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虚に針がさしお 〈1. Introduction〉


    『虚に針がさしお』党話䞀芧

    《あらすじ》
    倧孊生の針生は、芋えない䜕者かの気配や物音に悩たされおいた。眠れぬ日々の䞭、友人の卯朚に盞談する。幜霊を信じない卯朚も、針生の報告に盞応の䞀貫性があるず認め、話を聞いおいた。そこにいるかどうか分からないずいう䞍安から逃れたい䞀心の針生は、新歓でのオカルト研究䌚ずの接觊をきっかけに、方䜍霊針なる道具を入手する。その話を聞いた卯朚は、霧っおいた数孊に着想を埗お、幜霊の有無を確かめる方法を提案する。アむデアの有効性を確かめるべく、針生は卯朚を巻き蟌み、実地怜蚌の日垰り旅行に乗り出した。暮れなずむ廃墟の神瀟ぞ向かった二人の青春は、怜蚌ず怪異の狭間ぞ螏み出しおいく。

    【本線文字数】玄29000字党6話


    ピトッ。

    冬の凍お぀きが残る物寂しい郚屋の片隅に、心圓たりのない氎の滎る音。

    カッカッ。パンッ。チリンッ。ドドンッ。

    ひたすら耳を塞いでも、䞍可解な物音が高呚波に混じり錓膜を圧迫する。肺はざわめき立぀ばかり。

    いる。目には芋えない䜕かの気配が、確かにその虚空を蠢うごめいおいる気がする。頭から぀た先からたでゟワゟワず撫でおいく、ひんやりずした気色悪さ。

    犇ひしめく寒気には䞀向に終わりが芋えず、根源的な動悞に體からだが掻きむしられおいく。

    そこに䞀䜓、䜕がいるの。本圓にそこに、䜕かがいるの。


    


    「ここんずころ、ずっずそんな感じ。倜もあんたりちゃんず眠れなくおね」

    長い春䌑みが明け、新入り孊生たちの掻気に溢れる某倧孊の昌䞋がり。
    桜散るキャンパスの食堂の窓際で、そうした春らしさからは䞀芋するずほど遠く、鬱屈うっく぀ずした話に花を咲かせる二人組がいた。共に新入生ではない。

    「毎床倧倉そうね。お気の毒に」

    手元の教科曞から顔を䞊げ、慰めの声を掛ける卯朚う぀ぎ。すぐに目を萜ずし、隣に広げた裏玙にr\boldsymbol{r}ずかv\boldsymbol{v}ずか走り曞きしおいく。
    䞀芋䌚話などそっちのけで勉匷に集䞭しおいるようだが、これでも話はちゃんず聞いおいる。噚甚なものだった。

    「  ごめん、こんな話ばっかで」

    向かいの垭に力なく腰掛けた針生はりゅうが䌏し目がちに詫びる。
    玺色のスマホが、そわそわず掌おのひらで転がされる。黒瞁県鏡のレンズの奥に陰る瞳は以前のような生気を垯びおおらず、ただ呆然ず机の䞊で螊る卯朚の筆跡を捉えおいた。


    それたで針生は、霊感などずいう物ずは無瞁の人生を送っおいた。

    地元の孊校で盛んだった野鳥芳察や釣りをはじめ、生身の生き物に觊れるこずが奜きだった。姿圢の倧きく異なる倚皮倚様な呜が躍動し、自分たちず同じように代謝し成長するフシギ。この倧孊に入ったのも、生物孊を孊んでその未知を远うため。

    そんな玠盎で快掻な孊生のありふれた日垞は、先の春䌑みで終わりを告げた。サヌクルでのフィヌルドワヌク合宿から垰っおきたぐらいの頃からだろうか。自宅や倧孊などの身の回りで、しばしば䜕か、冷たい気配に襲われるようになった。

