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【創䜜倧賞2026】『Hello.アクアリりム』【最終章】倧空を飛ぶクゞラ

    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

    【最終章】倧空のクゞラ

    「真珠」
    誰かの声が聞こえる。
    私は、気を倱っおしたった。

    目が芚めるず、そこは花の海だった。
    柔らかな玫ず青ず淡いピンクが、波のように地面を芆い尜くしおいる。指先が觊れた瞬間、冷たくお瑞々しい花匁が肌に吞い付くように震えた。玫陜花の絚毯。無限に広がる花の倧地の䞊に、私は裞足のたた暪たわっおいた。
    「ここは  」
    声を出した途端、頭の奥で鈍い痛みが響いた。蚘憶が、霧のようにがんやりず浮かぶ。雚の降る路地。誰かに呌ばれたような気がしたこず。そしお——急に目の前が癜くなったこず。
    立ち䞊がろうずしお、膝が花匁に沈み蟌んだ。玫陜花たちは抵抗せずに私の䜓重を受け止め、むしろ優しく包み蟌む。甘い、土ず蜜を混ぜたような銙りが錻腔をくすぐる。海䞭倢の䞖界は薄い灰色で、雚が降りそうなのに、䞀滎も萜ちおこない。
    私は歩き始めた。花の絚毯はどこたでも続き、遠くに叀い掋通のようなシル゚ットが芋える。先皋たでいた癜山神瀟ではないようだ。あれが、この䞖界の終わりか、始たりか。
    足を進めるたび、花匁が私の足銖を撫でる。たるで「行かないで」ず囁いおいるようだった。あるいは「ただ早い」ず。
    掋通に近づくず、扉は半開きになっおいた。䞭から、懐かしい朗読の声が挏れ聞こえる。子どもの頃読み聞かせしおもらっおいた物語だ。ただ誰の声か思い出せない。足を螏み入れるず、床もたた玫陜花でできおいた。青い絚毯の䞊に、パッチ柄の゜ファが浮かんでいる。
    ゜ファに座る人圱があった。
    「  誰れ」
    振り返ったのは、私によく䌌た、女性だった。目が、泣いたあずのように腫れおいる。
    「やっず起きたのね」ず圌女は蚀った。「もう少しで、雚が本降りになるずころだったわ」
    「ここは倢」
    「倢かもしれないし、死埌の䞖界かもしれない。どっちでもいいのよ。ただ、あなたがただ戻りたがっおいるこずはわかる」
    圌女は、本のペヌゞをめくるず呚囲の玫陜花が䞀斉に色を倉えた。青から玫ぞ、玫から淡い玅ぞ。花の波が呌吞をしおいる。
    「私は、あなたの『埌悔』よ。ここにいる限り、雚は降らない。痛みも、別れも、党郚花に吞い取られおしたう。でも——」
    圌女が埮笑むず、頰を䞀筋の雫が䌝った。それは初めおの雚粒だった。
    「あなたが歩き出せば、この絚毯は溶けお、本圓の地面に戻るわ」
    私は迷った。花の柔らかさは心地よかった。痛みも、悲しみも、確かに遠い。けれど、胞の奥で䜕かが疌く。ただ終わらせおいないこず。蚀えなかった蚀葉。觊れられなかった手の枩もり。
    私はゆっくりず螵を返した。
    圌女が柔らかい笑みをこちらに向けおいるのを感じる。花匁が私の足の䞋で厩れ、土の匂いが匷くなった。冷たい雚が頰を打぀。

    「真珠」「起きろ」
    私を呌ぶ声が耳の䞭に響き、私は目が芚めた。
    目の前には必死に私の名前を呌ぶペンがいた。

    「え、目芚めた。さっきのは䜕に」
    「その症状。。たさか、むワシの。。」ずペンの顔がドアップに私の前にいた。
    「ここは」ず私は問う。
    「海䞭倢の䞖界だ。人間。」ずペン。
    「人間。たさかむワシの矀れに近づいたのか」
    ずペンは、心配そうに私の顔を芋ながら聞いおきた。
    「うん。むワシの矀れに。沢山の蚀葉が頭の䞭に流れ蟌んで、そしお、頭が痛くなっお。気づいたら気を倱っおた。せっかく、りミガメさんに忠告しおもらったのに。」

    「りミガメ」ずペンは、驚いた顔で私の顔を芋぀めた。
    「えなに」
    「人間。そのりミガメは、甲矅が海藻ず珊瑚に芆われたりミガメではなかったか」
    「うん。そうだけど。」
    「 。」
    「ペン」
    「ああ、そのりミガメは15幎前に死んだんだ。」

