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Photo bysabiki_ao96

【連載小説|ホラー】第五章:桃色鸚哥の羽化とデジタル毒素 第二話/Ma chérie



    玖留美は住んでいるマンションへ帰宅すると、ブランドバッグを乱雑にソファに放り投げた。開けっ放しの口から、財布やら化粧品やらがバラバラとこぼれる。しかし玖留美は気にする様子もなく、スマホをせわしなく操作していた。

    「うーん、なんでアップできないかなぁ…バイト数でかすぎ?」

    少し苛立った様子で言いながら、もう一度インスタの投稿ボタンをタップする。しかししばらくして表示されたのは、先ほどから何度も見えているエラーの文字であった。

    「せっかく招待状もらったから自慢しようと思ったのに。ま、いっか」

    釈然としないながらも、一旦投稿は諦めたらしく画面から目を離す。
    次に彼女の視界に入ったのは、テーブルの上に置かれた招待状と星型のキャンディ。スマホを片手に持ったまま、ひょいとキャンディをつまみあげる。キャンディという口に入れるものとしては妙に鋭利でざらついているが、モモイロインコのごとく美しいピンク色をしていた。

    「あの店長さん、結構見る目あるんじゃん。SNSやってないとか言いながら、ホントはこっそり私のことチェックしてたりして?」

    ふふん、と得意げに鼻を鳴らし、キャンディを口に放り込む。
    舌の上で転がしてみると、パキパキ、とまるでガラスにひびが走るような音を立てて弾けた。所謂ポッピングというやつだろう。後を追うように、甘ったるい桃の味が口に広がった。

    それと同時に、玖留美の脳内に甘美な映像が再生された。
    インスタのフォロワー数が爆発的に伸び、無数の目が彼女を見つめてはコメントを残していく。それは玖留美が今最も夢を見ている、インフルエンサーとしての『バズ』の光景であった。

    「近いうちに、私こうなれるってこと?誘われたのも七夕だったし、願い叶っちゃうかも♪」

    ますます玖留美はご機嫌な様子で、キャンディを味わいながら鳥かごの前に立った。モモイロインコのピーチが、首をカクカクと動かして玖留美を見ていた。

    「これもピーチちゃんのおかげかなー。前に比べるとフォロワーも閲覧数も増えてるし、インコ飼って正解じゃん。あ、あのたっかいエサあげなきゃ」

    思い出したらしく、無造作にバッグに突っ込んでいた鳥用のフードを取り出す。それを見た途端、ピーチが『はやくちょうだいよ』と喋り出した。

    「わ、ピーチちゃんのおねだりなんて初めてかも」

    玖留美は驚きつつも、フードをいつもの皿に入れてやる。ピーチはばさばさと翼をはためかせた後、くちばしで一心不乱にフードをくわえ始めた。いつもと違うがっつく様子を見た玖留美が、早速スマホでその様子を撮影する。

    『今日はピーチちゃんへのごほうびで、いつもよりちょっとお高めのエサを買ってきました!ピーチちゃんも喜んでるっぽい✨』

    インスタにアップすると、そのそばからすぐにリアクションがつき始めた。『イイネ!』はもちろん、コメントが流れるように増えていく。このスピード感なら、いつもより多くのリアクションが見込めそうだ。

    玖留美はインスタを閉じ、スマホをテーブルに置く。散らばったバッグの中身をようやく片付けると、その中から今度は異なるスマホを取り出した。
    先ほどまで使用していたブランドのスマホケースを装着したものと違い、何もつけていない質素なシルバーのiPhoneであった。

    画面を起動すると、数十件のアプリ通知が未確認として表示された。まずはLINEを開き、届いているメッセージを一つ一つ確認する。カレンダーアプリとにらめっこをしながら、すべてのメッセージに手早く返信した。すぐ既読になるものもあれば、まるで予見していたかのようにもう返事をする人もいた。それらを一旦無視し、今度は同じiPhoneでインスタを開いた。自分のページではなく、他の人たちが投稿しているタイムラインを覗く。

    『ロングコートチワワのむぎ』『マンチカンのルナ』『ジャンガリアンハムスターのココ』…玖留美のタイムラインを埋め尽くすのは、彼女と同じく動物たちをメインに投稿しているインスタグラマーたちのアカウントであった。そのどれもが玖留美よりも格段に多いフォロワー数を有しており、リアクションも文字通り桁が違っていた。

    「………」

    玖留美はしばらくそれらを眺めた後、彼もしくは彼女たちのアカウントに次から次へとコメントを残していく。その表情は真顔であったが、大きく見開いた瞳にはギラギラとした熱量を宿し、ぶつぶつと小言を洩らしている。
    指が攣るほどのコメントを送信したところで、自棄になったようにiPhoneをソファに放り出した。

    「シャワー浴びよ、明日もまた忙しいし。何が何でも定時で上がってやんなきゃ」

    ひとりごちて、足早にバスルームへと向かう。その間も、二台のスマホは青白い光を放ち、通知音を響かせていた。
    その画面の光を浴びながら、ピーチが鳥カゴの中で激しく羽ばたく。狭い檻を飛び回り、首をカクカクと揺らしながら、鋭い声を上げた。

    それは、つい先ほどまでこの部屋で、玖留美が画面に向かって吐き散らしていた声の、完璧なレプリカだった。

    『これっぽっちなの?ふざけんなよ』

    第三話へ続く


     
     
    AIのGeminiと会話しながら、ミステリー・ホラーの物語を執筆しています。 最近はショートショートやAIイラストも有り。 上記の2ジャンルと猫をこよなく愛する。 ※Amazonアソシエイト参加中です。

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