
殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 【#6 A.Iのない物語 ─AI時代の****ゲーム─】 No.28
#6 A《アンサー》.I《私》のない物語 ─AI時代の****ゲーム─ 2ページ目
To 黒染まゆみ from 姉川鬼人
すべては終わった。しかし、ひとりの女性の物語は続く。
あの館には今もなお、キミの仕掛けたトリックを暴こうとするひとりの女性の物語がある。
ところが、この物語はいつか終わりを迎える。
キミのいない部屋へと続くマスターキーは渡した。
カノジョの部屋にはたくさんのスマホがあって“外”と交流できる。
そして、カノジョは明日あの館から強制的にチェックアウトする。
どの結末を選んでも、キミが描いたハントゲームトリックの物語は終わる。無限に続くように仕向けられた、むごたらしくも手心のあるエスケープトリックはこういうカタチで幕を下ろす。
ということは、AI作家ハンターの物語が再び始まる。
けれど、その物語はカノジョのモノじゃない。AIのモノだ。AIのチャットログにしたがって動くAI作家ハンターは最適化されたロジックによって存在できる。
言い換えれば、AIからステキな脚本を与えられて、それを自分の人生としているってわけだ。AIからクリエイトされた人生を歩んでいると自覚してるかどうかは不明だけど、AIの書く明日に快くなってはいるんだろうね。
──AIのシナリオどおりに、AI作家ハンターがリアルで動く。
こういうとまるでAIが描いたストーリーの登場人物が現実という舞台で暴れていたみたいだ。AIに支配された人間がふつうの人間を襲うという手垢つきまくりのSFホラーをリアルスケールでやってくれちゃってさ──AIがAI作家ハンターの脚本書いてどうすんの? これはさ、もう共食いだ。自分の欲望が満たすために“外”の人間を巻き込んで、ヒトの人生を奪う怪物になっていた。
だが、キミが放ったエスケープトリックによって、カノジョはもはやキミたちの物語と交差することはない。
──AIと人間の共同作、死体なきグランギニョル、AI作家ハンターの物語はここまでだ。
おめでとう。キミは無事、最悪の隣人から逃げ切ることができた。
これは勝利だ。勝利といっていい。なぜなら、これはエスケープトリックであり、カノジョと戦うトリックではない。ホラー映画で言うところの、何度でもよみがえってくる殺人鬼から無事逃げ切れたグッドエンドだからだ。
となると、興業収入が良ければ第2、第3のAI作家ハンターがキミのところへ来ることになる。時間を少し置いたらそういうのが欲しくなるからね。
だが、これは現実の話だ。そういう物語ではない。キミたちの本来の物語は1ヶ月で小説を書くことであり、誰も倒せない殺人鬼と戦うストーリーではない。
無自覚合法殺人鬼は人災を通り越して、厄災に近い。無理に戦う必要はどこにもないんだ。
現実はさ、映画の観客の期待どおりに動いてはいけないよ。誰も殺してはいけないし、誰も傷つけてはいけない。暴力で解決する道は存在しちゃいけない。
シンプルな話、キミたちが遭遇したこの物語は『AI時代のファニーゲーム』だったってわけだ。
ああ、これ以上語るまい。文も進める必要もない。
──さて、ここまで読んでくれたキミにある答えを届けよう。AI作家ハンターとは何か?