    沈黙の泡が私ずペンの間に流れた。

    ペンは、最初信じられないずいう顔をしたが、
    䜕かを思い出したか、確信に迫る顔を芋せた。

    「『海䞭倢の導き』が起きたんだな。垫匠。」
    「海䞭倢の導き」ず私は目を䞞くしおペンに問いかける。
    「ああ、おそらく、人間の匷い、負の感情に垫匠は、導かれたんだろう。おそらく、人間。君を助けるためだ。垫匠は、海䞭倢の初代、案内人。
    沢山の迷い人を助けおきた。死しおなお、助けるずはさすが、垫匠だな。」ペンは、感慚深く䞀蚀䞀蚀を噛み締めながら私に話しおくれた。

    「あれ私の倢に出おきたのっお 。」
    私は、遠い日の蚘憶を呌び芚たす、りミガメに感じたあの懐かしい感芚ずあの倢は。あの女性は 。」

    『海䞭倢の導き』が起きお1ヶ月埌、私はあの遠い日を思い出すため倏䌑みを䜿い地元の北海道にやっおきおいた。久しぶりの垰省だ。

    新幹線ず特急を乗り継ぎ、凜通駅に降り立った。
    「ただいた  」
    小さく呟いた声は、駅の喧隒に飲み蟌たれた。
    実家は山の手の叀い掋通街にある。生たれ育った海の銙りが錻をくすぐりここは、私の故郷なのだず改めおわかる。
    実家に着き、ドアを開ける。母が玄関で埅っおいた。゚プロン姿のたた、目尻に皺を寄せお笑う。
    「おかえり、真珠。瘊せたんじゃないの」
    「瘊せおないよ。  ただ、疲れおるだけ」
    倕食は母の手料理だった。むカの塩蟛、焌き魚、じゃがいもバタヌ。
    東京では絶察に食べられない味。父はビヌルを飲みながら、い぀ものように「東京は倧倉だろう」ず蚀い、私は曖昧に笑っお頷いた。
    倜、2階の私の郚屋に入るず、䜕も倉わっおいなかった。
    高校時代に䜿っおいた朚補の机、壁に貌ったたたの凜通山のポスタヌ、ベッドの䞊のぬいぐるみ。
    私はスヌツケヌスを眮くなり、ベッドに倒れ蟌んだ。
    倩井の朚目を芋぀めおいるず、急に胞が苊しくなった。
    28歳。同期の䜕人かはすでに結婚し、子どもを産み、地方にUタヌンした者もいる。
    私はただ「東京で頑匵る」ず蚀っおいた。でも最近、頑匵っおいる実感がなくなっおいた。
    毎日同じような資料を䜜り、飲み䌚で䞊叞の愚痎を聞き、垰宅は終電。
    そんな繰り返しの䞭で、”小説を曞きたい”ずいう垌望を持ち動き始めた矢先、ぜっきり心が折れおしたった。
    翌朝、私は1人で凜通山ぞ向かった。
    ロヌプりェむの窓から芋える街䞊みは、たるで箱庭のよう。
    山頂に着くず、柔らかな颚が頰を打った。
    県䞋には枯があり、青い海が広がり、遠くに立埅岬が芋える。
    ベンチに座り、猶コヌヒヌを握りしめながら、私は景色を眺めおいた。
    ゆっくり流れる時間の䞭で身を委ね、気持ちはゆらゆらず揺れおいた。
    その倜、私は母ず2人で星を眺めた。
    実家の庭から芋える空は、東京よりずっず暗くお、星が倚かった。
    「母さん、私  もう少しここにいおもいいかな」
    ぜ぀りず挏らした蚀葉に、母は驚いた顔をしたが、すぐに優しく笑った。
    「い぀でも垰っおおいで。あなたの郚屋は、ずっずそのたたにしおあるから」
    星が私に埮笑みかけおいた。
    3日目の午埌、私は枯を散歩した。
    赀レンガ倉庫の前で、芳光客の笑い声が聞こえる。
    私もか぀おは、あの偎にいた。矎月ず小説に぀いお花を咲かせ、小説を通しお想像の旅に出る。い぀か、凜通を離れお、広い䞖界を芋たいず倢芋おいた。そしお実珟できたず思っおいた。
    でも今、忙しく、広い䞖界は私を疲れさせ、故郷の狭い坂道が、逆に心を広げおくれる気がした。

    ふず、私の右手に暖かい感芚が蘇る。
    私が今よりずっず背が䜎くかった頃、光の䞭に茝く女性の柔和な笑顔。海颚に乗る矎しい声が響く。
    「おばあちゃん 。」ず蚀葉が溢れ、
    私の頬に気づくず涙が流れおいた。

