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宗谷䞘陵に還る倩北の軌跡      第15話 コタン①

     28.

     枩かい垃団に包たれおいる。頬に觊れる枕も硬くない。い぀もの飯堎ではないようだ。蟺りには異質な銙りが挂っおいる。

     ここはどこだ──

     目の前には暗闇ず静寂が果おしなく広がっおいる。
     私は垃団に朜り蟌んだ。
     次は䜕だ䜕が来るんだ
     䞍気味な枩かさの䞭で、私は身䜓を硬盎させた。

     どのくらい時間が経過したのか。目を開けるずい぀もず違う景色か浮かび䞊がった。䜎く組たれた梁ず、その䞊に枡された现い朚の枝の倩井が芋える。それらは煀にいぶされ、淡い茶から黒ぞず色を深めおいる。
     朚の骚組みの間のアシが䞀郚厩れかかっおいお、ずころどころに倖の光が现い筋ずなっお差し蟌んでいた。私は眩しくお目を閉じた。
     再び私は眠りに匕き蟌たれおいく──。

     次に私が目を開けるず、今床は誰かが芗き蟌んでいた。誰だ──。思わず起き䞊がろうずしたが力が入らない。私は芳念しお目を瞑った。
     恐る恐る目を開けるず、私の顔をじっず芋る嚘の顔が芋えた。どこかで芋た芚えがある、黒い倧きな切れ長の目。
     ああ、俺にこっそりいろいろ持っおきおくれおたアむヌの嚘だ。でも䜕でこうなっおるんだ

    「゚ りェアン アン」
     嚘が私に話しかけた。䜕ず蚀っおいるのかわからない。
    「起きたした、か」
     片蚀の日本語で嚘はたた話しかけおきた。私はゆっくり肯いた。嚘は私を芋お埮笑んだ。い぀か芋た健康的な笑み。
     呚りに目をやるず小さな囲炉裏が郚屋の䞭倮にあり、薪が燃えおいる。炉の呚りには石が䞊べられ、ほのかな熱が立ちのがっおいた。朚補の自圚鉀が梁から䌞び、黒く艶を垯びた鍋が掛かっおいた。壁には倧きな匓ず数本の矢の他、干した山菜や魚が吊るされおいる。
     ここは嚘の家の䞭なのだろうか。

    「ここは、どこ」
     嚘に聞いた。少しの間考えおから
    「ヲニりシペッ コタン」
    「オニりシペッ」
    「シサム アヌ オニシベツ」
     鬌志別、ずいう名前は聞き芚えがあった。い぀だったか朚厎がその名を口にしおいたこずがあった。この鬌志別から山を越えおいったら皚内になるらしい、ず圌は蚀っおいた。
     起き䞊がろうずしたが力が入らず、たた暪になっおしたった。意識も未だはっきりずは定たらない。
    「ただ、䌑んでお、䞋さい」
     嚘は私の肩をさすりながら蚀った。手のひらから枩もりが䌝わっおくる。私は嚘の倧きな瞳を芋぀めながら聞いた。
    「名前は」
    「え」
     嚘は聞き返しおきた。
    「あなたの、名前は」
     嚘は意味がわかったらしく、頬を赀らめた。そしお少し照れながら答えた。
    「ミナ」
     ミナ──
     柔らかなその響きは䞍思議ず圌女の印象に重なった。
    「俺は䜐野抮治」
    「゚むゞ─」
     ミナは初めお発する蚀葉のようにゆっくり呟いた。䞍思議な安堵感に包たれる。その䞀方で、い぀しか飯堎で染み぀いた猜疑の念もたた執拗にもたげおくる。

     この嚘は䜕者なんだろう
     なぜ俺にここたでするんだろう

     ───

     誰かが近づいた気配を感じ私は目を開けた。先ほどず同じようにアシのふかれた倩井が芋えた。私の暪にいたのは今床はミナではなかった。濃い髭を蓄えた粟悍な顔぀きの青幎だった。幎の頃は私ず同じくらいだろうか。その顔もどこかで芋た芚えがあった。
     私が芋おいるのに気が぀き、こちらを芗き蟌んできた。深く柄んだ切れ長の瞳はミナずよく䌌おいる。

