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殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 【#1 早すぎた推理ショー ─AI時代の交渉ゲーム─】 No.3

    #1 早すぎた推理ショー ─AI時代の交渉ゲーム─ はじまりのページ


     1ヶ月のカンヅメ生活で作家たちが奏鳴館に入館してから7日目の昼過ぎ。

     奏鳴館の会議室の前で田原編集者が館のスタッフふたりにお辞儀をした。

    「アンケートありがとうございました」

     田原編集者は、館の男性スタッフの鹿部代護と、館の女性スタッフの外浦すみかからアンケートを取っていた。

    「ぼくたちの用事はこれでよろしいでしょうか?」

     鹿部が田原に尋ねる。

    「すみませんが、黒染まゆみさんからみなさんを集めるように言われていますので」

    「黒染さん……か」

     鹿部は黒染の意図がわかり、意味深に言った。

    「黒染まゆみってあの方ですか? あのミステリー作家さんは、生成AIで作った画像かどうかわからなかった探偵力ゼロのヒトですよ。ツッコミとかが面白いヒトですけど、現実とかで関わったらダメですよ」

    「外浦さん……、新進気鋭の若手作家たちが集まる創作の館で、カノジョは編集長に任された探偵役ですよ。この館のナゾを解いてくれるのはカノジョだけです」

    「ミステリー小説だったらミステリー作家が探偵役でいいですが、現実でミステリー作家がナゾ解く立場になんてなりません。警察が来て、現場検証して、犯人を当てる! でも、現実は誰も死んでいないし、警察も来ない。だからナゾなんて解いても何も解決してません」

    「それがあなたの言う現実なのでしょうか?」
    「そーです!」
    「それでしたら、ぼくからひとつ申しあげたいことがあります」

     鹿部は一呼吸置いてからこう話す。

    「この館にある物語を奪い取るがAI作家ハンターの手口」

    「物語?」

    「AI作家になったら、出版会社から仕事のオファーなくなるでしょう? AIが書いた作品じゃないかと」 

    「ああ、そういうことですかー」

    「そうそう、物語を奪われるというのは、作家の仕事や小説の価値がなくなるってこと。“外”のみんながAI作家と思うだけで、そのヒトの作品の価値はAIと同等になる。作家の人生のページがAI作家ハンターにごっそり奪われる」