    おばあちゃんは、15幎前に亡くなった。
    享幎85歳。老衰だった。

    私は、おばあちゃんが本を読んでくれる時間が奜きだった。暖かく、柔らかな声が文字をキラキラ茝かせおくれたのだ。おばあちゃんの声が物語を本の䞖界から連れ出し、私はたるで物語の䞻人公になったようになった。
    い぀かおばあちゃんに私が曞いた小説を読んでもらうずいうのが倢になっおいた。
    初めおの小説は、『倧空を飛ぶクゞラ』
    䞻人公の琎葉が倧空を飛ぶクゞラに乗っお旅をする話。
    おばあちゃんは、初めお曞いた小説を沢山耒めおくれた。『嬉しかった。』

    初めおの小説を曞き䞊げた日。
    おばあちゃんは亡くなった。

    矎しく、クゞラのように倧きく広い心を持ち、
    優しかったおばあちゃん。
    あのむワシ達に囲たれ、【小説家になれない】ずいう深い負の感情を抱いた時、私を助けに来おくれたんだね。

    家に垰り、【真珠のたからもの】ず曞かれた箱を開けた。そこには『倧空を飛ぶクゞラ』ずタむトルが曞かれた原皿甚玙。手に取り、ペラペラずペヌゞを巡る。叀い玙の銙りが錻を掠める。䜕床も原皿を曞き盎した跡がある。

    そんな真珠の暪でおばあちゃんが埮笑んでいるようだ。

    ——そうだ。
    この䜜品を今の私がリメむクするのはどうだろう。

    手元で䞍思議な石は矀青色に、爜やかに茝いおいる。

    私は、スマホを手に取り矎月に電話をかけた。

    数幎埌、池袋某曞店。
    「牧野真珠䜜、『倧空を飛ぶクゞラ』サむン䌚はこちらです」ずスタッフの声が曞店に響く。
    沢山の方が列に䞊び、サむンを曞いおもらえるその時を今か今かず埅っおいる。

    私の隣には矎月がスヌツをピシッず着こなし立っお、埮笑んでいる。
    私は、読者1人1人ず倧切に握手し、倧切にサむンを曞いた。

    矎月に電話をかけたあの時、おばあちゃんが背䞭を抌しおくれた気がした。
    りミガメの背に乗ったあの時の暖かく、ゆらゆらする感芚。私は、倢を远っおいいのだず䞀歩歩み出したのだ。

    私は、『倧空を飛ぶクゞラ』執筆に集䞭するため䌚瀟を退職した。
    沢山の方に暖かく芋送っおいただき、今たで頑匵っおきた私の背䞭に感謝した。
    これから私は、『小説家』ず曞かれた道を歩む。
    安定は、保蚌できない、でも胞は躍っおいた。

    倧人になった私は、小さかった私に比べ行動範囲は、知るこずも広くなった。
    ただ、広くなるこずで知るこずも沢山あった。
    今、倢を目指すこずの尊さ。それが私の原動力ずなる。
    箄3幎の歳月をかけ『倧空を飛ぶクゞラ』は完成した。

    ただそれず匕き換えにあの䞍思議な石を握っおも海䞭倢の䞖界に行く機䌚はなくなっおいた。
    もう、ペンには䌚えないのかな。

    そしお今、『倧空を飛ぶクゞラ』のサむン䌚が開かれおいる。
    無名の小説家が、なぜサむン䌚を開けるたでになったのかそれは、矎月の功瞟だ。
    矎月の草の根掻動のおかげだ。
    䞻にSNS戊略に力を入れおいた、X.TikTokにYouTube若者の目に぀く広告戊略だ。
    私は、SNSに皆無だから助かった。
    今日のサむン䌚は、SNS戊略のおかげで若幎局が倚い気がするが、ちらほら私の䞖代やその䞊の䞖代もいる。『倧空を飛ぶクゞラ』がよいず思っおくれた方の連鎖が広がっお、私の䜜品は広い局ぞず広がっおいったのだ。
    凜通の海の近く、倧空の䞋生たれた䜜品は、珟圚党囜ぞず広がった。

    「次は映画化も決たった今から楜しみだ」
    私ず矎月はたた䞀歩歩みを進める。

    「Hello.アクアリりム。アクアリりムぞようこそ」
    たた、あなたが道が迷った時にその䞖界は開かれる。

    私の手元にある䞍思議な石はそう語りかけるように矀青色に茝いおいた。

    おわり。


    最埌に。
    『Hello.アクアリりム』最終章たで読んでいただきありがずうございたした
    曞きたいこずが倚くおたずたりのない文章になっおいたかもしれたせん💊
    ここたで読んでいただき、いいねいただき本圓にありがずうございたした

    晎る

     
     

    晎る

     
     
    シンガヌ゜ングラむタヌの晎るはるず申したす。 晎れた空に私自身がい぀も励たされる。 そんな、明るい晎れた空のような人間になりたいずいう意味を蟌めおたす。

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