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へたくそパパサーフィン®|五の波「Not War, But Surfing」第7話

    【第7話】 

    「ズっ、言うた思うたら、一気に家の壁がスライドしての」

    1945年8月6日。

    話は、その日の朝に移っていた。

    「凄まじい爆風で、気づいたら瓦礫の下じゃった」

    ――原爆。

    「まだ赤ん坊じゃった妹の、火のついたような鳴き声が聞こえての」

    頭の中に浮かんだ風景で、息苦しくなった。

    「何が何か分からんまんま、瓦礫から這い出したんじゃ」

    声が出ない。

    「鳴き声のするところを掘ると、血だるまの妹がおっての」

    風が、抜けた。

    「ほいじゃが、その血は、なんのこたぁない、わしの頭から滴り落ちとったんよ」

    古谷は、禿げ上がった前頭部を英夫の方に突き出した。

    ケロイドのような傷。

    「割れたガラスが、まともに刺さっとったんじゃ」

    大したことではないように言う。

    「瓦礫の下から抱き上げた妹を背負うてな。これまた奇跡的に助かったお母ちゃんと、三人で川沿いを逃げたんよ」

    言葉が、出ない。

    「黒焦げになった人が折り重なっとって。焦げた匂いが、ずっと鼻に残るんよ」

    カモメが編隊を組んで頭上をかすめる。

    「あとは、途切れ途切れじゃ。気づいたら、八本松まで逃げちょった」

    「八本松?」

    「今の東広島市よね。そこが本家での」

    どれほどの距離なのか、想像がつかない。

    「何とか生き延びた」

    言葉が、波の音に溶けた。

    ――あの爺さんには、俺ら、誰も敵わねぇ

    ――分かってねぇな

    DJの声が、蘇る。

    「それが、こうしてサーフィンしちょる」

    英夫は、デッキに目を落とした。

    「ありがたいことよね」

    何も、言えなかった。

    古谷は、沖を見たまま続ける。

    「平和じゃからよね。波に乗れるんは」

    薄いうねりが、二人の下を抜ける。

    「それがの……いまも、あちこちで戦いよる」

    ぽつり、言う。

    英夫は、デッキに目をやったままだ。

    「サーフィン、やってみんさい」

    少し、笑った。

    「なんで、あんな平和な気分になるんかの」

    独り言のように呟く。

    「波乗りやって、幸せにならんのはおらんじゃろ?」

    静かな声。

    何も返せない。

    ただ、喉の奥が詰まる。

    気づくと、頬が濡れていた。

    古谷は、英夫を見て、にっこり笑う。

    「わしら、波友じゃの」

    ジャーフルの胸元にも、エンジェル。

    英夫に向かって微笑んでいる。

    そのまま、くるりと沖を向いた。

    小さなうねりが、ゆっくりと近づいてきていた。

    古谷は、何も言わず、パドルを始める。

    英夫も、同じ波を見る。

    ほんの一瞬、間があった。

    英夫は、静かにパドルに入った。



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    The atomic bomb. We must never repeat the same mistake.


    ――続く


     
     

    Ryuei

     
     
    Surfer · Author & Illustrator 湘南の海沿いの小さなアトリエを拠点に、エッセイ・物語・イラストを発信。 『波待ちダイアリー』『波の理』、そして物語『へたくそパパサーフィン®︎』。 波待ちの気分で、ときどき読みに来てもらえたら嬉しいです。

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