    「でも悪いのはAI使って作品を作る作家さんでしょ? 読者は作家さんの作品にAI使っているか使っていないか知る権利があります」

    「一理あるね。たしかに、キミの言うとおり」

    「そーです、そーです。AI作家ハンターは読者のためにいます。物語にAIを使ったら、人間の気持ちがAIになっちゃう」

    「それは言える。AIは人間の物語をマネできない」

    「じゃあ、あなたがAI作家ハンター?」

    「いいえ、ただの雇われスタッフですと」

    「じゃあじゃあ、誰かな? 作家の中にいる?」

    「ええ、そのヒトは“作家“です」

    「ウッソー!」

    「……どうしてウソだと思ったかな」

    「ええっと……その」

    「答えなくても大丈夫です。ぼくはウソをつきません」

    「それはちょっと信じられないなー、冗談じゃないの」

    「ミステリー作家の黒染さんがこの館のナゾを解いてくれますよ」

    「作家さんがいっぱいいるからそんなデタラメを信じているんですか?」

     すみかは相手を刺激するような言い方をするが、鹿部はこう切り返す。

    「デタラメではありません。この館には作家さんがいっぱいいるから、どのストーリーを採用するのか迷っていただけです。今回はミステリーを採用したみたいです」

     館のスタッフの間の会話が途切れ、田原編集者が会議室のドアに手をかける。

    「それではミステリー作家、黒染まゆみさんの推理ショーのはじまりです」

     会議室の扉が開かれた。

     会議室に入った田原と鹿部、外浦。外浦は会議室の扉を閉じて、鹿部の後に続くように歩いた。館のスタッフふたりは会議室の後ろに立った。

     田原編集者が会議室の前まで行くと、黒染に耳打ちをする。

    「館のスタッフ2名に簡単なアンケートを取りました」

    「どう答えた?」

    「ひとりは館の“外”、もうひとりは館の“中”を希望しました」

    「ありがとう」

    「それと、氏家さんは会議室に来るのを拒否しました。小説を書きたいとおっしゃいました」

    「わかった。彼女はそれでいいよ」

     黒染は自室で小説を孤独に書き続ける氏家を思い出しながら、ホワイトボードの前に立った。

    「こんにちは、ミステリー作家の黒染まゆみです。奏鳴館の会議室にお越しいただき、ありがとうございます。ミステリー小説は書き慣れていますが、ミステリーの話を皆さんに解説しながら事件を説明する、つまり推理ショーというのは正直はじめてでございます。ただ、これだけは言えます。この事件は『ミステリーの文法』で『物語を解剖する』ことができます。警察が来ない、編集部は手を出せない、どうしようもない状況ですが、ご安心を。ミステリーの文法を使えば、この事件の全体像がわかり、ナゾが解けます。では、始めましょう。AIのない館の全貌を解いていきましょう」

     黒染はお辞儀をすると、氏家を除く入館者たちも礼をした。

    「ここからは普段の私で行くよ」

     黒染はホワイトボードにあったマーカーを手にし、AIのない館で起きた事件の全貌について説明する。

    「都内で猛暑が続く中、私たち作家7人は長野県のリゾート地の高級別荘館で創作活動をしていた。AIを使わずに作品を作る、通称AIのない館で1ヶ月のカンヅメ生活をするつもりで来た。いや、ホラー作家、姉川鬼人《あねかわきびと》は下見で辞退したから6人だ。このAIのない館でスマホを秘密裏に持ち込んだ直方さんがAI作家ハンターによって、AI作家として処刑《ハント》された。彼は第1被害者ではあるが、これは完全なる自業自得であり、正直言ってフォローできない。ここで問題が終わればよかったがそうは問屋が卸さない。AIクリエイター暴露系動画投稿者、仮刈がSNS、つまり館の外から入り込んだ。彼はこの館にいるスマホを持つ者を、ネット動画で通じて、合法的なデスゲームへと作りあげた。「そいつはAI作家だ」とでっちあげるだけでAI作家にできるシステムを組んだ。作家たちはAI作家になりたくないと、互いが互いを疑いあう疑心暗鬼ゲームが発生し、その結果、第2の被害者を生んでしまった。第2の被害者は歴史作家の氏家桐絵さんだ。彼女は仮刈の動画によって、自分たちと同じ正義感を持つAI作家ハンターの仲間だと世間に認識された。それが原因で、カノジョの中にあった作家としてのアイデンティティーが崩壊してしまった。……自分は人間だと信じ、けして完成しない歴史小説を書き続けている。これは無間地獄に等しいことだ。──さらに、AI作家ハンターは作家の誰かにスマホを渡し、AI作家を撮影すれば館から脱出できるとネット動画で説明し、AI作家ハンターは自分の仲間を作りあげた。その仲間を作り上げる行為が第3の犯行と言える。これが事件のあらましだ」

     黒染はホワイトボードの左側に、『第1被害者、大衆小説作家』と『第2被害者、歴史作家』『第3被害者、AI作家ハンターの仲間、?』と書いた。

    「ここであることに気づいているヒトがいると思うが、言わせてもらう。実は『誰も死んでいない』。『殺されてもいない』。『死体も存在しない』。そして暴力と言えるモノもなければ、血も流れていない。中傷的な言葉や悪口があったかもしれないが、人格を否定するレベルとまでは来ていない。つまり、この館で起こった事件は、実のところ、『殺人のない館』であり、警察がおいそれと介入できない複雑な問題だ。AI作家ハンターはそれを知ってかしらずか、法律の範囲内で犯行を起こした」

     殺人のない館

     ミステリー作家はホワイトボードの上の部分にこの事件のタイトルと言うようにそう書いた。

    「さて、なぜ私が探偵役に立っているか? というと、ミステリー作家だから、というミステリー小説的なお約束ではなく、私が館のしおりでメモを書いていたことが理由だ。冴島楓《さえじまかえで》編集長から白、つまりAI作家ハンターではないと推理された。仮刈が最初に投稿された動画には館のしおりのシーンがあって、その中のページにはメモ書きといったモノがどこにも書いていなかった。館のしおりは入館者1人につき1冊だ。余りはない。この館の入館者はすべてで10名、ミステリー作家の黒染《くろぞめ》まゆみ、大衆小説作家の直方一進《のおがたいっしん》、恋愛作家のやまもとなお、ネット小説作家のイカロスパスタ、SF作家の伊吹《いぶき》セカイ、歴史作家の氏家桐絵《うじいえきりえ》。あとは、編集者の岩永くんと田原さん、そして館のスタッフ、鹿部代護さんと外浦すみかさんだ」

