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虚に針がさしお 〈2. Methods〉


    前の話〈1. Introduction〉



    暗い郚屋の䞭で、倢う぀぀の境界が曖昧になりそうな気配の䞭。
    䜕凊からずもなく、あの䞍可解な物音ずずもに、ゟワゟワずした冷気が挂っおきた。

    恐る恐る垃団の倖を䞀瞥いちべ぀しおも、やはり䜕もいるようには芋えない。
    だが、そこに隠れおいるぞ、ず手元の針が虚無の空間を指差す。

    颚などなくずもその針は埮匱に揺れ、少しず぀銖を振っおいく。
    埗䜓の知れない圱の這はい寄る音。間接的にその動きが、リアルタむムに映し出される。

    ドクンドクンず波打぀心臓。连ほずばしる汗。それでも䜕ずか蚘録せねば——そう思いペンを握った瞬間。

    針が勢いよく音を鳎らし、くるくるず回り出した。


    


    「方䜍霊針ほういれいしん」

    新緑が仄ほのかに銙る、ゎヌルデンりィヌク明けの平日。
    春先の賑わいも䞀段萜し、閑散ずした食堂の午埌3時過ぎ。針生ず卯朚は定䜍眮に集たっおいた。

    二人が囲う机には盛り塩、お札、こけし、お守り、藁わら人圢などいかにも怪しげなアむテムが立ち䞊ぶ。今にも呪いの儀匏が始たりそうな雰囲気の䞭、針生は雑倚な道具の山から平たい円盀をひょいず拟い䞊げ「これなんだけど」ず卯朚に芋せた。

    それは掌に乗るサむズの物䜓で、ガラス蓋の䞭には2皮類の針が芋える。

    手前には短い針があり、その可動域に䜓重蚈や電流蚈に䌌た目盛が小さく扇状に䞊ぶ。珟圚指し瀺しおいる倀はほずんど0に等しい。
    䞭敷を挟んで奥には長針があり、軞を䞭心に360床回る。石か朚で䜜られたような質感の針で、片端のみ赀い。分解するず 図1 のようになるだろう。


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    図1. 方䜍霊針の構造抂略


    「䜕ずいうか、時蚈ずコンパスを足しお2で割ったような」

    ポカンず口を開けおいた卯朚が呟く。問題集を解く手が止たり、早20分が経過しおいた。

    「やっぱりそんな感じに芋えるよね。名前も『方䜍磁針』をもじっただけだし」

    そう蚀い、針生はその道具を卯朚の方に眮いた。
    冗談半分でビラを枡したが、たさかこうなるずは。卯朚は頭に手を圓おる。

    針生はその埌オカ研の新歓を芗き、郚宀で幜霊関連グッズの数々を觊らせおもらったずいう。さらにその堎で仕入れた情報を基に、バむト代をはたいお怪しげな通販サむトから自前の道具を䞀匏揃えたようだ。

    「案の定これらほずんどは眉唟な気がしおいお、本圓に䜿い物になるのかは倧分怪しいずころだった  その方䜍霊針を陀いお」

    そう語る針生の目のクマは、以前よりも濃くなっおいた。この1ヶ月の間、件の霊ず遭遇する床にこれらの道具の効甚を詊しおいたこずが窺える。
    苊難の滲にじむ颚貌であったが、口調の方は意倖にも既に萜ち着いおいた。方䜍霊針に垌望を芋出したからだろうか。

    「ずはいえやっぱり確蚌は持おおなくおね。それで今日、卯朚を呌んだの」

    腕を組み、蚝いぶかしげに机䞊のコンパスを眺める卯朚。

    「そのたたオカ研で盞談に乗っお貰えば良かったのに、なんで」

    圓然の疑問だろう。そう蚀われた針生は倩井を芋぀めながら、圓時のやりずりを思い起こす。

    「オカ研の人たちにずっお怪異や占いは、基本的に話のネタであり、゚ンタメの材料なの。こういうグッズにしおも、実際に効果あるのか、どれくらい確からしいのかを突き詰めるこずにはさほど関心が高くなさそうでね。寧ろその蟺りに现かく蚀及するこずを避けおいるようにも芋えたし。
    『䞀説によるず』ずか『信じるか信じないかはあなた次第』の空気感を守っおいる、ずでも蚀えば良いのかな  たあ自分もちょっず前たではそっち寄りの感芚でオカルトを捉えおいたわけだし、その文化が悪いずは思わないんだけど」

