メインコンテンツへスキップ
見出し画像

#3|名前のないチェックリスト|#3 足元を見るー「品定め」しあう男と女ー(全10話)

    ふと目が覚めると、部屋の明かりがついたままだった。

    一瞬、朝かと思ったが、壁の時計の針は午前1時半を指している。
    二次会のアルコールが少し抜けたのか、頭は妙にクリアだった。

    ベッドから体を起こしたとき、足元でカサリと音がした。
    あの占い師から渡された、結婚相談所のパンフレットだった。

    そこに書かれていた“男側の現実”。
    男は、友人や家族、会社の人に紹介して恥ずかしくないか、自慢できるかどうかを重視し、女性の若さや容姿の良さを求める傾向にある――。

    他人の目を気にした、男たちのシビアな品定め。
    あのカフェで出会ったたくやの、
    減点対象を探すような冷ややかな目が、再び脳裏をよぎる。

    (みんな、自分を棚に上げて、値踏みばかりしてる)

    パンフレットを拾おうと視線を落とした瞬間、りおの動きが止まった。

    昨夜着ていたワンピースが、ソファの背もたれに掛けっぱなしになっている。
    クローゼットに戻し忘れたジャケット。
    机の上に置きっぱなしの数日前の雑誌。

    外ではデザイナーとして小綺麗にし、対人関係も卒なくこなしている。
    誰にも迷惑はかけていない。
    だけど、誰も見ていない場所では、このだらしなさだった。

    (……どの口が言っているんだろう、私は)

    男たちの“紹介して恥ずかしくない若い女”という条件に憤りながら、
    自分は誰も見ない場所で生活をサボっている。
    そのくせ、画面の向こうの男たちには少しの妥協も許さず、
    高収入でエリートな未来を求めて品定めしていた。

    行き詰まって、
    立ち止まって、
    思考が完全に停止したような
    沈黙が部屋を支配する。

    りおはベッドから立ち上がった。

    ソファに掛けっぱなしだったワンピースを丁寧にハンガーにかけ、クローゼットへしまう。
    机の上の雑誌を揃え、出しっぱなしの小物を定位置に戻した。

    大谷翔平も言っていたっけ。
    運を呼び込むためにゴミを拾うんだって。

    最後に、足元に落ちていたパンフレットを迷わずゴミ箱へ捨てた。

    ほんの少し、身の回りが整っただけだった。
    けれど、淀んでいた部屋の空気が、ゆっくりと動き出した気がした。

    りおは机に向かい、開きっぱなしになっていたグレーの手帳を見つめた。
    そこにある、歪んだ5つの文字。

    高収入
    高学歴
    高身長
    エリート
    タワマン

    クリアになった頭で見つめるそれは、ひどく虚しく、どこか滑稽だった。

    翌朝。

    差し込んできた朝の光は、昨日と同じはずなのに、驚くほどクリアに見えた。
    部屋のわずかな乱れを整えただけで、不思議と心までシャキっとしている。

    「……よし」

    小さく呟き、りおはいつもより少しだけ背筋を伸ばした。


    🌸最後までお読みいただき、ありがとうございました。
    ⏭️ 第4話はこちら
    🔙 第2話はこちら

    📚 全話まとめて読む
    → 『名前のないチェックリスト』全10話マガジン

    ☕ 読後の給湯室はこちら
    24歳のA子、33歳のB子、43歳のC子が
    本編を「女子の本音」で勝手に語っています。
    → 給湯室のチェックリスト③

    ※給湯室をまとめて読む方はこちら
    →給湯室のチェックリスト全収録マガジン

    🚬非常階段の反応はこちら
    27歳・D子、41歳・E介、55歳・F美が
    給湯室の会話に毒を吐いてます。
    📌♯0|非常階段からのチェックリスト
    📚 非常階段シリーズまとめ
    →非常階段からチェックリスト全収録マガジン


     
     
    恋愛・仕事・お金。 「人は何を基準に幸せを選ぶのか」を、小説・会話劇・エッセイで描いています。 給湯室、非常階段、制作ノート──同じテーマを違う視点から読む世界を書いています。 創作大賞2026応募作『名前のないチェックリスト』

    あなたへのおすすめ