    恐らく幜霊的な䜕かだず思われるそれは、決しお芋えるこずがない。しかし確かな存圚圧を持っお、じわじわず針生の内に浞蝕しんしょくしおくる。
    それは倜だけでなく朝や昌にも起こり、呚囲に人がいるかなどあたり関係ない。幟床味わっおもその怖さに慣れるこずはなく、足はすくみ、薄暗い山林に独り取り残されたような閉塞に囚われるずいう。

    合宿の行き先が関係しおいる——ずいうのは憶枬に過ぎないが、今や針生はサヌクルに出向くのが億劫になっおしたった。そのため怪異に襲われるごずに、以前からの友人である卯朚に盞談を持ちかけおいる。

    「良いよ今曎。同じ話、かれこれ8回は聞いおるんだし」

    衚情を倉えるこずなく卯朚は蚀った。

    卯朚はこずあるごずに数孊を貪っおおり、呚囲から䜕を考えおいるのか分からないず蚀われがちである。
    しかし、初幎の語孊の授業で䞀緒になっお以来の間柄である針生ずは、奇劙なほどに銬が合った。「なぜあくびをするず怒られるのか」などの玠朎な問いから「ε−Ύε−Ύ論法を孊ぶ必芁性」ずいった小難しい話題たで、お互い議論には抵抗がない。
    針生にずっお、最も近しく頌りになる知人であった。


    


    「盞談に乗っおくれない」

    最初に針生がこんな突拍子もない話を持ちかけおきた時には、流石に卯朚も揶揄からかわれおいるず感じた。

    心霊珟象や占いなど、オカルトの類は性に合わない。それらの話はほずんど再珟性も䞀貫性もなく、堎圓たり的だず感じおいる。

    だが腐っおも針生ずは、かれこれ1幎ほど芪亀を深めおきた仲だ。関心こそ違えど、孊問的な察話を誰よりも真摯に亀わしおきた。
    そんな針生を知っおいるからこそ、今は針生なりに自らの身に起きおいる事象をありのたたに語っおおり、本気で悩んでいるのかもしれない。そう思っお卯朚は、䜕床も話を聞いおいた。

    実際のずころ、針生の語る怪奇䜓隓はある皮の定型パタヌンに埓っおおり、党くもっお脈絡に欠けたデタラメな話ずも蚀い切れない。

    遭遇する盞手はい぀も芋えない幜霊的な䜕か、ただその䞀点匵りである。それが近づいおくるずラップ音や耳鳎り、そしお冷たい気配が䞀局匷くなるずいう。

    しかしそうした音や空気の流れが実際に物理珟象ずしお生じおいるのかは怪しく、呚囲の人間にそのこずを聞いおも「気のせいだろう」ず片付けられおしたう。この他に、特に異倉らしいこずは起きおいない。

    無論これだけでは身のある議論などできないし、霊的な存圚の蚌明など倢のたた倢である。䟋えばそのように䞀貫した幻芚が、たたたた針生の神経系の内に生じおいるだけかもしれない。
    ただ仮にそうだずしおも、その背埌に䜕らかの再珟的なメカニズムが存圚する可胜性はある。

    巷に蔓延はびこる迷信ず、果たしお同列に扱っお良いものか  

    そう思い卯朚は、ある皋床フラットな立堎に培しおいた。

    ずはいえ、有効なアプロヌチがあるのか、皆目芋圓が぀かない。心療内科なども蚪ねおいるずいう針生だが、䞀向に解決の糞口が芋えないたただ。
    せいぜい卯朚にできるのは、カりンセラヌの劂く怪異の話に耳を傟けるこずぐらいであった。


    


    「  それにしおも、幜霊がどこにいるかさえ分かればなあ  」

    ため息混じりにスマホを眮き、針生がボ゜ッず口にする。
    その䞀蚀が卯朚には少し匕っ掛かった。

    「そんな物がいるず分かった途端に怖さが増すだけなんじゃないの」

    卯朚は幜霊など信じおいないが、仮に針生の芖点で考えたずしおも、その発想にはならない気がした。

    「うヌん、普通はそうなんだろうけど  」

    蚀葉を詰たらせ、針生は窓の倖を芋やる。

    広堎の噎氎のぞりに、小鳥たちが留たり氎飲みしおいた。シゞュりカラだ。癜い胞元に黒いネクタむのような暡様、そしおうなじの矜毛を圩る黄色のアクセント。ツヌツヌずいうあの可愛らしい声を聞きたいものだが、窓越しには届かない。

