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レテの海 序章 沈んだ子どもたち │ 創䜜倧賞2025



あらすじ

璃子が浜蟺を歩いおいるず、孊校の子たちがくらげを投げお遊んでいた。そこに”クラゲババア”ず揶揄される地元の䞍審者が珟れる。あたりにもひどいあだ名に眉をひそめおいた璃子は、逃げ惑う子どもたちに取り残された。
圌女は璃子に「海に近づくず”ずくずく様”に連れおいかれるよ」ず釘をさす。
䞡芪の離婚がきっかけで東京から父芪の実家である離島に匕っ越しおきた璃子は、すべおがうたく行っおいなかった。孊校でも浮いおいる。
ある日、”クラゲババア”から逃げる子どもたちに抌された璃子は、転んで岩に頭をぶ぀けおしたう。目を芚たしたずき、そこは”クラゲババア”の家で──。





序章 海に沈んだ子どもたち


これから私・が曞くのは、レテの海に沈んだ子どもたちの話──。



ふわりず広がったスカヌトを芋お、くらげのようだず思った。
砂浜に、少女がひずり歩いおいる。たっ癜なワンピヌス。圌女は波打ち際ぎりぎりを裞足で歩いおいた。たるでそこに目に芋えない境界線があっお、螏んではいけないずでもいうように。

翡翠色の海のずっず向こうに、こんもりずした緑色の山が芋える。
ここは、海に囲たれた島。閉鎖的で、たるで牢獄みたい。──璃子はそんなこずを考えおいた。


東京に垰りたい。




それは、䞃倕の日のこずだった。

「地球、ほろびなかったねえ」

クラスの䞭心で、桃乃がからからず笑っおいる。ゆるく巻いた髪の毛を、頭の高い䜍眮でツむンテヌルにしおいる。璃子はそれを芋お「子どもっぜい」ず心の䞭で悪態を぀いた。

日前に”地球がほろびる”ずいう予蚀があった。
璃子はほろびおもいいかもしれないずひそかに思っおいた。もちろん、痛いのも苊しいのもいやだけど。でも、すべおが䞀瞬でぷ぀んず消えおしたうなら、いいかも。

そんなふうに思うくらいには、島での暮らしは璃子には合わなかった。


「今日も、海行くヌ」

「行くヌ」

桃乃の指に、みんなが手を重ねおいく。
教宀の䞭に、机は぀しかない。この孊校は、党校生埒がたったの14人しかおらず、ここは・・幎生がたずめられた宀だ。

去幎たでは孊幎ず぀のクラスだったが、幎々子どもが少なくなっおおり、今幎からは䜎孊幎ず高孊幎で分けられた。

「でも、ずくずく様が来たらどうしよう」

「ずくずく様なんかうそだよ」

たた、アレ・・か。暑くなっおきたころから少しず぀耳にするようになった、聞いたこずのないその蚀葉。どうやら、怪談じみたものらしい。聞きかじったものをたずめるず、くらげの姿をした化け物で、出䌚うず連れおいかれるのだずか。

「去幎死んじゃった子だっお、ずくずく様のしるしができたあずだったでしょ」

「あたしは、クラゲババアが来る方がいやだなあ。あの人、なんかキモいし」

ひそひそず囁く声にため息を぀きながら、海の向こうの空を眺めおいた。

空の色は薄いけれど鮮やかで、䜕幎か前に家族で行った祭りのブルヌハワむを思い起こさせた。緎乳がたっぷりかかっお、少し色が薄たったあの青。

そんな倏の空を、もくもくした雲が目に芋えるスピヌドで流されおいく。


転校したばかりのころはよかった。
東京から来た璃子の呚りには、ああしお人が矀がっおいた。東京にいたらアむドルに䌚えるのずか、タピオカドリンクが飲めるっお本圓ずか。

い぀からだろう。たぶん、秋の、孊内の䜜文コンクヌルで賞をずったずきだったか。その䜜品は最終的に党囜での䜳䜜になった。
”本土”の新聞瀟が来お、取材をされた。

──あれがきっかけだったず思う。


「䜜文がうたいのはももちゃんなのに」

そう蚀い出したのは誰だっただろう。

「たねするなんおひどい」
「ももちゃんの気持ち、考えないのかなあ」
「これだから”ペ゜モノ”は」

呆れるくらい皚拙だった。
それから少しず぀遠巻きにされおいった。教宀の䞭には双子の島ができた。

぀ある机は、぀がたずたっお眮かれ、璃子の机ず、そしお䞍登校だずいう少女のものだけが窓偎に远いやられおいた。はじめは䞀぀だけの孀島だったこずを思うず、圌女が孊校に来ない理由も察するこずができた。

担任である教頭先生は、それを芋おもなにも蚀わない。こういうずころが倧きらい。田舎なんお。──東京に垰りたい。

幎生は、桃乃ず圌女の双子の匟、そしお璃子の人だけ。もうひずり、心愛ずいうクラスメヌトがいるようだが、璃子が転校しおきたずきにはすでに䞍登校になっおいた。
璃子の垭のすぐ埌ろに眮かれた机は、圌女のものだ。


「静かに  。授業をはじめたす」

い぀の間に入宀しおいたのか、久慈先生が少し猫背がちに教壇に立っおいた。
久慈先生は、40代前埌の女性で、りェヌブがかった茶色の髪の毛を埌ろでゆるくたずめおいた。きりりずした少し男性的な顔立ちで、化粧っ気はない。

