メインコンテンツへスキップ
見出し画像

殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 【#エピローグ それでいいと言いあえるふたり ─リアルクローズドサークルエンド─】 No.31(Last Number)

    【前のページ】No.30


    #エピローグ  それでいいと言いあえるふたり ─リアルクローズドサークルエンド─ 1ページ目


     8日目の夕過ぎ、白い砂浜に寄せる波をミステリー作家の黒染まゆみと、ホラー作家の姉川鬼人が見つめる。

    「キミはどうやって私たちの中にいるAI作家を見つけるんだ?」

     黒染の横にいた鬼人は答える。

    「まずは書いて」

     それを聞いた黒染は徐々に頬を緩ませ、大いに笑った。

    「そりゃそうだ。それが私たちにとってのふつうのことだ」

    「それにキミたちはもうAIを使う気ないでしょう?」

    「まあね。スマホとかで動画やネタ集めするかもしれないけど、しばらくはAIと離れる。みんなそうだ、AIから距離を置くよ」

    「それでいい」

     鬼人は言う。

    「世間にある生成AIに対するこだわりによって、AIのない館が開館された。そこは殺人のない館だった。暴力もない館だった。こう考えると、何も起こらなくて、退屈で刺激のない場所だと思ったのに──平和ではなかった」

    「あそこは私たちが普段いる外側ではなく内側だった。1秒1秒経つことに誰かの欲望が増す危険な館だった。そこから抜け出せたのは奇跡というしかない」

    「エンタメ屋のぼくからしたらもっと強い刺激が欲しくなる、とても変わった館だった。だけど、その刺激の先にある欲望を叶えたら、何かが終わるとわかる場所だった」

    「何かが終わるって何? 人生? 退屈? それとも世界?」
    「さあね? でもわかっていただろう? その何かって」

    「物語と言わせたい?」
    「それはカノジョが持ち逃げしたままさ。この1週間の思い出のページはもう帰ってこないよ」
    「折り合いはつけている。これからそれを作ればいい」

    「じゃあさ、何かが終わるってホントは何?」
    「口にはしたくないよ。とりま、私の幸せが終わるとでも言っておこう」

     黒染のさらっと言った一言に、鬼人が不満げとなる。

    「ご都合」
    「それでいい」
    「ちょっと頭動かしてよ──プロでしょ? 言葉の」
    「プロなら沈黙してるよ」
    「それサイコー」
    「意地が悪いね、姉川鬼人」
    「それでいい」
    「ハハハ」
    「ハハハ」

     黒染と鬼人は笑いあう。

    「もう書く気ないから生成AIにでも任せそうかな」

    「ミステリー作家、ジャッジ役の前に対して、それ言っていいの?」

    「正直さ、私がAI作家であってほしいと思うヤツもいるんだよ。生成AIで書かせた文章にトリックを仕掛けて欲しいって」

    「やるの?」

    「それはできあがってからのおたのしみ」

    「引っ張るね」

    「いや、どう考えてもさ、私がもう書き上げられるとわかっているんだろう? キビト」

    「そうだよ、キミは勝ち確。黒染まゆみが勝っちゃう。1ヶ月で小説を書くという話に魅力を感じない。正直、それじゃあ、つまらない。物語にはならない。書く必要もない──だからさ、ミステリー作家はAI作家かどうかっていうフーダニットゲームをして欲しいって」

    「そういう期待には乗らないよ。私はね、ふつうに書くんだ」

     黒染はその場から離れ、民宿小屋へと戻る。

     スカートが揺れた。鬼人はそれを抑えながら黒染を追いかけようと、カノジョの後ろを歩く。

    「ふつうって、どう書くの?」

    「いつもどおり、頭に思いついた物語を文章にするだけ。ミステリー小説はね、半分は──」

    「探偵と殺人鬼」

    「──いや、半分はトリックで、半分はナゾトキでできている」

    「そういう返しするんだね、キミ」

    「私の本を読む読者はさ、死体と殺人鬼を目的にはしていない。今のキミへの回答のように敢えて裏切り続けて、最後は気持ちのいい答えを出してくれると期待する──要はさ、気分よくミステリーの種明かしをしてくれる物語をずっと欲しがっているんだ」

    「ずるい、そんなのぼくだって同じだ。だけど、読者の話はここじゃいらない。キミだけの答えが欲しい」

    「ずるくない。気づいたんだ──リアルクローズドサークルって、普段私がこなしているふつうのことだって」

    「それってなに? リアルクローズドサークルがふつうって」

     黒染は答える。

    「締め切りだよ、締め切り」
    「締め切り?」

     姉川鬼人の疑問に、黒染まゆみは言う。

    「私たちにある普通《しめきり》がリアルクローズドサークルだったって話。ただ、それが少し大げさで、原稿を落としたらどうなるかがよく見える場所で行われた──館モノだったって話だ。そんなふつうのクローズドサークルはいつも自宅でやっているよ」


     殺人のない館 ─AI時代の****ゲーム─ 了


     この物語はフィクションです。

     実在のモノとは一切関係ありません。

     この物語におけるAI作家とAI作家ハンターは──AIによって──創作された架空の人物です。


    #創作大賞2026 #ミステリー小説部門 #殺人のない館_AI時代の____ゲーム


    【最初へ】No.1


    あなたへのおすすめ