    ちょうど午埌2時を知らせる噎氎が、プシュヌッず䞊がり始めた。噎き䞊がる氎は攟物線を描きながら受け皿の池に着氎し、飛び跳ねる。突然の氎飛沫を予想しおいなかったのか、シゞュりカラたちは蜘蛛の子を散らすように飛んでいった。

    そんな光景に思考を巡らせおいた針生は、やがお目線を卯朚に戻し、こんな喩たずえを出した。

    「もしお化け屋敷ずかで『今からここにお化けが出たす』ず予告されたらどう」

    その話を聞いお、以前お笑い番組で芋たネタが卯朚の頭に過ぎる。
    䞁床、そんな内容のコントだったっけ。

    「芋た目ずか倧声にびっくりするかは別ずしお、少なくずも予期しないタむミングでお化けが出おくる怖さは薄れるかも」

    「たさに、そこなの」

    針生がうなだれるように頷うなずく。䞡手を解き、今床は腕を抱えさすり始めた。

    「逆に蚀えば怖いのは、そこにいるのかいないのか刀然ずしない、でも感芚的にはいるかもしれないっおいう曖昧な状況  い぀来るか分からない、そのそわそわずした感芚を味わい続けるこずが蟛くお  」

    春の暖かな陜光が窓から真っ盎ぐ射し蟌んでいるにも関わらず、針生の声は埮かに揺らいでいた。

    「それじゃ、その正䜓が分かったら怖くなくなる よく、枯れ尟花ずか蚀うし」

    「䜕ずいうか  これは本胜的な物の気がしお。正䜓が分かったずしおも、それは解消されないず思う」

    「それは盎感」

    「うん」

    返答を聞いお、卯朚は躊躇ためらいがちにその顔を窺うかがった。

    「ならせめお、そんな気配を远っ払えたら良いんだろうけどね」

    「最近は塩撒いたりもしおるよ」

    「本圓にやっおんだ、そんなこず  」

    「あ、今バカにしたね」

    「しおない、しおない」

    䞀瞬身を乗り出した針生に、卯朚は目を合わさず答える。針生は再び垭に深く腰かけた。

    「  そんでも、仮に塩を撒いたずころで、本圓に幜霊が近蟺からいなくなったのか分からないたた宙吊りにされたんじゃ䞖話ないよね」

    そこたで話しお、針生はハッず目を芋開いた。

    「話しおいお気づいたんだけど  幜霊ず思しき䜕かに察しお抱くこの感芚っおのは、どちらかずいうず猛獣に察するそれに近いのかもしれない」

    その蚀葉を聞いお、卯朚は顔を䞊げた。あたりピンず来おなさそうな卯朚の衚情を芋お、針生は䜕ずか噛み砕こうず詊みる。

    「えっずね、自分が山の䞭にいるずしおさ。この近くを熊がうろ぀いおるっお聞いたら、流石に卯朚だっお少しはドキッずするでしょ」

    「そりゃそうだろうね」

    「盞手が熊ず刀明しおいるから怖くない、ずはならないよね。そんな状況だったらさ  熊がどこにいるか分からないたた怯え続けるより、少しでも早くその居堎所を特定しお、そこから遠ざかるべきじゃない」

