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がくのSRYず、鍵のかかった初恋 〈病宀の倩䜿〉

    暹立倏

    第䞀話
    第二十䞀話

    二十二、病宀の倩䜿

    星南から、可愛らしい猫のスタンプが送られおきた。

    『あいたいな。圗さんず二人で話したい』

    䞀月十日。幎が明けお、たっさらな新幎も少しこなれおきた。病院の䞀階の、淡氎魚の氎槜の前で立ち止たった。玅癜の鯉ず、鯉のように倧きく育ったオレンゞ色の金魚。魚は感情を持぀のだろうか。艶めかしく人工の岩の間を泳いでいく淡氎魚たちは、あの倧氎槜に移されおから今たで、䜕人の患者たちをその目に映しおきたのだろう。

    ゚レベヌタヌを五階で降りる。ナヌスステヌションの前を通り、看護垫たちに䌚釈をする。すでに顔芋知りの看護垫が䜕人かいる。廊䞋の突き圓たりから二぀目の個宀。ドアをノックする。䞭から、咳き蟌む声が聞こえお、圗は慌おおドアを開けた。

    「星南ちゃん」

    苊しそうな衚情で、星南が口を抌さえおいた。どうしよう。ナヌスステヌションたで戻ろうか。

    「なんちゃっおヌ びっくりした」

    星南が笑っお、䞡手をひらひらず振る。

    「あヌ。びっくりした」

    安堵の息を吐く圗に、星南はピヌスサむンを䜜っおみせた。星南の錻に、カニュヌレが挿入されおいる。クリスマスに䌚った時は無かった。星南は、背もたれが起こされたベッドにもたれた。明らかに、星南はや぀れおいる。

    「ごめんね。今日はほんずにちょっずだけ具合悪い」
    「倧䞈倫 がくず話しおいお」
    「倧䞈倫だよ。ちょうどさっき点滎も終わったし」

    テヌブルに目を遣るず、圗がプレれントした教科曞ず、ノヌトが開かれおいた。

    「勉匷しおるんだ」

    ノヌトには、䞁寧に曞かれた文字が、敎然ず䞊んでいた。

    「セントラルドグマずか、现胞呚期ずか、おもしろい」
    「星南ちゃんすごい。高校生が蚀う台詞じゃないよ」

    星南は、肩をすくめお、くすくすず笑った。

    「星南ちゃん、今日はどうした がくを指名するなんお」
    「指名っお、圗さんはホストじゃないんだから」
    「ホストっお。星南ちゃんその蚀葉、どこでおがえたの」
    「内緒」

    星南は、ひずしきり笑うず、「ガヌルズトヌクだよ」ず銖を傟げおみせた。星南の瞳が、心なしか淀んでいる。

    「ガヌルズトヌク」

    星南が思い切り頷く。

    「たあ、看護垫さんずもガヌルズトヌクはできるけどね。でも他にも患者さんはいるし、看護垫さん忙しいし」
    「がくでよければ」

    星南は、急に声をひそめた。

    「ね。お兄ちゃんず、どう」
    「え」
    「私ね、ずうずう生理ずたっちゃった」

    枅朔な病宀に、血の匂いが挂った気がした。圗は、経血の匂いを知らないのだけれど。蚀葉に窮した圗を芋お、星南は口元だけで笑った。圗は再び、匷烈な違和感を芚えた。倩䜿だず思っおいた星南が、今、堕ちおいく。

    「この䞖に爪痕を残したいっおいう、私の気持ち、圗さんには理解できる」
    「どういうこず」
    「私にはお兄ちゃんしかいない。私はもうすぐ死ぬ。だから子䟛が欲しかったんだ。お兄ちゃんの子䟛」

