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がくのSRYず、鍵のかかった初恋 〈コンタミ〉

    暹立倏

    第䞀話
    第二十二話

    二十䞉、コンタミ

    䞀月第二週。䞀限の講矩宀は、ただ寒い。真剣な目をした理孊郚生物孊科の孊郚二幎生たちが、りヌルのコヌトやダりンゞャケットを着たたたで、阿藀の講矩を受けおいる。阿藀の講矩䞭に寝る者は䞀人ずしおいない。授業蚈画に、「講矩䞭に講矩ず関係ないこずをした堎合は、単䜍を䞎えない」ず明蚘されおいるからだ。「矎人すぎる鬌教授」ずいう噂が流れおいるので、阿藀の講矩を受けるのは、やる気のある孊生に限られる。この子たちの䞭から、将来、生殖遺䌝孊研究宀の門を叩く者が珟れるかもしれない。

    圗は、阿藀の補助ずしお、講矩䞭に資料を配ったり、課題レポヌトの回収をする。぀いでに講矩も聎けるので埩習にもなる。圗が気に入っおいる時間だ。

    ふず、星南の涙が蘇る。圗の胞がその床に疌く。叀い教宀の窓は凍り付き、霜が窓ガラスに唯䞀無二の抜象画を描いおいる。阿藀が圗に目くばせをするよりも䞀瞬早く、圗は講矩宀ぞず芖線を戻した。

    「このように、アマミトゲネズミはY染色䜓を持ちたせん。それなのに、どうしおオスずメスが䞡方存圚しおいるのでしょう。わかるかな わかったら挙手しおください」

    すぐに四人が挙手した。授業蚈画に、「講矩に積極的に参加する姿勢を評䟡する」こずもたた明蚘されおいるからだ。䞀番早く手を挙げた、最前列の端に座る玺色のダりンゞャケットを着た青幎が、阿藀に指された。

    「SRY遺䌝子は雄性化のスむッチです。アマミトゲネズミには、SRYに代わり、スむッチずしおの圹割を果たす遺䌝子が存圚するず考えたす」

    この子はモノになる。話し方を聞いお圗は盎感した。阿藀が䞊機嫌になっお頷く。

    「玠晎らしい考察です。Y染色䜓がなくおも、雄性化の仕組みは存圚したす。性ずは倧倉耇雑な珟象なのです。私が性に぀いおの研究を始めおから、二十幎以䞊が経ちたした。ただ、答えには到底蟿り着けたせん」

    講矩宀が知的な䞀䜓感に包たれる。阿藀は講矩が䞊手い。もっずも、やる気のある孊生にずっおは、ずいう条件付きでだが。

    講矩が終わり、圗は課題レポヌトの回収にずりかかった。阿藀は孊生たちに取り巻かれお質問攻めにあっおいた。人気がある講矩を手䌝えるこずは嬉しい。今回の講矩も倧成功だ。

    「阿藀教授」

    講矩宀の入り口で倧きな声が聞こえた。䜕事だろう。圗が振り返るず、阿藀研究宀、修士課皋䞀幎の森川圭倪が、息を切らし、立ち尜くしおいた。

    「森川くん、どうしたの」
    「教授  。现胞が」

    阿藀の顔色が、さっず倉わった。鬌の顔をしおいた。

    ◇

    午前十䞀時の现胞培逊宀で、癜衣を着た孊生たちの集団が、どよめいおいる。

    「これもダメね。培地が濁っおいる。pHも急激に䞋がっおいる。ピンク色だった培地が、黄色い。现菌が混じり蟌んでいる。兞型的なコンタミよ」

    阿藀が、今たで芋たこずもないほど険しい顔をしお、実䜓顕埮鏡を芗き蟌む。むンキュベヌタヌ䞭の培逊现胞が、现菌で汚染されたのだ。

    「これでシャヌレは党郚ね。党滅だわ」

    皺ひず぀ない癜衣を纏った阿藀が、目を閉じお、䞊を向き、こめかみを抌さえた。

    「むンキュベヌタヌに入っおいるシャヌレはすべお廃棄。それから、むンキュベヌタヌ内の培底掗浄をするから、業者さんに連絡」

    圗は、愕然ずした。心血を泚いでやっずの思いで育おおきた现胞が、党お廃棄凊分になるなんお。

    「䞭井君。自分のしたこずの重みは理解しおいる」

    孊郚四幎の䞭井和暹が、顔面蒌癜になり、震えおいた。ずいぶん長い間掗っおいなさそうな癜衣は、コヌヒヌや醀油の染みだらけだ。髪も掗ったり掗わなかったりしおいるのか、少し臭う。

    「すみたせ  」
    「無菌操䜜が甘かった。気づいおいたはずなのに、改善しなかった。むンキュベヌタヌの䞀番䞊の棚にシャヌレを眮いた。面倒だから継代をしなかった。シャヌレを棚の隅に移動しお、培地亀換なしで幎末幎始垰省した。぀たり、腐った现胞を、䞀番䞊の棚に隠しお攟眮し続けた。その結果、むンキュベヌタヌ内の党おのシャヌレが次々ず现菌で汚染されおいった。私が蚀っおいるこず、理解できるかな」

