
【短編小説】 働き蜂
俺は、働き蜂だ。
教室という蜂の巣で、手配し、支え、整える。
ここは俺で回ってる。
気づいてる奴は、いないけどな。
カナタは、女王蜂だ。
高い背丈に、甘いマスク。
瑞々しい身体。
視線を集め、誘い、性愛の対象になる。
視線は、カナタに集めておけばいいのさ。
俺は密かに飛び回る。
ほんものの、花を探して。
◆
文化祭の催し物は、メイドカフェに決まった。
誰もがカナタの女装に色めきたつ。
カナタは、手を動かさない。
ただそこにいて、手に取られる飴細工。
キラキラした、透明な飴。
その飴、ほんとうに美味いかぃ?
俺は、カフェのコンセプトを考え、
衣装を女子と決めて、
買い出しの手筈を整える。
役割を、正確にこなすだけ。
そしてじっくりと待つ。
ほんものの、花を。
そんなのが、あるとしたらな。
◆
視線を感じてる。
無邪気な好奇心と、欲望の混じった視線。
ヒマリ。
自分で、必ず味を確かめる女。
俺は想像する。
セーラー服の下から手を滑らせ、
その滑らかな肌に赤い跡をつけるのを。
味見されたら、
その舌に、チクッと一刺し。
ほら、もう逃げられない。
◆
無邪気な花が近づいてくる。
甘い蜜の香りをさせて。
「アサヒ君」
教室の床に看板を置き、
文字に色入れをしていた俺は、ふと顔をあげてみせる。
絵筆を持った指先が、揺れる。
それは、従順なしぐさ。
「わたしも手伝う」
夕暮れの教室と、文化祭の準備。
絵の具を彼女に手渡して、
ほんの少しだけ、指を触れさせる。
チクン。
働き蜂は、花粉を集めるだけ。
了