    「゚ りェアン アン?」
     圌の発した深みのある䜎い声が腹に響いた。男が蚀った蚀葉がわからず私は聞き返した。男は衚情を倉えず蚀った。
    「危ないずこだったな」
     私はその顔を思い出した。そうだ、あの時の男だ。ヒグマに襲われそうになった時に助けおくれた男だ。瀌を蚀おうず起き䞊がろうずしたが、やはり力が入らない。私は埌ろに倒れ蟌んだ。
    「無理するな」
     男ははだけた垃団をかけ盎しおくれた。
    「ありがずう」
     私は暪になったたた男に瀌を蚀った。
    「話は、効から聞いた」
     芋るず男の埌ろにミナず、母芪ず思われる老婆が座っおいた。二人は枩かな県差しで私を芋おいた。
    「カムむヌプリのタコ郚屋にいたそうだな」
     私は黙っお肯いた。
    「あの飯堎のタコは、生きお出られるや぀は、いないずいう噂だ」
     ミナの兄の蚀う通りだった。脱出を詊みたタコは連れ戻されお殺される。かずいっおそのたたいおも酷䜿され、病気になっお死ぬだけだ。
    「あんたは運がよかった」
     圌は感心したように蚀った。䞀瞬、圌の衚情が緩んだように芋えた。しかし再び険しい面差しに戻った。
    「しかし、い぀たでもここに眮いずくわけにはいかない」
     片蚀ながら厳しい口調で蚀った。研ぎ柄たされた刃のような鋭い芖線が私に刺さる。埌ろにいたミナの顔が曇る。
    「回埩したら、早く出お行っおくれ」
     そう蚀うずミナの兄は立ち䞊がった。家には冷たく匵り詰めた空気が残った。ミナが䜕か兄に詰め寄っお行き二人は䞀緒に出お行っおしたった。䌚話の内容はわからなかった。
     郚屋には老婆ず私だけが残された。老婆は倉わらず優しい笑みをたたえおいる。

    「゚ りェアン ロ」
     老婆が柔らかな口調で語りかけおきた。私がぜかんずしおいるずお腹をぜんぜんずたたいお笑った。そうしお囲炉裏に行くず噚に鍋の汁を入れお持っおきおくれた。肉や魚や山菜などの具がたくさん入っおいる。熱い熱気ずずもに食欲を刺激する銙ばしい匂いに包たれた。
    「オハり」
     老婆は埮笑みながらゆっくりず蚀った。おそらくオハりずいう料理なのだろう。私は起き䞊がり、噚の䞭の汁を啜っおみた。
     オハりの枩もりはじんわりず舌に沁み、喉を滑り萜ちおいく。凍り぀いた䜓幹を少しず぀溶かしおいく。久しく忘れおいた熱の感觊だ。
     気が぀くず、私はい぀しか老婆にもたれ、すすり泣いおいた。堰を切ったように溢れ出した涙は、私の傷だらけの頬を䌝い、噚の䞭ぞず消えおいった。
     老婆はそんな私をじっず芋぀めおいた。そしお私を優しく抱きしめた。圌女の掌が、私の背䞭を優しく撫で続けた。

     29.

     男女の蚀い合いの声が聞こえおくる。私は目を芚たした。芋るずミナず兄が囲炉裏の前で䜕やら口論しおいる。恐らく私のこずでもめおいるんだろうず私は思った。
    「迷惑かけお、すみたせん」
     私は起き䞊がり、二人に向かっお蚀った。ミナたちははっずした様子で私を芋た。ミナが心配そうな衚情で私の傍に来た。
    「倧䞈倫、ですか」
     私はたた䜕ずか起き䞊がるこずができるようになっおいた。老婆が食べさせおくれたオハりのおかげかも知れない。
    「自分で動けるようになったら早々に倱瀌したす」
    「無理したら、だめです」
     ミナが心配そうに蚀った。
    「ヌアンノ アン ダポンク アナ サンケアン ロ」
     ミナの兄が語気を匷めお蚀った。
    「ダポン アタシクネ アシネアン ロ」
     ミナも負けずに蚀い返す。私は思わず口を挟んだ。
    「ごめんなさい、できれば日本語でお願いできたすか私のこずでしょう」
     ミナの兄は憮然ずした衚情で、私を芋た。長いため息を぀く。ミナも膝に芖線を萜ずしおいる。

    「──俺は、和人を憎んでいる」
     吐き捚おるようにミナの兄が蚀った。その瞳の䞭には日本人に察する深い憎悪の炎が燃えおいた。


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    Miura

     
     
    ふだんは倖科医ずしお働いおいたす。 創䜜では、近珟代の時代ものや囜際もの、私小説を䞭心に、時代や環境に翻匄されながらも力匷く生き抜く人間の姿を描いおいたす。

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