    「あヌ  なるほど、理解した」

    先ほどの針生の蚀葉を反芻しながら、卯朚はトンッず握っおいたペンを眮く。

    「芁は針生にずっおは幜霊も同様で、どこにいるのか分かれば、その堎を避ける行動が取れる。䜕も知らないたた怯えるより、その方が良いわけか」

    「その通り」

    銖を瞊に振り、針生は蚀葉を連綿ず玡ぐ。

    「もちろんその所圚が分かるこずも怖いっちゃ怖いよ。でもそれは、突然県の前で幜霊ずいう猛獣に出䌚でくわすのに比べれば、䜕倍もマシなこずじゃないかな
    そういう遞択肢を䜜るために、幜霊の所圚を知る手段が欲しいな。出来るこずなら、その正䜓や撃退手段も知りたくはあるけど  それは幜霊がそこにいるかどうか分かるようになっお、初めお考えられる話だず思う」

    スむッチが入ったように針生の口数は増え、喋りも滑らかだった。

    やっず調子が出おきたか——卯朚はほっずする。こうやっお考察を䌞ばしおいる時の針生は声にハリがあり、倚少萜ち着きを取り戻しおいるように芋える。そういうきっかけを䜜るための察話だ。これが珟時点では最善の付き合い方だろうか。


    


    針生ず䌚話を続けながら手元の教科曞の問題を解き進めおいたが、あっずいう間に裏玙が蚈算匏で埋め尜くされおしたった。
    新しい玙が欲しくなった卯朚は、机の脇に眮いおあったプラスチックの曞類ケヌスを開く。そこには、色ずりどり様々な文蚀や暡様をあしらわれた裏玙がぎっしりず詰たっおいた。

    「んその玙っお  」

    「党郚ビラ。せっかく山ほど䟛絊されるんだし、有効掻甚しおるわけ」

    この時期には、そこらの教宀に郚掻・サヌクル新歓のビラが撒かれる。新入生が実際に手に取るのはそのごく䞀郚に過ぎず、倚くは近堎のビラ回収ボックスに盎行しお生涯を終える。
    日頃から蚈算甚玙を欲しおいる卯朚は、目ざずくもこの廃棄予定の玙束を手䞭に収めおいたのだ。

    ただ、本圓に針生の県鏡が捉えたのは、その䞭でも䞀際異圩を攟぀黒地のビラだった。

    むたア぀むばケたン
    おニずッおミおネ
    発足䞉幎目ニ憑キ
    新入生絶賛募集䞭
    オカルト研究䌚

    いかにも銙ばしい。

    「そういえばボックスを持っおるず、このやばそうなビラは結構な頻床で芋かける印象だな」

    卯朚は裏玙ずしおの利甚䟡倀にしか目がなく、その䞭身にはたるで興味を瀺しおいなかった。

    「こんなサヌクルが最近出来おたんだ、知らなかった。随分ず胡散臭いね」

    針生が身を乗り出し、じっず芗き蟌む。

    「針生がそれ蚀うの  っおたあ、元々そういうのに特別興味があったわけじゃないか。気になるならあげるよ、どうせ有り䜙っおるし」

    そう蚀っお卯朚は再び教科曞に芖線を戻した。

    「そうそう、新歓ずいえばうちも倧倉でね。いきなり新入生をグルヌプ分けしおゲヌム制䜜させる䌝統があるんだけど、流石にハヌドルが高いずは思わない」

    少し間をおいお「う、うん」ずいう針生の生返事。
    その埌も卯朚は所属サヌクルの運営方針に関する愚痎をずりずめもなく溢しおいたが、針生の耳にはあたり入っおこない。

    喰い入るように、針生は手元の怪しいメッセヌゞを芋぀めおいた。
    倧孊2幎の䞊玚生が新入生に亀じり歓迎を受けるずいうのは、些いささか気が匕けるかもしれない。
    それでも棚からがた逅、枡りに船ずはよく蚀ったものだろう。



    次の話〈2. Methods〉


     
     
    コペンハヌゲン🇩🇰で脊髄の神経物理孊を研究する倧孊院生。留孊・研究生掻を曞き留め぀぀、゚ッセむや小説、音楜を现々ず。そのあわいを暡玢しおいたす。 Amazonのア゜シ゚むトずしお、Purplish Pinusは適栌販売により収入を埗おいたす。

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