    䜕ずなく状況を察した卯朚が、方䜍霊針を手に取り傟けた。
    方向性の違い、ずいうワヌドが浮かぶ。

    「少なくずも今針生が悩んでいる喫緊きっきんの課題解決には繋がらない、っおずころ」

    いかにも、ず針生は噛み締めるように頷く。

    「このたたい぀蚪れるのか分からない恐怖に、怯え続けたくはない。この子の確からしさは倧事な問題なの」

    そう蚀っお、卯朚の手にある胡散臭いコンパスを指差した。

    「『この子』っお、しっかり愛着湧いおんのね  」

    オカ研からそういう経緯で距離をおいたずいうのは、癟歩譲ったずしお。
    果たしお自分ならその話の圹に立おるのだろうか
    卯朚には知る由もないずころだが、䜕しろ他に針生の事情を知っおいる人間もいない。ひずたず、方䜍霊針の話の続きを聞くこずにした。


    


    この方䜍霊針ずいうのは、最近その筋の界隈でそこそこ流行り始めおいるアむテムで、いわゆるアナログ版のばけたんおばけ探知機ずでもいうべき物らしい。
    短針の振れは幜霊の接近を意味し、その居所を長針が指し瀺す  ずいう噂。それ以䞊のたずもな説明曞はなかった。

    しかし実際の䜿甚感ずしおは、確かに針生がこれたで恐れおいた「䜕か」に反応しおいそうだずいう。

    それがすぐそばたで来た気配があるず、短針は倧きな倀を瀺し、やがお長針がカタカタず音を立おお䞍芏則に回り出すずのこず。
    どこぞの暹海ではコンパスが効かない、ずいう迷信を圷圿ずさせる。
    少なくずも同じ状況䞋で普通の方䜍磁針が、この霊針ず同じ挙動を瀺さないこずは確認枈みだった。

    「本圓にこれで、幜霊の堎所を特定できるのか——悩たしくおね」

    そう針生から聞いお、卯朚は手䞭の方䜍霊針をじいっず芋぀める。

    䞀芋䜕の倉哲もないこの針が、勝手に動いたり回ったりするのか
    珟状、そんな玠振りは䞀切芋えない。

    しかし、そこを疑っおも話は進たないか  

    卯朚は䞀旊、針生の報告内容を真だず眮くこずにした。

    だずすれば、針は䜕らかの倖力によっお動く筈はずだ。針生のいう幜霊ずやらが仮に存圚するずしお、その力で匕っ匵っおいるのだずしたら、長針の先に幜霊がいるのは自然に思える。

    長針がでたらめに動くのはどういうこずだろう  幜霊がコンパスの盎䞊たで来おいる状況なら、可胜性ずしおはあり埗る。北極に方䜍磁針を眮くのが珟実的なむメヌゞに近いだろうか。
    短針も恐らく同様の原理で、その匕っ匵る力の匷さをバネばかりの劂く針の動きに倉換しおいる、ずいう仮説は成り立぀だろう。

    「ずりあえず、長針ず違う向きに進めばそれで良いんじゃないの」

    愚盎ナむヌブに考えるず、そういうこずになる気がするが。

    「本圓にそう蚀い切っお良いのかなぁ」

    そんな卯朚に察し、枋い顔を向ける針生だった。唞うなるような声ず共に、話はそう単玔じゃないず䞻匵しおいる。

    「そもそも、幜霊がある堎所にピンポむントで存圚するなんお蚀えるのかな」

    「そうは蚀えないかもだけど、䞀旊そこは単玔化しお考えおも良いのでは」

    「だずしおも、耇数の霊が近くにいたら䞊手く機胜しないよね。䟋えばこうなる可胜性もあるでしょう」

    そういっお針生は卯朚の手元にあった裏玙を匷奪し、図2 を描く。


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    図2. 耇数の幜霊が存圚する堎合


    䞊䞋の幜霊に匕っ匵られた堎合、針はその䞭間を指しおしたう。確かにこの手の重ね合わせが成立するなら、長針が指す方向は必ずしも霊のいる方向ずは䞀臎しない。

    「分かるけど、そこたで倧きな問題なのか」

    そう卯朚は感じお、針生に語った。

    「方䜍霊針は手に持っお自由に動けるでしょ。適圓に数ヶ所で蚈枬すれば、倚少のズレはあれど、倧䜓どの蟺に霊がいるのか怜蚎぀きそうじゃない」

    「たあ、それもそうか  いや、でもさ」

    寧ろ卯朚の頭を悩たせるこずになったのは、次に針生が提瀺した可胜性だった。

    「そもそも幜霊が真っ盎ぐ針を匕っ匵っおいるようなむメヌゞで描いおたけど、こうやっお枊を巻いおいるケヌスも吊定できないかも  あ、䜙癜足りないわ。もう1枚ちょうだい」

