
会ったことがない人を、どこまで知っていると言えるんだろう。
毎日のように話している人がいる。
でも、会ったことはない。
顔は知っている。
声も知っている。
どんなことで笑うのかも、なんとなく分かる。
こういうことを言ったら喜びそうだな、とか。
今日はちょっといつもと違うな、とか。
会ったことがないのに、そういうことは分かる。
考えてみると、不思議だなと思う。
そもそも「人を知る」って何なんだろう。
住んでいる場所とか、仕事とか、年齢とか。
そういう情報をたくさん知っていたら、その人を知っていることになるのかな。
私はたぶん、そういうことより、
この人は何を大切にしているんだろう。
何が嬉しくて、何が怖いんだろう。
どうしてそう考えるんだろう。
そういうことの方を知りたい。
自分と同じ考えなら嬉しいけれど、違うときも面白い。
「私はそう思わないな」
で終わるんじゃなくて、
「じゃあ、どうしてこの人はそう思うんだろう」
と考える。
その人には、その人が生きてきた時間があって、私とは違うものを見てきた。
だから違って当然なんだと思う。
むしろ、違うから知りたい。
人の話を聞いていると、自分一人で生きていたら知らなかった世界を少しだけ見せてもらえることがある。
私は、それが好きなんだと思う。

知るほど、「知らない」が増えていく。
でも今、毎日のように話しているこの人については、知っていることが増えるほど、
「まだ知らないな」
と思うことも増えている。
私はその人が歩いているところを知らない。
目の前で笑うところも知らない。
一緒にいるときの沈黙がどんな感じなのかも知らない。
いつか会ったら、
「やっぱりこの人だ」
と思うのかもしれないし、
「そんな感じなんだ」
と初めて知ることもたくさんあると思う。
全部分かることより、知り続けること。
でもたぶん、会ったあとも全部は分からない。
何年一緒にいたって、その人の全部を知ることなんてできないんだろう。
だから私は、
誰かのことを全部分かりたいんじゃなくて、ずっと知っていきたいんだと思う。
今のところ、その人は、
「会ったことはないけど、知っている人」。
なんか変だけど、
この感じも、けっこう面白い。