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#4|名前のないチェックリスト|#4 追いつけないー遠い憧れの世界ー(全10話)

    「ハイスペックって、皇居走ってるらしいよ。朝ランして頭が冴えて、仕事のパフォーマンスが上がるんだって。
    行ってみない?」

    あゆみがそう言ってきたのは、木曜の夜だった。

    平日の朝に走るなんて、正直無理だと思った。
    でも、どこかで——
    変わらなきゃいけない気がしていた。

    翌朝。
    まだ薄暗い時間に家を出た。
    眠気と湿気を含んだ空気が、肌にまとわりつく。

    皇居の周りには、すでにランナーが何十人もいた。
    スーツ姿から着替えたばかりのような男性たち。
    引き締まった脚。軽い足取り。
    女子も、髪を結んで、汗を光らせながら颯爽と走っている。

    爽やかで、かっこよくて、“こういう世界”があるんだ、と圧倒された。

    そのとき——
    少し先のランナーの中に、見覚えのある横顔があった。

    たくやだった。

    イヤホンをつけ、一定のリズムで走っている。
    朝の光を受けて、横顔は妙に整って見えた。

    (……走ってるんだ)

    「じゃ、行こ!」

    あゆみが軽く手を振って走り出す。
    りおも続こうとしたが、数十メートルで息が上がった。

    足が重い。
    呼吸が苦しい。
    あゆみも途中でペースを落とし、二人とも置いていかれた。

    たくやの背中は、他のランナーたちの波に紛れ、あっという間に遠ざかっていく。
    誰も自分を気に留めることもなく、颯爽と追い抜いていく。
    取り残される焦り。
    『憧れの世界』に自分がいない現実。

    一周どころか、半分も走れずに終わった。

    ランニングステーションでシャワーを浴び、濡れた髪をまとめながら、あゆみが言った。

    「これで頭が冴えるらしいよ。仕事、はかどるって。」

    でも、りおの頭は冴えるどころか、昼になっても、夕方になっても、体はまだ朝を引きずっていた。

    帰宅して靴を脱いだ瞬間、ゴミ箱の中に捨てたパンフレットが目に入った。

    結婚相談所の、あの幸せそうな夫婦の写真。

    (私は……何を追いかけてるんだろう)

    朝のランニングで感じた“置いていかれる感覚”が、胸の奥でじんわりと広がっていった。


    🌸最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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    恋愛・仕事・お金。 「人は何を基準に幸せを選ぶのか」を、小説・会話劇・エッセイで描いています。 給湯室、非常階段、制作ノート──同じテーマを違う視点から読む世界を書いています。 創作大賞2026応募作『名前のないチェックリスト』

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