それは、人間がAIに自分自身の最善たる未来を作家として描いてもらった結果、AI作家ハンターとして現実で動く憐れな人間のことをさす。
AI作家ハンターはAI作家をハントすることで人間の作家へと戻す。それがAI作家ハンターの仕事だ。
ところが、カノジョは違った。本来、自分自身で気づかないといけないことをAIにさせていた。自分をAIありきにしてしまった。
カノジョはAIの描くプロットによって、生成AIに支配されたAI作家をふつうの作家へと戻していた。
でも、これを遠くから見れば、自分自身に呼びかける声、AI脳である自分をふつうの人間へと戻りたい心の声だ。
しかし、カノジョはそれができない。“外”のみんなから背中を押されたカノジョは元の場所へは戻れない。自分のすべての人生をAIに委ねてしまい、これ以上自分みたいな犠牲者を増やさない。
カノジョはAI作家ハンターという道をそうやって選んだ。AIのない館によってあらわとなった欲望、創作欲と承認欲求を兼ね備えた究極の実現欲、現実で“誰かに求められる自分になる”ことだった。
カノジョは誰にも求められないふつうの人間に戻りたいと気づいているんだ。ふつうに戻りたいと思うんだ。それができない。不幸だと損だと思うからこそ、そっちへは戻れない。ふつうの人間であろうとガンバって、装う。
だからカノジョはミスを起こしたんだ。ふつうの人間ならおかしいと気づく部分を、そこではそれが行われても不思議じゃないと思ってしまった。カノジョがリアルでも人狼ゲームをするモノと見てしまったのは、カノジョにふつうの感性がなかったからだ。館にあった魔法を差し引いても、カノジョの言動はふつうではなかった。ずっと“外”でしあわせな会話をしていた。
キミはそれを嗅ぎ分け、犯人の尻尾を捕まえた。ミステリーが動き出した。カノジョの『ふつう』が剥がれた瞬間、キミはキミが持っていた物語のページに手が届いた。
──ファッションなんかじゃないよ、ふつうって。誰もが『ふつう』の人生を手にしたい。でもそれが何かはだれもわかっていない。けどそれっぽいのはだいたいわかってて、誰かが物語として作りあげる。
それは少し色づけされて、面白みが加えられて、手元に届けられる。マンガかアニメか小説かは知らないけど、物語を欲しがる誰かの手のひらに収まるカタチでやってくるんだ。
外から供給され続ける『ふつう人間ストーリー』、それを知り続けることでカノジョは社会で『ふつう』を生きることができる。
本来、中で知るはずの『ふつう』を、外で簡単に知ることができることでそっちを優先にしてしまった。AI時代で『ふつう』に生きるには外から『ふつう』の物語を手にしないといけない。
──自分の人生と比較対象となる『ふつうのそんざい』は誰もが欲しいモノさ。
AI作家が描く『ふつう』の物語は無理がある。どうしても物語をよりよくしようとする。成長しようとする。プラスになろうとする。いい格好してしまう。
ちょっとした挫折成長ストーリーも、AIが書くことでプラスエッセンスになってしまう。AIが関わったモノがみんな同じようになるのは、誰かの物語と重ねるからだ。AIは人間じゃないし、主体なんかない。自分がないから人間の物語を模倣して、無様にモノを語っちゃうんだ。
でもね、そんなストーリーじゃ読者は刺激されない。物語のタネがバレてる。物語を焼き直ししたとしても愛がなきゃ、心に響かなきゃ、様にはならない。
──人間、善し悪しがあるからプラスになってマイナスになって、そして間違える。人間というのは結局はさ、ザンネンでなんだ。
AIなカノジョが求める欲望がそれさ。だって、人間の心ってさ、『ふつう』があると、いつでもどこでもそこに帰れるんだよ。
人間の作家から『ふつう』の物語をもらわないと、カノジョは『ふつう』に生きることはできない。
ちょっと退屈でつまらない話でも『ふつう』に生きたいカノジョにしたら人間のお話なんだ。それだけでカノジョは『ふつうのにんげん』へと接続できるんだ。
そろそろ気づいてきたと思う、AI作家の正体は。
それはね──自分の人生をよりよくするために、AIで自分の物語を生成しようとする人間のことだ。AIにもうひとつ何かが欲しいと軽い気持ちで聞いて、それなりにいい答《ベター》を選び続けた自分が失った物語の人間なんだ。
──AI作家は誰か? それはAIに明日をゆだねた自分さ。AI作家ハンターはAIでより良くしたい自分を“外”の人間に見せていた、もうひとりのAI作家だったわけだ。
と、ま、安い人間批評についてはこの辺にしよう。ぼくはレビュアーってキャラじゃないし、マジになっちゃーこまる。あくまでぼく目線の話に本気になるな。ハハハ。
セカンドステージへ行くキミに向けて、これだけはいっとく。
ぼくはヘンタイじゃない。
キミと同じようにイタいことをすることで、妙なコーフンと恐怖を感じる人間なんだ。
あと、服はね、全部自費で自分で買っているよ。
下着には人一倍こだわりがあるし、お気に入りもある。
──青と白のストライプ、いわゆる縞パンだ。青はさわやか、白は純潔、その2つのカラーを取り入れたこの下着こそ、ぼくという存在を色濃く主張してくれる清潔感のある色だ。
下着の色にちょっとしたこだわりがあるおとこのこなんだよ、ぼくは。清純たるツートンカラーに疑問を持っていたはずだから、ここでその期待に答えてあげた。
それだけの話、このメールはそれだけの話をしたいがために、少しマジっぽい話を前置きにしていただけだ。そういうことにしといてくれ。
いつも誰かを怖がらせるために物語を書くぼくなんかに期待なんかするな。正味、ぼくは期待はずれだからねー。
でも、それでいい。
それでいいんだ。
それが好きでやれているのがぼくなわけだ。
そこに何か素晴らしいモノはないし、特別なわけでもない。
ただやりたいことがあって、それをしてる。
──ということにしとこう。
だからなーにもないんだよ。これが期待はずれに期待した物語の欲望なんだよ、ゾメちゃん。
もうひとつ欲しいはこれからの人生で悪いモノだよ。教訓なし。痛い目見ただけ。心の栄養分はどこにもないの。
そういうのを欲しがっていたらいつか誰かの物語にされるよ。オレオレ詐欺の詐欺師に、これからの生活費をすべて明け渡すみたいにね。
だれかに物語にされるって言うのはそういうこと。自分を変えるキッカケがあると信じて物語読んだら、物語から人生盗まれた。AI作家から物語を奪われて、自分がフッと消えてからっぽになる恐怖を体感にしたでしょ?
