
修司|プロローグ1
好きだった。だから、最後まで分からなかった。
【あらすじ】
月に一度、バーで二杯だけ飲む。
それだけだった飲み友の修司は、好きになるほど言葉が少なくなった。
「ちゃんとしたい。」
「好きが、でかかった。」
「逃げたかった。」
肝心なことほど伝えられない男と、その本当の気持ちを知りたいわたし。
言葉はいつも足りなくて、想いだけがすれ違っていく。
すれ違いも、嫉妬も、別れもある。
それでも最後まで分からなかったのは、修司という人だった。
言葉よりも遅れて届く想いと、壊れた信頼をもう一度見つめ直す二人。
これは、「好き」という気持ちを伝える物語ではない。
ひとりの不器用な男を理解していく恋愛小説。
また今日もここに来た。
入ろうと思えば、たった一歩だ。
扉の向こうにはいつもの灯りと、いつもの酒といつもの人たちがいる。
それなのに、その一歩が出ない。
外の空気は冷えていて、吐いた息が白く滲んだ。
ポケットの中の携帯を取り出す。
通知はない。
もう何度目か分からない。
視線を上げると、ガラス越しにカウンターが見えた。
いつもの席。
あの席に、彼女がいた日もある。
今日なら、来るかもしれない。
小さく息を吐いて、振り絞る。
「今日こそ」
そう思うのに、足が動かなかった。
そのままゆっくり悴んだ手を下ろすしか出来なかった。
目だけが、あの席から離れなかった。
※本作には脚本・映像文学版『修司』があります。
小説版では描かれなかった修司視点を大幅加筆し、脚本形式で再構成しています。6/15より別マガジンにて連載中です。
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