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殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 【#6 A.Iのない物語 ─AI時代の****ゲーム─】 No.30

    #6 A《アンサー》.I《私》のない物語 ─AI時代の****ゲーム─ 終わりのページ


     1ヶ月のカンヅメ生活、セカンドステージのジャッジ役が誰かわかった、なおとイカロスパスタ、そして伊吹は民宿へと戻っていく。

    「姉川さんならだいじょうぶでしょう。ああ見えて、常識とかわかっていますよ」

     伊吹は鬼人の倫理性を信じ、ジャッジ役だと認めた。

    「えっと、じゃあ、合宿モノで女子が増えたことですか! オレ、1抜けしたいと思いましたが! もっといいモノを書きます! この民宿でゆっくりと新作を執筆します!」

     イカロスパスタは鬼人の色気に騙されて、この民宿での執筆作業に楽しんでいた。

    「姉川さーん! 今度、お風呂でゆっくりと話し合いましょう! いつも使っているスキンケアのメーカーおしえてくださいね!」

     なおは、自分でも知らない間に、とてつもない地雷を設置し、民宿小屋へと入っていた。

     民宿小屋の前に残された黒染と鬼人、ふたりはじっとみつめあう。

    「ただいま」
    「かえれ」

     鬼人の気持ちのいいあいさつに対し、黒染はトゲのあるあいさつで返す。

    「──ただいま」
    「かえれ」

     ふたりはまたも同じあいさつをする。

    「えっと、その、ただいま」

    「ああわかったわかったハラスメントソノモノ。ただし二択だ。二択のうちひとつを選べば、許してやる」

    「ハハハ、わかったわかった」

     鬼人はそういって、黒染からの二択を待った。

    「──腹フックがいい? それともあべし?」

     それを聞いた鬼人は半笑いで返す。

    「ゼッタイ新婚カップルの夫が家に帰ってきたときに言われるセリフじゃないとし、腹フック一択だよ、それ」

    「ありがと、腹フックで手を打つ」

    「腹フックね。──ハハハ、お手柔らかに」

     黒染が鬼人のむきだしのおへそに向けて、手を出そうとする瞬間──

    「何してるんですか? おふたりさん」

     ──と、岩永編集者が割り込んだ。

    「AI作家かどうかのジャッジ役は作家さんにすることで世間に対して透明性を示せ、公平性が担保されると編集長が判断されました」

     岩永は黒染に、冴島編集長が鬼人をこの民宿に派遣した理由を述べる。

    「それはわかる。編集者じゃダメだし、タレントだと少し過剰になる。熱があがりすぎたこの企画を冷やすには作家が一番だという考えは理解できる」

     黒染は冴島編集長の意図をこう読みとく。

    「でもな、コイツはヤバいんだ。あのAI作家ハンターとは別のベクトルのヤバさがあるんだ。ヒモが見えないバンジージャンプをしろと言うのと同じぐらいのヤバ味《み》があるんだ」

    「ヒモはあるからだいじょうぶでしょ?」

    「そういうことだけど、そういうことじゃない! ああーもう言語化できない!!」

     黒染はもどかしい気持ちでいっぱいになった。

    「編集者さーん、スマホありがとうございます」

     鬼人は岩永にスマホを返す。

    「えっと、これは黒染さんに貸したモノでですが、なんであなたが持っているんですか?」

     岩永は鬼人に疑念を持ち始める。

    (──そうだ、これが鬼人の持つおかしな力なんだ。常識と非常識の間を自由自在に渡れるコイツの力をうたがえ、うたがーえー)

     黒染が強くそう念じると──、

    「ま、いいか」

     ──と、カノジョの思いとは裏腹に、岩永の抱えていた疑問はどっかにいった。

    「岩永くん!! 私が編集部から借りたスマホを! どういう経緯でわたったのか疑問に思わないの?」

    「そんなこと考えるよりも、手元にそれがあるとわかっている方が気が楽でしょう?」

    「そうだけどそうだけど! それがキミのふつうなの!?」

    「はい、それが僕のふつうです。だって、このスマホがどういう経緯でどう使われたって考えても、僕にとってどうでもいいことですし、ちゃんと手元に戻ってきてくれたという事実の方が大切です。裏で何があったのかはそっちの話で、僕は無関係だと思っています」