     ホワイトボードの図

     黒染
     直方
     なお
     イカ
     伊吹

     氏家
     岩永
     田原
     鹿部
     外浦

    「さて、ここからどうやってミステリーの手法で調理するか。まずはー、──白を決めていこう。直方さんがAI作家ハンターにハントされた動画の撮影日は3日目の夜で、階段の踊り場で撮られた。つまりぃー、この時間のアリバイについて調べればいい。私はそれを5日目に調査した」

     黒染は右側の作家の名前が書かれている部分に、ここ注目してと言わんばかりに、右手をぶらぶらさせる。

    「黒染さん、鹿部の文字が間違っています」

    「へ?」

     鹿部はそういうと、後ろを向いてすっとんきょうな声を出した黒染のそばへと近づき、耳打ちするように話す。

    「──黒染さん、正直ついていけない。“失敗だよ、この推理ショー”は」

     黒染は鹿部の文字の横に手を置いて止まった。

    「3日目、5日目と言われてもわかるはずがないし、情報が洪水で頭パンク。話がハショりすぎで、物語の背景が飛んでいる。全然エモくない、もう少しキャラ付けが欲しい。物語が迷子で、プロットがぶっ壊れている。実にお粗末。お相手さんはこの物語を共有する気はないよ」

    「他に方法がなかった。今、推理ショーをしないと私たちは確実に負ける」

     黒染は囁き声で鹿部に返す。

    「キミがこうするしかなかったのはわかる。捜査ページが省かれたミステリー小説のように、推理ショーで巻き返すしかない」

    「自覚してる。正直、怖い。ロジックの裏付けがない」

    「AI作家ハンターから物語を奪われるって怖いね。ページごとごっそりと頂かられた。推理ショーからミステリーがスタートなんて絶対にあり得ない。でも、そうするしかなかった。お相手さんは何一つミステリーの手がかりを残さなかった」

     黒染は鹿部の横に置いた手をずるずると下ろす。

    「物語が不十分でもこの推理ショーには強い意味がある。これが終わったら少し話をしよう」

    「キミが犯人の可能性があるが」

    「黒染さんはもうわかっているんでしょ。あのアンケートで答えは出たよ。見事だった。ここから巻き返しだ。この推理ショーは“デコイ”だけど、最後まで付き合ってあげるよ。ラスト少し前から見始めたミステリードラマを視聴するみたいにね」

