
殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 【#6 A.Iのない物語 ─AI時代の****ゲーム─】 No.27
#6 A《アンサー》.I《私》のない物語 ─AI時代の****ゲーム─ はじまりのページ
8日目の昼過ぎ、奏鳴館から脱出できた作家たちは再びワゴン車へと乗りこんだ。車は高速道路を行き、目的地へと進む。
サービスエリアでひとときの休みを取った作家たちは気分をリフレッシュしていた。
しかし、ひとり暗い影を落とす人物がいた。
「──なんで、私、こんなの書いたの?」
ミステリー作家の黒染まゆみは気分が落ちこんでいた。カノジョは自分が書いたスーパートリックを読み返して、強い自己嫌悪を感じていた。
「エスケープトリックの条件は正しい、正しいよ。……でもね、……これ、──殺人鬼のいるホラーハウスから逃げて、別の殺人鬼がいるホラーハウスに行っただけで、結局のところさ、……何も変わってないよね?」
「はい」
SF作家の伊吹セカイはカノジョの気持ちに同意するように答える。
「しかも、これよーく考えると自分からデスゲームワンモアプリーズって言ってるよね? これって、デスゲームのファーストシーズンで参加者のひとりがもう1回やりたい! って言ったことで急きょセカンドシーズンが始まったようなもんだよ!」
「はい」
ネット小説作家のイカロスパスタはやれやれという気持ちで答える。
「なーんでだれも止めなかったの? 論理パズルとか気取ったこと言っちゃってるけど、めちゃくちゃこれ恥ずかしい!! なーんも解決してないよね? AI作家ハンターを排除できたけど!! リアルクローズドサークルの館へおかえりしたよ!?」
「もうそれでいいとおもいますよ。アタシ、もうお腹いっぱいです」
恋愛作家のやまもとなおはフードコートで甘いものを食べたことも含めて、黒染にそう返した。
「黒染さん、よろしいですか?」
ワゴン車を運転する岩永編集者は黒染に尋ねる。
「ダメ。今ちょっと、このスーパートリックとか言った自分に対して自分を責めている。もっと自分を痛めつける言葉の刃が欲しいんだ」
「それはいつでもできるので、今はこっちの話を聞いてください」
「メンタルリセットさせてーよー、もうー」
黒染は頬杖ついて、岩永の方を見た。
「弊社はAI作家ハンターと組んでいたAIクリエイター暴露系動画投稿者の仮刈に対して、法的手続きを取る予定です。機密情報を意図的に流出させ、企画を妨害した人物として、裁判をすることを考えています」
「民事裁判ね。私は法のプロじゃないけど、キミの会社、そして仮刈は和解という道を選ぶだろう。この話は一種の人間作家キャンペーンでやっていたと話をうまくごまかすはず。大事にはしないと思う」
「ええ。でも同じことはさせませんし、うちの会社と契約している作家さんたちに、何があっても作家を守る、と、誠意を示せます」
「そういう話へ行くだけかー」
「彼を罰するだけの材料がありません。ただ──」
「ただ?」
「オマエの用意したゲームはどうなった? オマエはこの企画の企画者だったのか? おれたちをあれだけ期待させておいておあずけはない。残念な気持ちだ──と、“外”はそう言ってます」
「被害者ぶってるけど、ホントは私たちを意のままに操りたかったんだろうね」
「ええ、中にはAI作家の真実について教えろ、匿っているなら過去のこととかすべて知ってるはずだ、とかいう個人情報を要求するムチャな書き込みもありました」
「……“外”の欲望は尽きないね、ホント。AI作家ハンターの実況を楽しんだくせに。言いたいことはあるけど揚げ足とか取られるから我慢するしかない」
「そのおかげかどうかわかりませんが、仮刈の正当性が揺らいではいます。“外”が当たれる人間は彼だけになっています。黒染さんが仕掛けたエスケープトリックは間違ってはいませんでした」
「──成功か?」
岩永は答える。
「編集長はこう言ってました。──弊社のトラブルを救っていただき、ありがとうございます。AI作家や人間作家を決める企画はこちらで中断し──」
「それはできないと冴島さんに伝えてくれ。企画を中断したらAI作家ハンターの思うつぼだ。出版会社はAI作家を隠すために企画を中断したという筋書きが始まって、彼らの正義という物語が無尽蔵に広がる──」
「──たいのですが、残念ながら私の力ではどうにもなりません」
「ありゃ」
黒染は小さくコケる。
「けれども、私たち編集部はできる範囲内であなたたちの応援をします。不信感が募る創作界隈で物語に夢を与えるため、誰ひとり欠けることなくこの企画を乗り越えてください」
岩永編集者が冴島編集長からのメッセージを言うと、ミステリー作家ははーとため息をついた。