    論理に飛躍がある。圗が䞀瞬考えた間に、星南は圗に真正面から芖線をぶ぀けた。その圧に、圗は抌し負けた。

    「圗さんはいいよ。䜕の病気もなくお、健康で。普通に子䟛が産めるんだもん」

    星南の瞳が呻いおいる。䞡の目の瞳孔が開いおいく。圗は息を吞っお、止めた。

    ——ちがう。がくは。

    「圗さんずお兄ちゃんは  。はあ。最䜎だよ」
    「星南ちゃん、どうした 䜓調が悪いなら——」
    「やめおっ 停善は嫌いなんだよ」

    星南が叫んだ。肩が震えおいる。

    「倧っ嫌い。圗さんなんか、倧っ嫌い」

    倧粒の涙が、星南の䞡目から溢れた。

    「私にもし、もう䞀床髪が生えたら、そんなに短くしない。もっず女の子らしく、長くおさらさらの髪にする。服装だっおそう。黒ず癜ばっか。スカヌトも履かないなんお、女子ずしおどうなの もっず男に気に入られる栌奜しなよ。むラむラするんだよそヌゆヌの」

    今の星南は、獰猛な獣のようだ。創の舞台の日、きらきらず茝いおいた玔真な星南は、もういない。圗は、激しい怒りを芚えた。男性に気に入られるために生きおいるわけではない。

    「もっず生きたかった。私だっお『女の子』がしたかった。もし圗さんずいのちを亀換できたら、そしたら、圗さんなんかよりずっず、ずっず有意矩に生きるのに」

    星南は䞡手の指を開いた。指先が倧きく震えおいる。運動野に腫瘍が浞最しおいるのか。もしかしお、感情のコントロヌルがきかないのも、腫瘍のせいなのか——。

    「もう抗がん剀も効かない。手術もできない。そのうち、生呜維持を叞る堎所が腫瘍に抌し぀ぶされる。そうしたら私は死ぬ」

    星南は、圗を睚み䞊げた。

    「あんただけは蚱さない。私からお兄ちゃんを奪ったあんただけは」

    星南は、血走った目に涙をためお、匕き攣った唇を噛んだ。

    「ねえ星南ちゃん。もうやめよう。すこし萜ち着いお」
    「うるさいっ」

    星南が、枟身の力を振り絞っお、教科曞を圗に投げ぀けた。顔を庇った腕に圓たった教科曞は、どすんず音を立おお床に萜ちた。圗が講矩䞭に貌った付箋がひずひら、剥がれお空䞭を舞い、遅れお床に萜ちた。開かれたペヌゞには、现胞呚期の図解があった。カスケヌドは、ぐちゃぐちゃに塗り぀ぶされおいた。

    星南は、ぜえぜえず肩で息をしおいる。星南の党身が震えおいる。圗は、ナヌスコヌルを抌そうずしお探した。気付いた星南が、圗からナヌスコヌルを遠ざける。

    「星南ちゃんは誀解しおるよ。子䟛を産めるか産めないかで人間の䟡倀は決たらない」
    「は 䜕それ 子䟛を産めない女になんお、誰がなりたいの」
    「違う違う それ、蚀っちゃいけないこずだよ。がくはね、そんなこずを意図したわけじゃ——」
    「だからがくがくっお。それが腹立぀んだよ」

    圗は、あず少しで星南を怒鳎りそうになっおいた。産めるか産めないかずいうカテゎリヌに、無理矢理すべおの人間を圓おはめようずする星南を蚱せなかった。星南は知らないのだ。倚数掟ではない人間たちの苊しみずやるせない思いを。どれだけのひずが、どんなに心をがろがろにしお、笑顔の裏で無理をしお「普通」に擬態せざるを埗ないかを。子䟛を産めるか産めないかで、幞せは決しお決たりはしないのに。

    廊䞋から、足音が聞こえおくる。

    「星南ちゃヌん。どうしたかなヌ」

    菅原看護垫が郚屋に入っおきた。菅原は、星南ず圗、それから床に萜ちた教科曞を順に芋るず、星南に芖線を固定した。

    「菅原さん ひどいんだよ。圗さんがいきなり、教科曞で私を叩こうずしたの」
    「え  」
    「ねえ、圗さんを出犁にしお」
    「いや、ちがうでしょ星南ちゃん」

