
殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 【#1 早すぎた推理ショー ─AI時代の交渉ゲーム─】 No.4
#1 早すぎた推理ショー ─AI時代の交渉ゲーム─ 2ページ目
「……僕が取ってきます」
岩永編集者が会議室のドアから身を乗り出し、左右に視線を配る。誰もいないことに安心して、廊下へと出る。
彼は廊下の壁のそばにあるスマホを手にし、会議室へと持ってくる。
「岩永くん、ありがとう。さあ、それを捨ててくれ」
黒染がそう言うと、岩永は首を横に振った。
「電源をつけましょう、黒染さん。犯人が呼んでいます」
「つけるな、画面をつけるな。これはワナだ」
「黒染さん……、これがワナなのはわかります。氏家さんは仮刈の動画を見たことで彼女の心が……」
「言わなくていい。このスマホは、あちらからの攻撃だ」
「でも、僕はこう思います。なんで今なのかって……」
岩永はAI作家ハンターの行動をこう見る。
「焦っているんです。AI作家ハンターは自分の正体がわかれば、どうなるかわかっているんです。だから、これは彼らが交渉したいという誘いです」
「それはわかっている! だが、この事件の主導権は彼らにある。彼らの思惑に乗るんじゃない!」
「黒染さん──責任取りますよ! 僕! 」
岩永はスマホの画面を開け、画面を上へとスワイプする。
「このスマホを勝手に爆弾扱いにしないでくださいよ」
そこにはウェブカメラに映る仮刈の姿があった。彼はクレーンゲームにありそうなぬいぐるみに囲まれて、ベッドの上に座っていた。彼の表情は気だるげであった。
岩永はホワイトボードの真ん中に手にしていたスマホを設置した。会議室にいた作家たちは仮刈のライブ配信を見る。
「お初にお目にかかります。ミステリー作家さん、いえ黒染まゆみさん」
「……仮刈」
「はい、AIクリエイター暴露チャンネル【狩り狩りドクター《カリガリドクター》】の主、仮刈です。この度は色々とすみませんでした」
仮刈は丁寧に頭を下げて、ベッドの上に座る。サングラスをつけたその目はどんな表情をしているのか読めない。
「スリムサングラス、グラサンを外したらどうだ?」
黒染が仮刈にそう呼びかけると彼は小さく笑った。
「これは自分の個性です。夜道歩いても安心して歩けるためのモノです」
「安心して歩くなら外した方がいい。あやしいから」
「肝に銘じます。……それでミステリー作家さん」
「なんだ?」
「取引しませんか?」
会議室が急激に冷え込む。冷房が効いた室内であったが、この場にいる者は血の気が冷えた。
「……どんな取引だ? スリムサングラス」
「この館の中にAI作家さんがひとりいます。それは誰かを言ってもらえば、これ以上、動画を投稿するのをやめにします」
「作家が作家を裏切れと」
「そうは言ってません。居るんですよ、AI作家さん。ホントに。ええ。むしろ、自分はAI作家さんにそう言ってもらいたい」
仮刈は画面に向かって指をさす。
「まず、SF作家の伊吹セカイさん。あなたは大衆小説作家の直方さんに自分の持っていた悩みに刺激され、心がつぶされた。部屋の中に引きこもって居る──はずだった」
「ええ、メンタルがつぶされましたが、なんとか調子戻しました。スマホを持ち込んだ直方さんはAIと相談し、SFに未来がない──SFにあった、未知へのおどろき《センスオブワンダー》はAIに取られたと言われました」
「そこで聞きます。AI作家ハンターにハント、つまり、直方さんがAI作家になったことを心から喜んでいませんか?」
「ないというとウソになります。ただ、AIはSF創作の番人だと言う認識はあります。AIを使ってSF考証をする読者に満足できる作品でなければ、これからのSFは存在しません」
「なるほど。AIの付き合い方をよくわかっている。……次に、イカロスパスタさん」
「なんだ」
イカロスパスタは自分の番だと知ると、目つきを強くした。
「ネット小説家、いえ、なろう作家、もしくは異世界専門の先生ですね」
「言いたい事があれば言ってくれ。偏見には慣れている」
「それではひとつ。どうしてそんなに早くモノをかけるのでしょうか? AIを使っているからでしょうか?」