「ま、私たちはまだ何もしてないからね。探偵なら気の効いた一言で終わりなんだけど、夢を与える作家はここからが本番だ」
「がんばってください、黒染さん」
「言われなくてもそうする──作家は書くのが本業でそこでズルなんかできない。壁にぶつかったり、書くことがイヤになっても、自分の物語は自分の力で書きたいもんさ。私も私の物語を読みたいヒトがいるかぎり、これからもそうするよ──きっとね」
黒染はそういって沈んでいた気持ちを前向きに切り換えた。
「……えっーと、それでですね、編集長からちょっとしたプレゼントがあります」
岩永がそういうとなおが手をあげる。
「いったいなんですか?」
なおの質問に、岩永は答える。
「さっきトランクから作家さんたちが普段使っているスマホを、この車の中央座席にあるカバンの中に入れておきました」
岩永の話を聞いたイカロスパスタは彼の横にあったカバンを見つける。
「これっすね」
イカロスパスタは、スマホをひとつずつ取り出し、パッと作家たちに渡す。
「次の場所へ行くまでにそれで世の中のことについて、いろいろと調べてください」
「いいんですか?」
イカロスパスタの疑問に、岩永は返事をする。
「今は館の外で移動中です。完全にルール外のことなので、お好きに使ってください」
岩永がそういうと作家たち一同が喜んだ。
「あー、デジタルサイコー! やっぱオレの生活の一部だよ! やってるソシャゲのログボ全部もらわないと!!」
イカロスパスタは自分のスマホの画面を目にすると、今のよろこびを口にする。
「みんなから心配されているぅ~。これ返事した方がいい? 既読した方がいい? やめた方がいいかな?」
なおは自分にやってきたスマホのメールを見て、そんなことを言った。
「いろんなアプリのアップデートが来ていますね……、これ、アプデでスマホタイムが終わります」
伊吹はスマホアプリの更新をすべきかしないべきか悩む。
「っと、黒染さん? どうかしました? スマホ使わないんですか?」
伊吹はスマホを自分のふとももの上に置く黒染の様子を見て、そんな疑問を口にする。
「──使うよ」
黒染も悪びれることなくスマホを手に取った。
「これはワナだからスマホ使うな! と思ったヒトがこの中にいるはずだよ」
「正直、ボクもそう思いましたが、なんでスマホを使わなかったんですか?」
「……AI作家って、なんだろうかとちょっと思ってね」
「はー」
「AI作家は生成AIの力を借りて、AI的な発想でAI的な文章で整えた物語のことだ。──そこに“私”の物語はない。物語にヒトの心がなければ、それは自分のモノではない物語だ。だけど、自分はその物語を作ってやったという謎の達成感だけはある」
「たしかに自分の物語ではありませんね。謎の達成感とかはありそうですが」
「と、まーあ、空っぽの頭でAIが語るストーリーに対して、何の疑問を考えず、AIがそのまま書いたモノを作品として発表したヤツがAI作家だと言えるわけで、主体はAI作品というのかな。ま、修正とか感想とかをAIに手伝ってもらった作品は、AIの協力を得た人間の物語だとは思う」
「……予防線張りますね、黒染さん」
「本題じゃないからいいーの、編集部だってAI使って仕事してるかもしれないからねー」
黒染は岩永を牽制する素振りでそう言った。
「で、もしAIの指示に何の疑問を持たずに動く人間は、人間なのかなーって。ある意味、それもAI作家が背後にいて、AIのプロットで人間が動くわけだ。AIから提供されるすべての文章をうのみにしていたら、そこにいる自分はいないのかなーって」
「AI作家現実論」
「そうそう。AI作家は現実の脚本の提供者で、そのシナリオを信じた人間がそのとおりに動いたら、AIがもたらす利益を手にできる──かもしれない。でもそれって、ホントに“私”の人生になるのかなーってー」
「ちょっとした哲学的SFですね、SF作家であるボクが言うのもアレですが」
「もう現実なんだよ、コレー」
「AIは人間の考えに対して、それなりの答え、ベターな提案を出していくだけで、絶対的ベストアンサーを出すわけではありません。不安を感じた人間がそれを採用したり拒絶したりして、第三の声として聞いてるだけです。誰もAIの指示どおりには動いてませんよ」
「わかっているって、ただそう思っただけの話だよー」
黒染は自分のスマホを手にし、メールアプリを開ける。そこには先ほど送信したばかりのホラー作家、姉川鬼人からのメールがあった
[ファーストステージ終了、おめでとう]
シャレたメールタイトルと思いながら、黒染は鬼人のメール開いた。
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