    「いいメンタルしているね!」

    「風変わりなことばかり言う作家さんたちと付き合えば、こんな処世術も身に付きます。僕たちの居るふつうにある社会って、こういう風に生きる術を手にしていきます」

    「──社会の中にいるんだね、キミは」

    「はい……ですが、これがあと何十年も生きてやると思うと気が重くなります。……なんかいい生き方ありませんか?」

    「AIに聞けばいいだろう?」

    「ああ、それですね、試してみましたよ。出版業界以外で転職するならどこがいいですかって? 聞いたこともあります」

    「それで、どうだった?」

    「コワくてできませーん! AIに聞くのと、実際に試すのはちがうって話です!! なんでAIの言うことを信じるヒトがいるのかわからないって話です!」

    「──いいね。……ふつうだ、ふつうの人間だ」

    「黒染さん……ふつうふつうって、ヒトのこと、バカにしてません?」

    「むしろ逆さ。──なんかさ、いい空気が吸えた」

     黒染がそれを言うと、横にいる鬼人も笑う。

    「いい空気?」

     岩永はカノジョらの意図がよくわからず、はてなと口に出す。

    「人間そうやって社会とかにもまれて、自分なりのふつうの生き方を見つけていくんだ。外にふつうのことを知るのもいいが、中でふつうを見つけることもできる。それはさ、きっといいことなんだと私は思う」

    「それ、僕のことをほめてます? けなしていますか?」

     岩永のセリフに、黒染は答えず、代わりに鬼人が──、

    「それでいいとおもいまーす」

     ──と、彼の生き方を肯定した。


    「それじゃ、僕は都内にある本社へ戻ります。宿の予約とかで動いていた田原も本社勤務となります」

     岩永は黒染にそう伝える。

    「プロットの相談や、構成作業、誤字脱字の確認は?」

     黒染の疑問に、岩永はこう回答する。

    「それは姉川さんが見ます」

    「作家だよ、そこからネタを拝借されるよ」

    「姉川さんはセコいですか?」

    「うーん」

     黒染は鬼人がヘンタイ以外の個性が見当たらず、思わず口を閉じてしまった。

    「あと、困ったことがあれば、クラウドウェブ会議アプリでウェブカメラ越しで相談します」

    「──この企画かなーり予算とか削られていない?」

    「編集部はこの企画に対して、さっさと終わってほしいと言うのが本音です」

    「隠せ、編集者!」

    「黒染さんに言わなくても勝手に推理されるんで、それならこっちから言った方が精神的にラクなれます」

    「だからって、ホントに楽すんな!」

    「編集者って影の人間なんですよー。みなさんに不満を与えないように立ち回って、作家さんからお預かりした物語を守る立場なんです。僕らが前に出るのは、あなたの物語が誰かに歪められたときであって、あなたの人生のために動くわけじゃないんです」

    「それはわかるそれはわかるが、なんかさ、その、絆がない!」

    「僕はあると思います。昭和時代のカンヅメでもなく、AI時代のカンヅメでもない。あなたは自分の物語を書くために自分自身をカンヅメする。僕はこの1ヶ月のカンヅメ生活を通じて、あなたの物語でできた絆を信じます」

    「物語のカンヅメか──って、いやいや、ちょっとダマされかけたけど、やっぱり納得できない!」

    「と、まぁ、1ヶ月のカンヅメ生活は、作家たちの集団在宅ワークへと変貌しました」

    「もうちょっとさー、いい言葉なかった? 勝手に話を進めるとしてもそれなりに繕ってよー」

    「すいません、僕、話を作るのヘタなんですよー。そういうのは言葉を自由に操れる作家さんに頼みます」

    「頼りないな。もうちょっとしっかりした言葉が欲しい」

    「わかりましたよー。作家さんの物語は僕らが守りますから、作家さんは自分の物語と最後まで向き合ってください。それが出版会社に勤める僕の仕事で、生成AIの時代でも紙の本がある理由です。ヒトの夢は誰かに用意されていません。あなたの描いていた夢は、ホントは誰かの夢と合わせたいだけで、あなたが勝手にそれと重ねて、それが叶えられないことに絶望したりヒトに裏切られたと思う必要性はどこにもないんです。作家さんが世の中にいるのはその偏った悪い夢を剥がして、読者が本来出会える理想ある夢と巡り合わせる──生成AIじゃ書けない物語が描けるからだと思います。僕らはそういう作家を守るために居て、編集というお手伝いをしています。──ね! うまいこと言えてないでしょ! 僕、自分の思ったことを表すことがビックリするほどヘタなんですよー。だからー、AIとかに僕の気持ちを言語化して! ちゃんとうまく整えてほしいんです!!」

     岩永編集者は頭を軽く下げ、民宿小屋の前から逃げるように去っていた。

    「上手くなくてもいいんだよ。AIなんかなくてもそれが言えればそれでいいって──もう、カッコつけちゃってさ」

    「男って女のヒトの前だと、どうでもいいことでも、いい話にしたがるものなんだ」

    「へぇー、そうなのか。イジらしいとこあるね、彼」

     黒染は鬼人のフォローを耳にすると、まったく男ってヤツは……という表情を浮かべた。


    「──うん!?」

     黒染がその女のヒトが鬼人だと気づいたのは、だいぶ後の話であった。


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