「DMでよく聞かれるが、オレはキャラの声が聞こえるからそう書いているだけだ」
「作家にとってうらやましい能力ですね。でも、そんな特性もAIには勝てない。AIがあなたの望むキャラの声を代筆してくれますよ」
「SNSから抜きとった文章をキャラの声とは言わない。オレはオレの心のフィルターを通した声がキャラの声なの。AIのフィルターを通した声は、AIの声なの」
「AIを憎んでいるようですね」
「ああ。AIチートは許さない! 作家は作家の力だけでモノを書くべきだ! AIが書いた異世界なんて面白くない!」
「よろしい。では、この館にいるAI作家を名指ししても何の問題もありませんね」
「問題?」
仮刈は食いついてきたと言わんばかりに不気味な笑みを見せる。
「あなたは最初に小説を書き上げたい。誰よりも早く。だけど、AI作家にされるリスクがある。なぜならあなたの持つ素早く文章を書ける力を全員が嫉妬している。1ヶ月のカンヅメ生活においてあなたの文筆力はチート級だ。と言うことは、勝ち確のあなたを陥れたいと、作家たちは思っている」
「で、どうしろと」
「ホントの勝ちを手にしたいのであれば、思いきって、AI作家を告白してみませんか? 自分たちの仲間になればもう二度とAI作家と呼ばれることはありません」
「ここまで性根が腐っているヤツだとは思わなかった、仮刈」
「いえ、作家のみなさんが声にできないことを代わりに言っただけです。いわゆる“言語化”ってヤツです」
「……炎上するぞ、オマエ」
「望むところです。では、そのAI作家を告白できなかった……やまもとなおさん」
なおは仮刈からの呼びかけにできるだけ無反応に答える。
「何でしょうか、カリカリさん」
「残念です。非常に残念です。AI作家を匿うなんて。物語の裏切りですよ。もう」
「そんなの知りません。忘れました」
「忘れたというウソはダメですよ。オトナの言葉を若いコが覚えたら、ひどい目にあいます」
「そんなの知りません。忘れました」
「仕方ありませんね。そんな言葉を使うあなたに、あなたがすべきことを思いださせる必要性が出てきました。今日の朝、あなたたち館に来てから7日目ですね……、自分が動画サイトに投稿した動画を見せてあげます」
仮刈は自分のスマホを手にすると、スマホ越しに、館にいる作家たちに動画を見せる。
「ここでひとつプレゼント企画を発表します。それはAIのない館での“脱出装置”です。カンのいい視聴者さん、作家さんたちはこの動画を見ています。AI作家のスマホから見ているかはわかりませんが、どこかで必ずこの動画を見ています。ひとりの作家さんにだけ自分から“あるもの”をプレゼントしました。使い方は明日この動画で発表します。それでは、次回!」
この動画を彼らに見せた後、仮刈は半笑いになっていた。
「すいません、これは6日目、昨日の『プレゼント企画』の動画でした。今日、7日目の朝の投稿した動画はこちらでした。タイトルは『おめでとう』です」
館にいる作家たちの声を聞かずに、仮刈は再度彼らに目的の動画を視聴させた。
「おめでとう。AI作家ハンターの仲間が増えました。歴史作家の氏家桐絵さんです!!」
動画投稿者の仮刈が拍手すると、画像が切り替わった。
「彼女はこの館にいるAI作家を探すためにこの館でAI作家ハンターとして活動していました!!」
その画像は小型カメラを持って撮影を望もうとする氏家の姿であった。
「この写真はAI作家のAI不正を取り締まろうとする姿です。氏家さんは自分にある正義を信じ、自分の創作よりもAI作家をハントしようとする力強さを感じられます。ああ、彼女は素晴らしい、彼女の正義は彼女の正義は!! 自分が信じる! AI作家を憎む! 同じ志を持つ“正義”を持った人間! AI作家ハンターを体現した! 人間の作家そのものです!!──さて、昨日から言っていた“脱出装置”ですが、もうすでに受け取った作家さんがいるはずです。使い方はシンプルです。シンプルな方法です。“人間作家さんと同じことをしてください”。プレゼントの中身はスマホです。SIMカードのないスマホです。AI作家と思うヒトを撮影してください。AIのない館の中にいるあなたならわかるはずです。さあ、人間作家の氏家さんと同じように同じ正義を! AI作家と思う人間を指名し、この館から脱出してください! スマホの回収方法はスマホのメモに書いています。だいじょうぶ、あなたなら無事逃げ切られます。では、次回、投票型ハントゲームの結果を発表します。明日の正午をお楽しみに〜」