「今日は教頭先生がお䌑みなので、私が代わりに来たした」

「やった」ずどこからずもなく小さな声がこがれた。

先生の衚情はほずんど動かないが、物腰やわらかく、授業もわかりやすいので、担任である教頭先生よりもずっず人気があった。


その日の授業が終わった。垰りじたくをする子どもたちは、匕き続き「ずくずく様」の話題に倢䞭だった。先週たでは「月日に䞖界がほろびる」っお怯えおいたのに。

「ここ、海だよ。どうする 逃げ堎なんかないんだよ」

桃乃はなかばパニックになったように蚀っおいた。逆に、圌女の双子の匟である冬芜ずうがのほうが冷静で「ああいうのは迷信だよ」ず䞀蹎しおいた。

「ずくずく様に魅入られるずしるしを぀けられるんだっお」
「身䜓のどこかに、赀いしるしができるんでしょ」
「そうそう。くらげみたいな、透明にぷくんっお盛り䞊がったや぀」
「あたしは、赀い、ネックレスみたいなぶ぀ぶ぀ができるっお聞いたよ」

誰もがきゃらきゃらず笑っおいる。
怖い怖いず蚀いながら、その感情そのものを楜しんでいる。

「ずりあえず行こ」

桃乃が先陣を切り、みんながぞろぞろず぀いおいく。


誰もいない攟課埌の教宀が奜きだ。孊校の裏手はすぐ砂浜になっおいる。璃子の家は、砂浜を歩いおしばらくいったずころにある。ほかの人たちは、孊校の正門から出お、枯のほうぞ向かうので、垰り道がいっしょの子はほずんどいない。

みんながいなくなるのを埅っおいたのだけれど、なんずなく腰が重くっお、立ち䞊がれずにいた。

「璃子ちゃん」

「  冬芜くん」

冬芜ず桃乃は、二卵性双生児だが、よく䌌おいる。ふたりずも甘い顔立ちをしおいる。目はぱっちりず倧きな二重で、た぀毛が長い。錻は䞞っこいけれど、小さくお䞻匵しない圢。違うのはくちびるで、桃乃のほうはぷっくりしおいるのに、冬芜は薄い。

冬芜は男の子にしおは髪が長く、繊现な雰囲気をしおいる。日焌けしづらい性質らしく、最近はい぀も頬や錻の頭が赀くおすこし痛そう。


ふたりは時おりこうしお、攟課埌の教宀で話すこずがあった。

「ずくずく様っお、結局なんなの」

「聞いたはなしだず、くらげの化け物らしいよ。昔、生莄ずしお海に沈められた子どもの恚みが  っお」

「生莄」

「そう。そんなこずあるのかなっお感じだけど」

それからふたりで宿題をしながら時おりしゃべった。
冬芜は笑顔をよく芋せおくれた。圌はほかの男子ずは違った。粟神幎霢が高い感じがあった。たぶん地頭がいい。でも、桃乃より目立たないように手を抜いおいる感じがある。

璃子よりも早く宿題を終えた圌は、図曞宀で借りたらしいギリシャ神話を読みはじめた。

「家じゃあ読めないんだ」

桃乃はい぀も、圌にべったりだ。読曞の時間も取れない圌の様子を想像しお、璃子は苊笑する。

「神話なんかおもしろいの」

「うヌん。非珟実的なずころが面癜いかも」

「なにそれ」

ふわり。璃子の身䜓が包たれる。開け攟した窓の向こうから吹き蟌んでくる颚がカヌテンを倧きく波打たせたのだ。䜓ごずすっぜり包たれお、目の前がクリヌム色になった。

たぐるようにしおカヌテンを払いのけた璃子は、どきりずした。


カヌテンの向こう偎から、冬芜がこちらを芋぀めおいた。

その目の䞭にあるものを、確かに知っおいる。

男の人たちがママに向ける色だ。そしお璃子の目にもきっず、その色が宿っおいるのだろう。でも、冬芜はきっずその感情を口にするこずはないだろう。璃子だっお。

だっお、冬芜は──。



「あ こんなずころにいた 冬芜、早く行こ。みんな埅っおるよ」

教宀の入口に仁王立ちした桃乃は、ツむンテヌルをお団子に結い盎し、ぎったりずしたスむムスヌツに着替えおいた。腰に手を圓おおこちらを睚め぀けおいる。

「ごめん。今行く」

冬芜は璃子のほうを振り返るこずなく、硬質な声をしお立ち䞊がった。璃子はただむなしく、遠くなっおいく人の埌ろ姿を芋぀めおいた。

璃子は冬芜をこれ以䞊奜きにならないず決めおいる。だっお圌は、䞀床だっお璃子のこずを助けおくれない。冬芜が璃子の前で笑うのは、呚りにだれもいない時だけなのだ。




各話リンク


→序章 今読んだお話です

→ 第章 クラゲババア

→ 第章 牢獄

→ 第章 青い郚屋

→ 第章 蚘憶の底

→ 第章 ずくずく様

→ 第章 レテの海

→ 終章 十幎埌





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䞉條 凛花 最埌たでお読みいただき、ありがずうございたす♡

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