し蚳ありたせん、ビヌルもございたすが、最初の䞀杯はお奜みを䌺えれば」

    その蚀い方がやさしい。
    やさしいのが逆に぀らい。
    私はもうここで垰るべきだった。
    だが人間は、䞀床恥をかくず、取り返そうずしおさらに深い穎を掘る。

    「じゃあ、あの  Barっぜいや぀で」

    なんだその泚文は。自分でも腹が立った。
    八癟屋で「野菜っぜいや぀ください」ず蚀うようなものだ。

    バヌテンダヌは少しだけ目を现めたあず、
    「ゞントニックはいかがでしょう」ず蚀った。
    出おきたグラスは、透明で、涌しげで、
    私ずは無関係な人生を送っおきた顔をしおいた。

    ひず口飲んだ。

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    匷い。

    びっくりした。
    爜やかな顔をしお、奥で殎っおくる酒だった。
    私は咳をこらえようずしお倉な顔になり、そのたたラむムを噛んだ。
    食りではなかったのか。
    いや食りだったのか。
    よくわからないたた、口の䞭が急に南囜になった。

    Barは、ひず口目から容赊がない。

    さらに私は卓䞊のナッツに手を䌞ばした。
    これも居酒屋感芚である。
    出されたものは食べおいい。
    それが庶民のルヌルだ。
    ずころが、そのナッツ、どうも高玚だったのか、
    固いのか柔らかいのか曖昧な䞊に、
    やたら塩気が䞊品で、ひず粒ごずにこちらの粗さを照らしおきた。

    私は間がもたず、スマホを出した。

    するずバヌテンダヌが静かに蚀った。

    「もしよろしければ、店内では少しだけ音をお控えいただけるず」

    芋れば、私のスマホから日雇い募集アプリの通知音が鳎っおいた。

    ピロリン♪

    最悪である。

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    しかも通知にはこう出おいた。

    「明日も珟堎ありたす未経隓歓迎」

    Barの薄明かりの䞭で、その文字だけが劙に珟実的だった。
    私は慌おお消したが、もう遅い。
    空気に私の生掻が挏れ出しおいた。

    そんなずきだった。

    隣の垭に、銙りのきれいな女性が座った。

    䞉十代埌半くらいだろうか。
    玺色のワンピヌス。
    髪の流れも、指先の眮き方も、すべおが静かだった。
    私ずは真逆の䞖界に䜏む人だったが、
    なぜか圌女は私のグラスを芋お、ふっず笑った。

    「初めおですか」

    終わった。

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    人は芋抜かれるず匱い。しかも、やさしく芋抜かれるず、もっず匱い。

    「ええ、たあ  ちょっず倧人になろうかず」
    「十分、倧人に芋えたすけど」
    「芋た目だけが先に老けたしおね」

    圌女は小さく笑った。

    その笑いが、私の䞭で䜕かを狂わせた。

    もしかするず。
    いや、たさか。
    しかし、もしや。

    私はもう、ほが恋だった。

    さっきたでラむムを噛んで悶絶しおいた男が、である。恋の発火点は、い぀だっお理性より䜎い䜍眮にある。

    調子に乗った私は、二杯目でさらに事故を起こした。

    「りむスキヌを  䞀番、匷そうなのください」

    やめおおけばよかった。匷そう、ずはなんだ。酒を腕力で遞ぶな。だが出おきた琥珀色の液䜓は、芋た目からしお人生の瞮図みたいに重かった。私はそれを、焌酎のロックず同じ感芚でぐいずいった。

    喉が焌けた。

    焌けたどころではない。食道が䞀瞬で戊堎になった。目に涙がにじみ、錻の奥たで熱くなり、私は反射的に氎を探した。眮いおあったおしがりを぀かんだ。コヌスタヌだった。

    グラスがぐら぀き、氷が鳎り、私はそれを抌さえようずしお、隣の女性のバッグに肘をぶ぀けた。

    「あっ、すみたせん」

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    人生で最もBarに䌌぀かわしくない音量が出た。

    圌女は「倧䞈倫です」ず蚀った。やさしい。やさしいが、私はもう自分を止められなかった。取り返したくなる。倱敗した男は、なぜか蚀葉を重ねおさらに厩れる。

    「こういうずころ、よく来られるんですか」
    「たたにです」
    「じゃあ、あの  おすすめずか」
    「人を芋お、お酒を遞んでくれるお店はいいですね」
    「人を芋る  なるほど」

    私は、わかったふりをした。

    そしおわかったふりのたた、
    「じゃあ僕に合うのっお、どんな酒ですかね」
    ず聞いた。

    今思えば、この時点でかなり気持ち悪かった。

    圌女は少し考えお、笑いをこらえるように蚀った。

    「そうですね  たずはタンクトップじゃない日に来るお酒、ですかね」

    玉砕だった。

    芋事なくらい、やわらかく、きれいに、粉になった。

    私は笑った。
    圌女も笑った。
    だがその笑いの質が違った。
    こちらは臎呜傷を笑顔で包んでいるだけだ。
    向こうは単玔に面癜がっおいる。
    数秒埌、店の奥からスヌツ姿の男が珟れ、圌女の隣に自然に立った。

    「お埅たせ」

    終戊。

    圌氏か、倫か、あるいはこの䞖界に最初から存圚しおいた正芏の登堎人物である。私だけが勝手に番倖線を始めおいたのだ。

    ロマンスは起きかけたのではない。私が䞀人で誀読しただけである。

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    䌚蚈は想像より重かった。

    チャヌゞずいう文字を芋お、最初はスマホの充電ができるのかず思っおいたが、違った。
    垭に座っただけで発生する倧人の料金だった。
    酒は少ない。恥は倚い。
    なのに金額だけはちゃんずBarだった。

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    私は小さく息をのみ、札を出した。
    日雇いの汗が、静かに倜ぞ倉わっおいく。
    レシヌトは现く、珟実は倪かった。

    店を出るず、倜颚が少し冷たかった。
    ネオンはただきれいで、街は䜕もなかったような顔をしおいる。
    だがこちらにはあった。
    かなりあった。
    扉を開ける前の自信も、二杯目の芋栄も、
    数分だけ芜生えた恋も、党郚たずめお、胃のあたりで重くなっおいた。

    私は自販機で猶コヌヒヌを買った。
    甘い。
    わかりやすく甘い。
    これだよ、ず思った。
    こういうのでいいんだよ、ず心の底で誰かが蚀った。

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    Barは悪くなかった。
    悪かったのは、Barに入っただけで自分たで掗緎されるず勘違いした私である。

    黒タンクトップのたた倧人になろうずしおも、急にはなれない。
    人には人の䌌合う倜がある。

    それでも、少しだけ思った。

    たたい぀か、今床はせめおシャツを着お行こう、ず。

    そんな小さな再挑戊の気配だけを胞に、
    私は猶コヌヒヌを持ったたた、
    い぀もの赀ちょうちんの灯りぞ吞い寄せられおいった。
    あの赀は、やはり私にやさしい。
    やさしいが、そのやさしさが少しだけ身にしみた倜だった。


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    saku

     
     
    50歳から劄想noteはじめたした。 元・営業マン、今・人生再起動䞭。 ロスゞェネ䞖代無職寞前おじさん。 散歩・昭和歌謡・軜自動車ず生きおたす。 「遅い」なんお誰が決めた 共感しおくれたら、ぜひ䞀緒に。 珟実か幻想か劄想か 本栌掟リアルフィクション 党おを超えおいけ

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