     鹿部は黒染にそう言い残し、元の場所へと戻った。

     黒染と話した鹿部はすみかの隣に並ぶ。

    「鹿が度に見えましたが、よく見たらあっていました」

    「ドってどゆこと?」

     すみかはスマホを見ながら、何かを操作していた。

    「……いや、何でもありません」

     鹿部はすみかのマイペースな態度に呆れる。

    「あなたにも物語が共有できるように、黒染さんに注意しましたが、とても残念です。現役ミステリー作家の推理ショーに興味ないのでしょうか」

    「これでも話聞いていますよ。いや、どっちかというと聞かせているのかな?」

    「誰に聞かせていますか?」

    「AIアプリにですよ。音声入力モードにさせて、ミステリー作家さんの推理に矛盾が飛躍がないか調べています!」

    「いまのところどうなの?」

    「材料が少ないってー、捜査記録や過去の履歴があれば、調べることができるみたいですが……ありますか?」

    「AI作家ハンターは作家たちの言葉を奪いました。AI作家と疑われる彼らの証言は、この事件の真実へと導ける代物ですか?」

    「うーん、AI作家だからすべての発言が信じられない?」

    「はい。AI作家に疑われるって、そのヒトにある言葉を奪われるってこと。この館にいるみなさんは世間からそういう目で見られています」

    「そーか。大変ですねー。ミステリー作家もウソついてなんちゃって推理ショーをしてるわけですね」

    「……キミもそう思うの? 少し冗談を交えて言っただけよ」

    「あ、そーですかー。AI使ってミステリー作家さんの推理を確認していますからだいじょうぶです。信じていいみたいです」

     ふたりが雑談をしていると、黒染がホワイトボードを力控えめに叩く。

    「いいかなー、キミたち。話を進めても」

     鹿部は黒染の方へと振り向き、頭を垂れる。

    「かまいません。黒染さん、おねがいします」

     おくれて、すみかも頭を下げる。

    「おねがいします」

     黒染は端麗な女性の表情へと戻す。

    「気を取り直して、3日目の夜──」

     ピピピピピピッ

     黒染が話を再開しようとすると、スマホの着信音が聞こえてきた。

     みんないっせいにすみかの方を見る。

    「このスマホじゃありませんって!」

     すみかがスマホを下げると、会議室にいる作家たちは耳をすませる。

    「外……廊下?」

     作家たちは会議室の扉の方を向く。会議室に出入りできる扉は1つしかない。そちらへ向くのは自然だった。

     黒染を先頭に会議室の扉の前に立つ。カノジョがその扉に手をかけ、それを開ける。すると、スマホの呼び音が会議室に流れ込む。大音量の波の方へと視線を追いかけると、会議室の向かい側に大きな音を奏でるスマホがあった。

    「会議室から出た者はいない。誰のスマホなんだ……」

     直方の一言に、イカロスパスタが反応する。

    「直方さん。あんたのじゃないだろうな」

    「あのなー。確かに俺はスマホをこの館に1台持ちこんだがもう手元にはない。しかもそれが原因で、“外”からAI作家というレッテルを貼られている」

    「事実だろうが」

     イカロスパスタは直方に対し、皮肉気味に返す。

    「……誰のでしょうか? クロゾメさん。あたしのモノではありません」

    「なおちゃん、あんな個性のないスマホは私のじゃない。伊吹くんが使っているものでもないね」

    「はい、黒染さん。あんなゴムカバーつけているスマホはボクのじゃありません。作家さんのスマホは全員預かっていますよね? 岩永さん」

    「会議室の金庫に保管しています。推理ショーの前に確認し、作家さん全員のスマホはありました。ただ、あんなゴム付きのスマホはなかった気がします。氏家さんのは手帳型で、他のみなさんはプラスチックカバーでした」

     伊吹の質問に岩永はそう答えた。

    「じゃあ誰があんなところにスマホを置いたんだ?」

     直方の一言に黒染は口を開く。

    「AI作家ハンターか」

     黒染がそう言うとスマホが鳴り止んだ。会議室前の廊下が静かになった。

    「……クロゾメさん」

     スマホの音が急に切れたことに不安を感じたなおは心配そうな目で黒染を見る。

    「これはメッセージですか?」

     黒染はなおに安心させるように返事する。

    「メッセージだね。私の推理ショーをやめろと、AI作家ハンターからのお知らせだ」

    「お知らせって……、これは警告です!」

    「そうだね、警告だね。──で、だれが持ってきたんだろうねー」

     黒染は編集者と館のスタッフを吟味するように見回る。

    「この館でスマホを持っているのは4人。そして、館を出入りできるのもその4人だ。スマホの1台や2台持ってくることができる。──っと、まだ弁明とかしないでくれよ、みんな。外にいる連中と連絡できれば、作家でもできる。つまり、これでは誰がAI作家ハンターか詰めることはできない」

    「……外から侵入した?」

     イカロスパスタは黒染にそう尋ねる。

    「その線はある。が、会議室の前に置いたという前提条件がある。これはけっこうリスキーだ。表には監視カメラがあって、裏口はカギがかかっている。裏口のカギを持っているのは鹿部さんで、彼がすべての部屋を出入りできるマスターキーを持っている」

    「はい。そうです」

     鹿部は素直に答える。

    「ただ、作家たちの寝泊りしている自室の窓から出入りしたということは考えられる」

     黒染がそういうと、イカロスパスタが尋ねる。

    「じゃあ、AI作家ハンターと手を組んだ仮刈が侵入した?」

     黒染は首を左右に振る。

    「それはない。彼らはクリーンだ。合法的に私たちを攻める。建造物侵入なら警察呼べる。だが……」

    「そのスマホをこの中にいる人物が仕掛けたモノならきびしい。合法だから」

    「そのとおりだ、イカロスパスタくん」

     黒染はイカロスパスタに目の前にあるスマホを警察に任せても無駄な理由を述べる。

    「このスマホを警察に渡してもピーンと来ない。AI作家ハンターが仕掛けたモノだとその理由を話しても、拾得物としか取り扱われない。スマホの中に超小型爆弾があると言わないかぎり、相手にされない」

    「そっちの方が相手にされませんって!!」

     イカロスパスタは黒染の一言に対し、 ピシッとツッコミを入れた。


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    #創作大賞2026 #ミステリー小説部門 #殺人のない館_AI時代の____ゲーム


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