
修司|エピローグ 【完結】
「今日、カレー食べない?」
「え?」
「また一緒に、カレー作って食べたい」
「いいな」
「ルーとかあると思う」
二人でキッチンに立った。
順番に手を洗って、修司がお米を洗っている間にわたしが材料を切った。
「…炒めるの、やりたい」
炊飯器のスイッチを入れた修司が言った。
「じゃあ、お願いね」
わたしは隣で見てることにした。
ふとカウンターの隅に目が止まった。
「あれ?タバコどしたの?」
「この前まであったじゃん」
「…もう要らないから」
「そうなの?」
「あ、水足そっか」
と言って、修司に水を手渡した。
しばらく鍋を混ぜていた修司がぽつりと言った。
「俺、一人で作った時こんなに煮込んでない」
「だろうね」
と笑った。
「…見た感じ、いけてた」
「バカじゃん」
「うるせぇ」
修司の出して来た甘口と中辛のルーを二人で一緒に落とした。
「でもさ」
「あれ美味しかったよ」
「…隠し味に愛情たっぷり入れた?」
鍋を混ぜる修司を、わざとらしく肘で小突いて聞く。
「…いれてねぇよ」
そっぽを向いた耳が赤かった。
「ふーん」
「じゃあ、わたしの勘違いか」
「嬉しかったのにな」
反射的に振り返った修司と目が合った。
「あれ」
「本当に、嬉しかったんだよ」
「…そう、なの?」
「あ、混ぜないと焦げちゃうよ」
ふと影が落ちて、ほんの一瞬だけ唇が触れた。
「なに」
「…別に」
「はやく混ぜて」
「はい」
「味見したい」
スプーンに少しだけ乗せて修司に食べさせる。
「どう?」
「…うまい」
同じスプーンでわたしも味見する。
「うん、美味しいね」
「……」
「どしたの?」
「え、いや」
「…なんでもない」
「変なの」
炊飯器からカチッと保温に切り替わる音がした。
「あ、炊けたな」
「じゃあわたしご飯よそうね」
「じゃあ、俺カレーする」
「修司はこのくらいでしょ?」
とお皿を見せながら聞いた。
「…うん」
「わたしはこのくらいかな」
「食べよっか」
「腹減った」
ダイニングテーブルに向き合って座る。
「いただきます」
そう二人で言ってから一口食べた。
「やっぱ一緒に作ると」
「うまいな」
「うん」
「美味しい」
水が入ったグラスを口に運びながら、目だけで修司を見て言った。
「…ねえ」
「ん?」
「前さ」
「カピったご飯で夜中に食べたよね」
「ブフッ……ッ、ゴホッ!……ゲホッ!」
「ちょっと!」
「大丈夫?」
「何やってんの」
タオルを手渡した。
まだ少しむせたまま言った。
「…それ、言う?」
「え、だって」
「思い出じゃん」
「あれも」
「修司が作ってくれたのも」
「…いや、そうだけど」
「わたしは昔のことも、話したい」
「だってわたし」
「それも全部、込みで好き」
「……重いな」
「うるさい」
げしっ
「っ、いっ──」
「どうしたの?」
「…おまえ」
「覚えとけよ」
「なにが?」
よそ見しながら口笛を吹くフリをした。
「吹けねえの?」
「弱いな」
「…できるし」
「やってみろよ」
「…...」
「ほら」
「お皿洗いに行くよ」
はははと笑ってから呆れた声で言う。
「はいはい」
水を出して、わたしが洗い始めた。
修司は隣でタオルを持っている。
「なおみ」
「ん?」
「…今日も、帰る?」
「え、あ、」
「…うん」
「…まだ、ちょっと」
シンクにジャーッと水が流れる音がやけに大きかった。
「…そっか」
「じゃあ、送る」
「え、いいよ」
「いいから」
「外、寒いだろ」
「暗いし」
「…ありがと」
「ん」
「じゃあ、洗っちゃうね」
そのまま2人で静かにお皿を洗った。
カコンとギアが入ってから、後ろの方でパーキングブレーキがかかる音がした。
「…着いた」
「…うん」
「送ってくれてありがと」
ドアに手をかける。
修司はわたしより先にドアを開けて降りていた。
「ドアの前まで」
「え」
「寒いからいいのに」
「…ありがと」
「ん」
そうぶっきらぼうに言って差し出した手に指を絡めた。
カン、カン、カン
手を繋いでゆっくりと階段を登った。
外廊下を静かに歩いて、一番奥の角部屋の前で止まった。
ガチャと鍵を回す。
「…じゃあ」
「…おう」
繋いだ手が離せなかった。
「…なおみ」
「ん?」
「…次、泊まる?」
返事をする代わりに、つま先立ちになって触れるだけのキスをした。
「おやすみ」
とだけ言って返事を待たずにドアに入る。
しばらくしてからカン、カンカンと階段を降りる音がして、音が途切れた。
携帯が光る。
「来週、楽しみにしてる」
少ししてから、外でエンジンの音がかかった。
「やっぱ、バカじゃん」
再読はこちらから。
読み返すと意味が変わります。
プロローグ1
小説版『修司』全話一覧
6月15日より、修司サイドを大幅加筆した脚本版を連載中です。
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