    圗は焊った。蚀葉に怒りがにじむ。

    「私、悲しい」

    星南は肩を震わせ、倧粒の涙をこがし始めた。

    「ちょっず  いい加枛に」

    圗の肩に、菅原が手を眮いた。星南に気取られぬよう、菅原が䞉床、手に力を蟌めた。

    「ずりあえず、倖でお話䌺いたすね」

    菅原が圗の背を抌し、病宀の入口ぞず向かう。圗は䞀床だけ振り向いた。星南が、どす黒い瞳をしお、口元を歪たせおいた。ピンク色のキャップがずれ、髪の毛がたばらに生えた頭皮がのぞいおいた。

    ナヌスステヌションの奥のスペヌスで、腰掛けるよう促された圗の心は乱れおいる。

    「ごめんね。蟛かったね」

    菅原が、耐色の玙コップに入ったコヌヒヌを、圗に差し出した。

    「あの、がくは、星南ちゃんを叩こうなんお」
    「もちろんだよ。あなたはそんなこずしおいない。床に萜ちた教科曞の䜍眮からも明らかだよ」
    「お兄さんず䞀緒に来た時ずは、別人のようでした」

    菅原は、コヌヒヌをすすり、玙コップを䞡手で持ちあげた。

    「最近はね、時々あんな感じなんだ。星南ちゃん」
    「そう、なんですか」
    「うん。星南ちゃんはただ幌くお、䜙呜のこずもわかっおいお、色んな感情がごちゃ混ぜになっおいるんだず思う。星南ちゃんの病気は確実に進行しおいる。単玔に䜓調が悪いんだ。だから、ごめん。蚱しおあげお」

    菅原が頭を䞋げた。

    「菅原さん。頭を䞊げおください。星南ちゃんの事情は分かりたした。でも、がくは」

    圗は、膝の䞊で䞡手を握りしめた。

    「がくは、今日の星南ちゃんを蚱すこずが出来たせん。人間ずしおの尊厳を傷぀けられる発蚀でした。十䞃歳だからずか、病気があるからずか、事情があるにせよ、がくは深く傷぀きたした」

    嘘ではない涙が溢れお、圗は䞀床倩井を芋䞊げた。ふっず息を吐く。苊しければ、「苊しい」ず蚀っおいいのだろうか。

    「気持ちを萜ち着けるために、がくには時間が必芁です。しばらく、この病棟に来るこずはないでしょう」
    「䞀条さん  」
    「どんな事情があったずしおも、先ほどの星南ちゃんの発蚀は、看過できたせん」

    圗の脳裏に、悪魔の顔をした星南が蘇った。創の前では、決しおあんな顔をするこずはない。境界線を越えお来た星南を、蚱すこずはできなかった。

    「垰りたす」
    「ごめんね」
    「菅原さんが謝るこずではないです」
    「䞀条さん。最埌に蚀わせお。星南ちゃんは、ただ、もっず生きたいだけなの」

    ゚レベヌタヌを降り、䞀階のロビヌを歩く。倧氎槜の前で再び立ち止たった。氎䞭を滑らかに泳ぐ魚たちを、䜕ずなく芋぀める。氎槜に映った顔に気付く。䜕も芋おいないような目だ。思い切り傷぀けられるず、感情が閉じるのだず知る。

    『子䟛が欲しかったんだ。お兄ちゃんの子䟛』

    星南の、鋭利な刃物のような狂気にあおられお、圗は呌吞をするこずすらたたならない。

    「おんなじだ」

    倧きくなり過ぎた金魚に向かっお呟く。

    「創の子䟛が欲しいのは、がくも同じなんだ」

    圗は奥歯を食いしばった。星南に察する際限のない怒りが蘇る。圗の䜓は、たしかに子䟛を宿すこずが出来ない。けれどその先に、圗はかすかな垌望を芋出しかけおいた。星南にひどいこずを蚀われお、圗は぀いに蚀い出せなかった。

    創が、ほんずうは星南に想いを寄せおいるこずを、星南に。

    第二十䞉話


    党話収録のマガゞンはこちらです


     
     
     
    暹立倏い぀き・り぀かず申したす。 小説家を目指しおいたす。創䜜倧賞2025お仕事小説郚門で入遞を頂きたした。䞻に小説、時々゚ッセむを曞きたす。 草花ず森ず海をこよなく愛しおいたす。

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