    卯朚が枡した新しい裏玙に、針生は 図3 を描いた。


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    図3. 枊を巻いおいる堎合


    「あヌ  なるほどね」

    この捉え方は、氎や倧気のような流䜓に近い捉え方だろう。
    ならば、幜霊は颚呂の栓を抜いた時にできる枊ずか、台颚のような存圚に圓たる。方䜍霊針は磁石ずいうよりも、颚芋鶏のような颚向蚈ずしお機胜するか。

    「冷たい空気のような気配、っおむメヌゞ的にはこっちの方がしっくりくるわけ」

    「だず思う」

    卯朚の問いかけに、針生は頷いた。

    確かにこの仮説に基づけば、長針の先に幜霊がいるずは蚀いがたい。枊の巻き方が匷ければ匷いほど、そのズレも倧きくなる。数ヶ所枬定した皋床でも十分ずは蚀えないだろう。

    「芁は、堎に回転があるどうか、っおずころだな」

    そこはかずない既芖感。それは、今たさに卯朚が遞択履修しおいるずころの、ベクトル解析ずいう分野に通じおいた。

    「堎っお䜕」

    「ああ、ごめん。電堎ずか磁堎っお、聞いたこずない」

    「電磁気の授業でやったような気もするけど、いたいちよく分からんな」

    「分かる、正盎分かりづらいよね。ただ、話自䜓はそんなに難しくないさ。この 図3 は、たさに堎のむメヌゞを具珟化した物だから」

    そう蚀っお卯朚は、䜙癜に新たな図を曞き加える。

    「針生も挠然ず感じ取っおいるその䞍思議な流れを、ずりあえず『霊気』ずでも呌がうか。実䜓は䞀切䞍明だけど、それは幜霊から空間に湧き出しおいる物だずしお  」

    「うヌん、実䜓䞍明ず蚀われおも  䜕ずなく、颚をむメヌゞしお良いの」

    「それで構わない。幜霊ずいう台颚から、それが噎き出しおいるような感じかな。そしお方䜍霊針は霊気の力を受けお、長針でその向き方䜍を、短針でその倧きさ匷床を瀺すず考える。向きず倧きさで決たる量  っお蚀われたら、ピンずくる」

    「うヌん  ベクトルだっけ」

    「そうそう。玠晎らしい」

    「高校でやったし、それくらいは流石に。
    芁するに方䜍霊針は、霊気をベクトルずしお枬っおるっお蚀いたいわけ」

    「いかにも。そんじゃ、さっき描いた幜霊の呚りで、少しず぀方䜍霊針の䜍眮をズラしお枬ったらどうなる その霊気のベクトルを䞊べおみるず  」

    指瀺に埓っお、針生が少しず぀玙の䞊に矢印を増やしおいく。
    やがお、図4 のような絵が出来䞊がった。


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    図4. 方䜍霊針によっお芋えおくる霊気堎
    簡単のため、ベクトルの倧きさは統䞀


    「なんか、倩気図みたいになったな」

    「分かる。日本各地の颚向きを衚瀺したら、ちょうど䌌たような図になるず思う。
    そんでこの矢印たちの向きを滑らかに繋いだら、図3 みたいになるず思っお良い。こんな感じで空間䞊に広がったベクトルの分垃を、䞀般にベクトル堎っお呌ぶわけだ」

    ++や−-に垯電した物䜓は静電気力により、呚囲に電堎を䜜り出す。川の各点で氎の流れる速床を枬れば、その分垃は速床堎ずしお描ける。いずれもベクトル堎の仲間だ。

    「幜霊が呚囲に䜜り出す霊気のベクトル堎ず蚀うのであれば、『霊気堎』ず呌んだ方が良い」

    「いいね、それ採甚」

    卯朚は針生の案を受け入れた。
    針生はさらに、自分の理解を確かめるように続ける。

    「そうなるず、さっきの問題は、霊気堎が枊巻いおるかどうか、っおこずになりそう だったらたさに、図4 の劂く枬っおみれば良いわけか」

    「それが分かりやすいね。巻いおいるにしおも右巻きか巊巻きか、さらには巻きの匷さも問題になっおくるだろうし。
    いざ幜霊が来る感芚がしたら、その蟺りをこんな感じでくたなく動き回っおみれば、霊気堎の党䜓像が掎めるかもね。ちょっずず぀動いお、その床に長針の向きを芋おみお  」

    そうやっお霊気堎に関する思考を続けおいた卯朚に、針生が釘を刺した。

    「いやいや、埅っお。毎回そうやっお霊気堎を探るのは本末転倒じゃない」



    次の話〈3. Methods II〉


     
     
    コペンハヌゲン🇩🇰で脊髄の神経物理孊を研究する倧孊院生。留孊・研究生掻を曞き留め぀぀、゚ッセむや小説、音楜を现々ず。そのあわいを暡玢しおいたす。 Amazonのア゜シ゚むトずしお、Purplish Pinusは適栌販売により収入を埗おいたす。

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