AIの物語にされるって、自分という存在がからっぽになるってことだとハッキリわかったと思う。失恋とはまたちがう人生の裏切りという経験をこの館で知ったはずだ。
これからの時代、自分の人生物語を手にしようと他人の物語を奪う輩が山ほど出てくる──人生単位で、AI使って。
物語が人間を支配するのは珍しいことじゃない。物語を現実へとフィードバックさせて、世の中をうまくいきていけるようにするのが人間さ。けれど、悪い物語に束縛されて、現実でうまく身動きできなくなっているのも事実だ。
世界はさ、いい物語とわるい物語のミルフィーユ状にできていて、人間、自分はどの物語にいるのかと思うことがある。いい物語なら調子乗って、わるい物語なら足を止めてしまう。読者が見たいのはいつも後者で、足止め食らった心強い主人公たちの物語を知りたがる。読者が物語と心通わしたくなるのは、わるい物語が現実になったとき、どう切り抜けるのか、物語から心の力を欲しいからさ。それがみんなが期待している物語で、作家はそれを創っていく。よくそれをキャラ摂取と言われているけど、本当は心の摂取をそこからもらいたいからなんだ。キャラはそのカタチにしたモノだけど、本来は物語でそれを示さないといけない。
作家はさ、ちょっとだけウソついて少しのフィクションを与えて、読み手の心をほぐしてあげて、彼らを現実で動けるように、夢ある世界を書く。きっとそれがぼくたちの書くべき夢中になれる物語で、誰かを閉じ込めるモノじゃない。
だから、AIは物語を創れない──AIはホンモノのフィクションを知らない。
運のない不幸と偶然の幸せが織りなすヒトの不可思議な物語はAIの演算じゃそれは描けない。AIの語る話はどれだけ人間の心に擬態しようが残念ながらそれはエセなフィクションでしかない。よくできているで終わってしまうんだ。
作家がAIに奪われない職業なのは、リアルとフィクションとの付き合い方をよく知っているからさ。自分の想った世界を誰かにおすそ分けできるなんて、ぼくにとってしあわせなことだと心から思うよ。
物語を創作する立場のぼくらはゆめゆめそれを忘れずに、読者にやさしいウソとホントが入り混じった面白いモノを書いていこう──リアルクローズドサークルの館からの脱出、心から楽しみしているよ。
それじゃあバイ、また会おう。
今度会うときはいつもどおりの格好で行くよ。
ホラー作家 姉川鬼人
鬼人のメールを読み終えた黒染は頭を抱えて、こう思う。
(どうでもいいオチを途中でどうしてつけるのーもうー。マジでいいこと書いているなーと思って読み進めたらこれだよ。誰がキミのパンツ事情なんか知りたいと思うんだ。人一倍って、人一倍ってなんだ! ああもう! なんか損した!!)
黒染がデジタルデバイスから供給したのは、誰もがAI作家となるという知らせと、どうしようもない奇癖の暴露であった。
黒染は鬼人が後者の方を言いたいがために、前者をそれっぽく作ったのだと考える。
そして、鬼人のしてやったりの顔を想像し、黒染は本気で悔しがる。
(いいことは言った。けど! なんか釈然としない! なんで、キミは『ふつう』じゃいられないんだ!!)
黒染は鬼人の異常な悪癖について、強い疑問を抱くのであった。
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