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Bye King 

    迎春


    「さよなら、キング」

    「待ってくれ、クイーン。クイーン」

     また悪夢を見た。寝汗がびっしょりに濡れた洋服を見て自己嫌悪に陥った。遠くの暗闇に消えていくクイーンの顔は忘れらなない。

    「ダンプ。またフラれた女を思い出してるでやんすか」 

    「すまない」

    「冗談の通じないオッサンでやんす」

     趣味の悪い洋服を着ている小さなネズミのようなシーフは楽しそうだった。窓の外を眺めると果てしなく続く海をこの海賊船は走っていた。





     
     トランプ国の王様だった私はクイーンの裏切りによって国王の座を剥奪された。次ははクイーンが女王なるらしい。私はジャックや国民の数字達も相手にされず、逃げるようにこの国を後にした。

     ただのオジサンに成り下がってしまった私だが、プライドだけは高い。まだキングと呼ばれたくて仕方なかった。自暴自棄になっていたこともあり、私は海賊になることを決意した。我がバイキング海賊団の船長は強くて、優しい。拳銃で脅されながら船員になったときのことを、昨日のことのように思いですことができる。

    「バイキング海賊団のために死ぬ覚悟はあるのか」

    「えぇ、もちろん」

    「人の金品財宝を奪うような海賊は、まともには死ねない。天国に行けないぞ」

    「もう死んでるようなもんです」

    「船長、そんなオッサンより、アッチを仲間にしてください。アッチは子供の頃か生粋の泥棒です。名前をシーフラットと言います」

    隣にいた若く、小さいネズミのような男が私と一緒に海賊になりたいと志願する。

    「泥棒か。悪くないがウチの金品財宝を盗まない保証はどこにもないからな」

    「アッチの夢は世界一の泥棒として、有名になることです」

    「どうして世界一の有名な泥棒になりたい」

    「アッチには泥棒の才能しかないでやんす。どうせ人から嫌われる才能なら世界一有名になってやるでやんす」

    船長は笑っている。

    「気に入った。シーフ、お前はこの船に乗せてやる」

    「この恩は忘れないでやんす。必ず船長が驚く金品財宝を盗んできてくるでやんす」

    「で、そこのオッサン。お前はどうして海賊船に乗りたいんだ」

     もう一度キングと呼ばれたい。とは言えない。

    「フられた女をギャフンと言わせるためです」

    「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

     話を聞いていた船員達も大笑いしていた。

    「よしっ、気に入った。名前はなんだ」

     元はキングとは言えない私は偽名を名乗ることにした。

    「私の名前はダンプ。捨てられた男です」





     海賊としてはあまりにもひ弱な私が唯一評価されたのは、料理の腕前だった。王国にいた頃に各国の美味しい食べ物を食べていたので、どの国に行っても調理方法がわかった。私は海賊船のコックとして重宝された。
    晩飯のスペアリブを船長の机に置いたとき、船員達と会議をしている様子だった。