動画の再生は止まった。
スマホの画面は今の仮刈の姿を映す。彼は会議室にいる作家に呼びかける。
「思い出しましたか? やまもとさん。あなたは人間作家と証明できる方法として、AI作家を告白すればよかった。けれども、あなたはそれを無視した。これはいけない。これはいけないことだ。AI作家がAI作家を守った図だ。AI作家を匿ったと言われても仕方がなぃ──」
「──これはプレゼントです、作家さん」
仮刈の言葉を遮るように、黒染が話を切り出す。
「仮刈さ──これ、キミがなおちゃんにプレゼントしたスマホだよね? スマホの中にキミの指示があったよ」
黒染は仮刈に手元にあったスマホを見せると、スマホにあったメモ帳を読む。
「……これとは別に新しいプレゼントが3日後、他の作家の誰かに支給されます。それまでにAI作家と思う人物を撮影できなければ、あなたもAI作家対象者になります。AI作家をかばうのですからこれは当然の処置です。この館から出るにはこの脱出装置が一番早くて確実です。さあ、この館から脱出しろ。新たなAI作家ハンターよ。8日目があなたの晴れ舞台のスタートデイ、それまでに誰がAI作家なのかを予想し、決めてください。あなたが8日目の動画を視聴したとき、それがスタートの合図となります。では、あなた様のご活躍を心よりお祈りします」
黒染は淡々と話した後、AI作家ハンターが用意したスマホを岩永に預けると、仮刈をにらみつける。
「……この内容を提示されたら、裏切ることができない。しかも相手は学生だ。キミの声に従うしかない」
「ははは。では、本物のAI作家に意見を聞くことにしましょうか? ね、AI作家炎上事件の元凶の、直方一進さん」
仮刈がそういうと直方が反応する。
「オレはAI作家じゃない。AI作家ハンターにスマホ使っているところを撮られただけだ」
「AIのない館でスマホを使った。それもすぐに。これは言い逃れできません」
「オレは企画者なんだ。……いいか、この館を作りあげた人物なんだよ。AI作家ハンターを呼んだのもオレなんだから!」
「それは知っています。AIのない館を作ろうとしたその精神は認めます。しかし、企画者だったとは、初耳です。……AIのない館はウソだったのでしょうか?」
「……創作には使っていない。ただ、お前たち、AI作家ハンターと連絡するためにスマホを持ち込んだ」
「なるほど……あなたがAI作家でない言い分はわかりました。考えておきましょう。氏家さんとお話したいですが彼女はどこにいますか?」
仮刈の質問に黒染が答える。
「自室にいる。キミが押し付け正義は自分の正義じゃないと、小説を書いている」
「そんなことしなくても、AIのない館からご卒業でしょう? 小型カメラを持ち込んでまで、自分の正義を成立させたいと」
「その小型カメラは私が貸したカメラだ。私は館の内部を小説のネタにしようと持ち込んだ」
「ネタ集め……たいへんそうですね」
「氏家さんは私に内緒で直方の不正をとらえようと借りた」
「なら、同じですよ。自分は真実を“外”のみなさんに届けたに過ぎない」
「AI作家ハンターの正義は正義じゃない。ただのネット暴力だ」
「自分は“外”が欲しがる正義について何も話しません。自分は“外”が見たいものを用意するのが動画配信者のお仕事だと思っております。そう、自分はあくまでビジネスでAIクリエイターの不正をあばいて、正義という味付けを加えています。すべては再生数のために真摯にやっているだけです。ただ、少々エンタメという、見てくれる方を楽しませようとは思ってはいます」
「これもエンタメか?」
「はい、そうです──」
「それはちがうね、スリムサングラム」
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