
【短編小説】 女王蜂
女王蜂って退屈だ。
だって、何もしなくてもいいんだぜ。
おれの姿に寄ってくる花達。
その中から一輪選んで、摘んでみる。
摘んでくれっていうから、手を伸ばすだけ。
そこに大きな意味なんてない。
……ほんと、退屈だろ?
◆
文化祭でメイドカフェをやるって決まった時、
おれの役割は決まった。
催しを決めたのはあいつ。
アサヒ。
おれは知ってる。
アサヒは大人しい蜜蜂なんかじゃない。
獰猛な、針を持つ雀蜂だ。
「女装して〜」
はいはい、やるよ。
皆が望むなら。
おれは何も提案しない。
それなのに、教室はおれを中心に回っていく。
ふっと笑いそうになる。
花と蜜なんて、飽きるくらい舐めている。
◆
ヒマリが、アサヒを見ていた。
女子たちと、衣装を考えているアサヒの姿を。
どこに買いに行く?
ドンキに売ってるんじゃないかな。
アレンジしようよ!
いいね、ミカちゃん手芸部だもんね。
吸い込まれそうなくらい透明で、
見たこともない景色を見たようなヒナタの瞳。
無邪気で、無垢な子どものような瞳。
カラン。
彼女が舐めているソーダ飴が鳴った。
すこし開いたくちびるから、息が漏れている。
おれは一歩踏み出そうとして、立ち止まった。
たった一歩が、ひどく重く感じたんだ。
◆
ヒマリとのキスは、透明な味。
彼女の身体が反応するのを確かめて、
ゆっくりと中に分け入る。
でもさ、知ってる。
ヒマリはおれを見ちゃいない。
おれは、飴の味を知ってみたいのに。
◆
ヒマリは、おれの内面を見ていない。
いや、見ていない訳じゃないかもしれない。
ヒマリは探している。
包み紙じゃなくて、舌に合う飴を。
おれの味だって知ってくれよ。
何が足りない?
甘さかい?それとも酸っぱさ?
◆
卒業式の日に、セックスしよう。
ヒマリとおれの約束は、
夕暮れの曖昧な距離に、立ち止まっている。
それは、約束という名の拘束。
白い制服の背に触れそうになり、
ふと引っ込める。
おれは、女王蜂なんかじゃない。
噛み砕いた飴の欠片が刺さって、
いつまでも血の味がしている。
了

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