    「次はトランプ国を襲う」

    「トランプ国ですか??」

    「この国の最近の政治はあまりにも酷くてな、次期女王のクイーンは酷すぎる」

    「トランプ国では数字を民を全て統一すると言っているらしいです」

    「なんだって」

     私は声を荒げた。どの数字にも個性がありそれを否定することは許されない。

    「統一したほうが支配しやすいからな」

    「スペード、クローバー、ハート、ダイヤの島国も全て同じマークへ統一するそうだぞ」

    「なんて残酷なことを」

     私はコックの身分で会議に思わず口出ししていた。

    「ダンプ、随分と激しいじゃないか」

    「なんかこの国に思い出でもあるのか」

    「いや、そういうわけでは」

    「まさか、この国の女に振られたんじゃないか」

    「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

    船長を含めて皆が愉快に笑っており、私は恥ずかしながら立っていることしかできなかった。

    「まぁ、過去のことは深くは聞かねぇが、まぁ野郎共準備だ」

     私は複雑な気持ちだった。民の個性を尊重した挙句、皆から使えないと捨てられた。そんな私が海賊となり、またこの国に戻ってくるとは。

     想像よりもトランプ国は遥かに悲惨だった。国民の数字達は全て1に変えられていた。そして全ての絵柄はエースだった。

    「船長、想像以上に警備がしっかりしています」

     それはそうだ。私がどこの海賊から攻められても守れるように設計したのだから。

    「どこか弱点があればな」

     船長は珍しく弱っていた。リーダーとは大胆なだけではいけないというのはこの人から学んだ。繊細な心の持ち、船員の命を大切にできない海賊は必ず負ける。

     私は余計なことを口走ってしまった。

    「トランプの国には実は秘密の裏口があります」

    「秘密の裏口??」
     
     この城はとても合理的に作りになっている。正門から攻めてくる敵国が多かったが、どの方位から攻撃されても対応できるように設計されていた。ただ万が一に備え避難経路も用意している。この避難経路から攻めらることは想定していない。ここから侵入できれば一気に王室まで辿り着き制圧することも簡単だ。

    「そこから侵入できれば意外に王室まで一直線です」

    「ダンプ、なんでそんことがわかる」

    「勘です」
     
     私はポケットからキングの絵柄の懐中時計と城のスペアキーを取り出した。

    「なんでこんな物をお前が持っている」

    「なぜでしょう」

    「覚悟はできているのか」

    「まともに死んで天国に行くつもりはありません」 

     私が捨てることができなかった懐中時計と城のスペアキー。キングと呼ばれたいなんて言ってやさぐれて、海賊になったしまった。ただ本心ではまたトランプ国のキングに戻りたかった。それはもう叶わない。私はバイキング海賊団の一員なのだ。

    「シーフ、ダンプの言っていることが本当か一緒に行って来い」

    「アッチでやんすか??」

    「うまくやったら、お前の取り分の財宝は奮発してやる」

    「船長、約束ですぜ。行こうぜ、ダンプ」





     私はシーフと一緒に秘密の通路に繋がるドアに向かった。

    「この国は本当に気持ち悪いでやんす」

     私は辛かった。 

    「国民も兵隊も新国王まで、同じエースの絵柄の仮面をしているでやんす」

    「昔はこんな国ではなかった。シーフ、あそこだ。あの扉が隠し通路だ」

     隠し通路に繋がるドアを見つけて、シーフと二人で走る。

    「本当に隠し通路があったでやんす」 

    「あぁ、このスペアキーでドアは開けられるはずだ」

    「ダンプ、あんた何者でやんすか」

    「俺は女に捨てられた男さ」

    「それで復讐に??」
     
     振り返るとクイーンとエースの兵隊が立っていた。

    「クイーン」

    「キング、久しぶりね」

    「あぁ」

    「随分と汚らしい格好をしているのね」

    「自分では結構気に入っているのだが」

    「誰でやんす??」

    「俺を捨てた女だ」

    「ダンプには綺麗すぎでやんす」

    「キング、やっぱりトランプ王国に復讐しに来たのにね」

    「クイーン。こんなことをして許されると思うのか」

    「許されるも何も、どの数字も幸せじゃない」

    「この国のどこが幸せなのだ」

    「バラバラの数字だから不平、不満が生まれるんじゃない。みんな同じ数字
    なら全員幸せよ」

    私は初めてクイーンを憎んだ。

    「生ぬるいあなたには絶対にできないことよ。この国はもっと大きく世界統
    一を目指す」

    「統一って、統一してなにになる」

    「みんなが幸せで自由な国になるのよ」

    「誰かに与えられた幸せは自由じゃない。幸せは自分で選んで勝ち取るもの
    だ。そう、海賊のように」

    「本当にあなたは頭がお花畑だわ。私がここにいる意味わかってるの」

    私はいつのまにか、エースの兵隊に囲まれていた。

    「冥土の土産に教えてあげる。あなたのその懐中時計は追跡機能のある発信機よ」

    クイーンからプレゼントされ捨てられなかった懐中時計。クイーンは私を初
    めから愛してなどいなかった。最初かから国を乗っ取り、世界を自分の物にすることだけを考えていた。クイーンの言うとおり私の頭はお花畑だ。クイーンは私に銃口を私に向ける。