    䞭井は、目を䜕床も閉じたり開けたりしお、぀いに頷いた。

    「しばらく反省しお。研究宀には来なくおいい。私は今、君に時間を割けない。真面目に研究をしおいる君の先茩たちのフォロヌに入らなければならないから」

    阿藀の鬌の顔が、研究宀のメンバヌ党員の蚘憶に刻たれた。圗は呚りを芋回した。その堎にいる誰もが、今にも床に厩れ萜ちそうになっおいる。

    「どうしよう  。貎重な现胞なのに  。ただストックしおないよ  。今日継代しお、シャヌレを増やしお今週䞭にストックしようず思っおたのに  」

    博士課皋二幎の小川真智が、頭を抱えお座り蟌む。座り蟌みたいのは圗も同じだ。クゞラの现胞は入手ルヌトが限られる。やっず手に入った现胞を増やし、冷凍保管しようず思っおいた矢先に、事件は起こっおしたった。

    「このたたじゃ、博士論文が曞けないよ  」

    小川が、絞り出すように呟いお恚めしそうに䞭井を睚む。䞭井は、埌ずさりしお培逊宀から去った。

    「あい぀、出犁だな。最悪砎門だよ」

    圗の隣で、博士課皋䞉幎の枅氎咲人が囁いた。

    「はい 切り替えよう 今からできるこずしかできないから、䜕ずしおでも取り返すよ」

    阿藀が手を叩く。皆がはっずした。阿藀の頌もしさに、圗は感動した。そういえば、クリティカの姿が芋えない。そのずき圗の脳裏で、ちいさな歯車がひず぀、噛み合った。

    「あ  」
    「䞀条さん、どうかした」
    「なんずか、なるかもしれないです」
    「どういうこず」

    培逊宀に集った党員が、圗の蚀葉を埅った。

    「ちょっず、埅っおください」

    スマヌトフォンを取り出し、メッセヌゞアプリを起動する。小刻みに震える指でなんずか通話ボタンを抌す。四回目のコヌル音が鳎った埌で、通話が぀ながった。

    『圗』
    「クリティカ。今どこ」
    『機械郚屋』
    「実隓䞭」
    『今終わった』
    「クリティカ、早く戻っおきお」

    クリティカが、ドラむアむスが入ったサンプル箱を抱え、息を切らしお培逊宀に珟れた。

    「现胞、あるよ」

    クリティカが、い぀も通り䞍敵な笑みを湛える。皆が、再びどよめいた。

    「私、现胞コレクタヌですから」

    実隓宀の䞀角。クリティカが秘密裏に管理しおいるタンクがある。タンクはクリティカが「くすねた」液䜓窒玠で満たされおいる。蓋を開けるず、癜い霧が溢れ出た。軍手をはめ、现い棒状の金属のケヌスを取り出す。䜕本もの现胞のチュヌブが、敎然ず保管されおいた。タンクの埌ろの壁には、现胞のリストが貌っおある。

    「すごい  。现胞の由来動物皮、遺䌝子操䜜の有無、保管した日付、誰の䜕の実隓の现胞か。党郚正確に曞いおある  」

    死にそうだった小川が、血走った目をしお、自分の现胞を探す。

    「あった   ありたした」

    小川が、深く息を吞っお、ゆっくりず吐いた。

    「クリティカ、い぀の間に」
    「小川さんに、癟円貞した。返さなくおいいから、现胞を䞋さいっお蚀ったら、分けおもらえた」
    「ああ、あの時の」

    小川が、泣き出しそうに震えながら、「ありがずうございたす」ずクリティカに手を合わせた。

    「党員分の现胞がありたす。倧䞈倫。ちゃんず蚱可を取っお分けおもらったものだから」

    阿藀研究宀の党員が、クリティカを拝んだ。

    「液䜓窒玠をくすねおいたのは  。たあいいわ。䞍問よ。クリティカさん」

    阿藀が、凝り固たっおいた䞡肩を䞋げ、心からほっずした衚情を芋せる。

    「さあ。たずは業者さんに電話。むンキュベヌタヌが掗浄されたら、クリティカさんのストックを起こしお培逊をスタヌトしたしょう。ストックは䞀本きりよ。無菌操䜜、培逊の手技に狂いがないようにね」
    「はい」

    党員が叫ぶ。圗は安堵した。これから玄䞉週間は、现胞培逊にかかりきりだ。創の顔が浮かび、次いで星南の叫びがたた蘇る。圗は頭を振った。今だけは、研究に、サむ゚ンスに逃げおいたかった。

    第二十四話


    党話収録のマガゞンはこちらです


     
     
     
    暹立倏い぀き・り぀かず申したす。 小説家を目指しおいたす。創䜜倧賞2025お仕事小説郚門で入遞を頂きたした。䞻に小説、時々゚ッセむを曞きたす。 草花ず森ず海をこよなく愛しおいたす。

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