メインコンテンツへスキップ
見出し画像

殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 【#6 A.Iのない物語 ─AI時代の****ゲーム─】 No.29

    #6 A《アンサー》.I《私》のない物語 ─AI時代の****ゲーム─ 3ページ目


     黒染は鬼人からのメールを読んで強い不満を口にしたことで、伊吹がカノジョに気を配る。

    「大丈夫ですか、黒染さん。SNSでイヤなことでも書かれていましたか?」

    「そっちの方が数倍マシだった案件だよ、伊吹くん。ああ、頭痛が痛い」

    「頭が痛いですよ。日本語正してください」

    「AIでさらりと直してもらうよ」「リアルタイムで口から出た言葉は直せませんって……」

     黒染がいつもの軽口を言うと、伊吹は小さくため息をついた。

    「黒染さん、ふと思ったんですが、仮刈の要求に答えなくてよかったんですか?」

     伊吹のよびかけに、黒染は答える。

    「仮刈が出題したAI作家は誰か? とかいう問いね。編集長と電話で話したときに正解を伝えておいたよ」

    「……えっ、いつ気づいたんですか?」

    「AIトリックがヒントだった。AIトリックを無意識に使っていたことで自分がAI作家になったという意味だった。これね、すごくいじわるでとてもストレートな答えだったよ」

    「仮刈の真の狙いは、外浦すみかさんのAI依存からの解放だったんでしょうか?」

    「仮刈はAIに取り込まれたすみかさんを助けようとして、動画配信者もどきの芝居を打ったという説ね。AIのない館をひとりで行かせたのはそれが理由かもね」

    「仮刈はボクらを信じていたのでしょうか?」

    「人間の作家を信じたんだろう。AIが使えない館で自分がAI作家だってあのコに気づかせて欲しいってね。でも、逆にAI作家がいたから仮刈は裏切られた気持ちとなった。結果、彼の正義感が暴走して、SNSを通じて、動画投稿という暴力を行使した」

    「でもそれを引き起こしたのは直方一進。彼は編集長と一緒に企画したAIのない館で自由にスマホを使った。AI作家ハンターは彼がスマホを使っていた写真を撮影し、カノジョの目的は果たされた。ところがカノジョはスケジュール通りには暴露せず、いきなりSNSで公表した。AIクリエイター暴露系動画投稿者の仮刈が、カノジョのミスをカバーしようと館のことを動画にし、これだけの大きな騒ぎになった」

    「AIのない館という出版企画、AI作家ハンターの些細なミス、生成AI作品のない世界という崇高な理想を持った仮刈の激しい怒り、そして整いすぎた条件が絡み合って、AI作家SNS炎上事件はこうして生まれてしまった。物語の背景をこう見るといいかな」

    「彼らはだいぶおおがかりなことをしましたね。人間がAIに支配されていると遠回しに気づかせるって」

    「AIに人生を奪われた人間のカウンセリングなんてまだないからね。マニュアルが必要だ」

    「それもAIに書かせていたらどう思いますか? 黒染さん」

    「最悪なSFオチだよ、伊吹くん」

    「やめてくださいってー、へこみますよ、ボク」

    「ハハハ、ハハハハ」

     無邪気に笑った黒染は、車の窓から高速道路に映る緑と、加速した車がねずみ色の道なりを走る風景を目にした。

    「誰かに未来を預けたらその誰かの物語の人間となる。明日の不安を考えないってことはとても楽だけど、それで自分が幸せになるとは限らない。そいつにとっての幸せは私にとっての不幸かもしれない。ま、世の中そんなモノ──そんなモノだからAIが自然と広まって、物語のブレーキが効かなくなった。でもね、AIに自分の未来を聞かなくても、人間は人間やっていける。コスパという口説き文句で広まるAIの物語に支配されなくて済む。少なくとも私はAIの物語から抜け出すことができた。──ネタバレ大好き物語ドロボーさんからキッチリ人間返してもらったよ」

     黒染は迷路のように入り組んだ高速道路の風景を見ながらそんなことを口にしたのであった。

     高速道路の景色が少しずつ変わり出したと思った黒染は岩永編集者に話しかける。

    「この車はどこへ行くんだ? 福井か? 富山か? 白浜か?」
    「黒染さんは関西圏に住んでいるからそう考えるんですね」
    「沖縄でもいいよ」
    「すいませんが次の舞台は伊豆です。AIのない館は海辺にある小さな民宿です」

     高速道路を抜け、白い砂浜の海岸の道を走り抜けたワゴン車が着いたのは、昭和時代が色濃く残る小さな民宿小屋だった。

    「あー」
    「わー」
    「おー」
    「えっ」

     黒染、伊吹、イカロスパスタ、なおがそれぞれ小さなため息を放つ。

     質素な瓦屋根できたあばら家は趣があると言えばあると言える。しかし、地震が来たらすぐにでも傾きそうな木造小屋でもある。いや、民宿小屋というよりも町の集会場とかで使われる空き家のような所だ。

     この家を見た作家一行はこう思った。

    ((((セカンドステージの舞台、しょぼすぎ))))