    「さよなら。キング」

     その顔は何度も悪夢で見た綺麗なクイーンの顔であった。





     銃声響いた後に倒れていたのはシーフであった。シーフは私の体を庇い左胸に銃根の跡があった。

    「シーフ。何しているんだ」

    「いやぁ~なんでやんすかね。ダンプを庇って死んだらカッコいいかなって思ったでやんす」

    「冗談を言ってる場合か、お前世界一の泥棒になるっていってたじゃねぇか」

    「まぁ、そのつもりでだったでやんすが」

    「シーフ、シーフ」

     シーフは目を瞑り倒れてしまった。

    「くだらない。順番の問題なのに。さよなら、キング」

    「海賊になったのに、捨てられた女に殺されるなんて。まさかダンプ、お前天国にでも行くつもりか」

    「船長」

     船長と仲間達が笑いながら立っていた。

    「祭りの時間だ。野郎共!!」

     バイキング海賊団の船員が勇敢にエースの仮面を被った兵隊に戦いを挑んでいた。

     一瞬で城をバイキング海賊団が制圧し、クイーンが生捕りにされた。すぐに
    トランプ国はバイキング海賊団に降伏した。

    「シーフ、起きろ。目を覚ませ。シーフ」

     私はシーフの体を何度も揺らす。シーフは最後の力で少しで何か小声で話し始めた。

    「クイーン。愛しのクイーン」

    「シーフ??」 

    「待ってくれ、クイーン。クイーン」

    「おい、息があるのか」

     シーフは胸ポケットから私の懐中時計を見せてきた。

    「高いと思ったでやんす。けど壊してしまったでやんす」

     シーフは私の懐中時計を盗んでいた。その懐中時計に弾が当たったらしい。

     シーフラットは本当に運のいい泥棒だ。

     トランプ国が降伏をした後、バイキング海賊団は城の金品財宝を奪った。意外にも数字達は嬉しそうな顔をしていた。優しい船長は国民の数字達には手を出さなかった。

     国民の数字達も本当は戦いたくなかったらしい。どの数字達もエースの仮面が取れてホッとした様子だった。

    「ダンプ。お前、この国のキングに戻れるチャンスだぞ」

    「もう私の居場所はこの国にはありません。次はジャックが国王になります。それに」

    「それに??」

    「私はバイキング海賊団のコック。フラれた女に未練はございません」

     船長も船員もシーフも笑っている。お花畑の私よりも、もっと優秀な人が国王になるべきだ。ジャックはこの国をよくします。と約束してくれた。

     さよなら、キングだった頃の私。






    本日も好きで気になった著者様を紹介させて頂きます。
    ご迷惑の場合は削除させて頂きますのでご連絡ください。


    杜若あやめさん

    この俳句、見かけ以上に熱くて素敵ですね。
    本当に背中を押してもらえる俳句でした。


    ヒラリさん

    流れを意識した生活って大切なのにどうしても面倒でした。バラバラに作業したほうが単純で楽だし、怠け者だからと…言い訳します。けど、自分のやりたい行動(気持ち含め)を流れを含めてできると達成感があり、普段よりスッと終わりました。


    琥珀さん

    女性も人間で、けど男より生々しくないというか…
    美人とイケメンのお裾分けと言いますか(笑)
    男女ともに青春で清々しいですね。
    羨まし〜(笑)


    ゆとりのある男さん

    そっか〜…って唸らせられた記事でした。もしも現実がハッピー続きで不幸なことが一つもないって人は読書なんてしないのかな。読書が好きって言っちゃってる時点で、落ちていることを認めなきゃいけないのですね。



    くまひめさん

    やっぱ面白い人まだまだいますね(笑)
    どうやって月見バーガーに現実を教えてもらうんだろうっと、ついポチッとクリックしてしまいました(笑)
    最後のオチも好きで是非読んでください。


     
     
     

    迎春

     
     
    嫌いな仕事が、少しだけ好きになる。 そのあいだに、時々小説を書いています。 30代 東京通信大学 情報マネジメント学部 卒

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