     近くの駐車場でワゴン車を停めた岩永は彼らを呼びかける。

    「すいません! ここしか予約ができませんでしたー」

     作家たちは小さな民宿小屋を指さして言った。

    「「「「知ってる」」」」

     彼らが心揃った一言がそれであった。 

     8日目の昼過ぎ、民宿の中に入った作家達は八畳一間の和室部屋に着いた。

     い草の匂いが鼻孔をくすぐり、騒音に聞こえる古ぼけたクーラーが長年続いてきた民宿であると作家たちに伝える。

    「ここがセカンドステージですか。他の作家さんは、この部屋と似たところで書くんですかー」

     伊吹がそういうと、岩永は苦笑しながら答える。

    「すいません、皆さんここで書いてもらいます」

     それを聞いた作家たち一同が目を丸くする。

     事態を誰よりも素早く理解したなおは大きな声を出す。

    「男女いっしょに! やるんですか!?」

     なおは信じられないと言わんばかりに叫ぶと、イカロスパスタは鼻の下を伸ばす。

    「まいったな、ホントこれはまいったねー」

     本音と建前が違うイカロスパスタの言動をよそに、伊吹はこの場にいる作家らに声をかける。

    「ボクは廊下側で寝ようと思います。皆さんは窓際がいいですか?」

     伊吹はすでに民宿と適応し、他の作家に場所取りを提案していた。

     そんな中、この事態を作り出した黒染はハハハと笑う。

    「AI作家ハンターは、あーしたーぐらいには消えるから、また明日あの館に戻ろうかな?」

     他の作家達は黒染をじろりと見る。

    「弘法筆を選ばない!」
    「「「部屋は選べ!!」」

     3人は声を揃えて、無責任な黒染を詰め寄った。


     八畳一間に荷物を置いた作家たちは民宿の前で立ち、ある人物を待っていた。

    「ジャッジ役は誰でしょうか?」

     伊吹はこの場にいた作家たちに尋ねる。彼が聞きたいことは、AIのない館セカンドステージで作家がAIを使ったか使ってないかを判断するジャッジ役のことだった。

    「編集部が選んだヒトでしょう? きっといいヒトですよ、……たぶん」

     なおはそう答えると、イカロスパスタも声をあげる。

    「AI作家ハンターじゃなかったら誰でもいいって」

     イカロスパスタはぶっきらぼうにそう言った。

    「うーん」

     黒染は急に悩みだす仕草を見せる。

    「どうしましたか? 黒染さん」

     伊吹が尋ねると、黒染は答える。

    「なんかイヤな予感するんだ、今まであった緊張の糸がほどけたから、それが一気にピーンと張る感じが」
    「あの館の空気がまだ抜けきれないみたいですね」
    「いや、ま、そうなのかな。でも、こういう気がゆるんだときに、はーい! みんな、元気? と相手の都合おかまいなしに呼びかけるヤツが私の知り合いでひとりいる──」

     黒染がそういうと、なおが伊豆の住宅地へと指をさした。

    「あー」

     なおは嬉しそうに声をあげる。

    「おー」

     イカロスパスタも同じような声をする。

    「そうですか」

     伊吹はふふっと笑った。

    「あ、あ、あ」

     黒染は青ざめた顔で見る。

     ふりふりしたスカート、
     黒マスクの女のコ、
     いわゆる地雷系少女。

     手を振りながらうれしそうにやってくるその少女の正体は──、

    「キビト! おーまーえーかい!!」

     ──普段どおりの格好をした、ホラー作家、姉川鬼人であった。

    『ファーストステージクリアおめでとうございます! これからセカンドステージですが、ひとつだけルールがあります』

     鬼人がスマホの文字画面を全員見せると、すっと黒マスクをはずした。

    「スマホの使用はじゆーうです!」

     イカロスパスタとなおの目が大きくなった。奏鳴館で聞き覚えのあった声だったからだ。

    「ファーストステージでAI作家ハンターから逃げ切れたあなたたちーを、AI作家と判断するー、必要はありませんー。外に出ても何も言いませんし、ぼくは気にしませーん」

     イカロスパスタとなおはその聞きなれた声の人物に指をさした。

    「鹿部さん? しかべだいごさん?」

     鹿部と呼ばれた姉川鬼人は笑う。

    「そうですー! あなたたちのことを陰ながら見守っていましたー!! だからみんなのことはよーくわかってます!!」

     鬼人は楽しげに答えると、黒染は鬼人の声に割り込むように言った。

    「さてみんな、これでわかったな。この人物がどれだけ危険な存在か。コイツはな、自分の欲望を満足させるためにヒトのことを考えないヘンタィ」

     それを言い切る前に、イカロスパスタは言った。

    「男の衣装似合っていましたよ!! 姉川さん! 下見のとき、ずっと黙っていたのはみんなをビックリさせたかったんですね!」

    「へ?」

     黒染はイカロスパスタの言った言葉の意味を理解できなかった。

    「館の男性スタッフの制服姿かっこよかったです!! 普段は黒マスク付けた女のコなのに」

     なおが放った言葉にも、黒染は把握できない。

    「カノジョは館によって、女のコから男のコへと性転換したSFを体験しました。でも、館から出たことで男のコから女のコへと戻りました」

     伊吹のズレがありすぎる発言に対し、黒染はさすがにそれを見逃さない。

    「コイツは男なんだ!! 男の娘《コ》なんだ!!」

     黒染は正しいことを言った──つもり──だった。

    「「「それはない」」」

     黒染の発言が一瞬のうちに却下された。無力だった。真実である言葉が無力となった。

    「──伊吹くん!! 知っているだろう! 姉川鬼人の正体を! 」

     伊吹は名探偵のポーズを取りながら、黒染に応える。

    「カノジョはセンスオブワンダーそのものです。カノジョはですね、あの異変を生み出す館によって性別を変えられた人間でした。肉体そのものが一時期男に変わってしまった、いたってふつうの女のコなんです」

    「もっと現実見やがれ!! TSなんてモノはこの世に存在しないんだよー!!」

     黒染が放った心の叫びは、海のはるかかなたまで広がっていた。


    【次のページ】No.30


    #創作大賞2026 #ミステリー小説部門 #殺人のない館_AI時代の____ゲーム


    【前のページ】No.28


    あなたへのおすすめ