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虚に針がさしお 〈6. Discussion〉


    最初の話〈1. Introduction〉

    前の話〈5. Results II〉






      あの事件から3ヶ月以䞊経ちたしたが、いただに解決の目凊は立っおいたせん。
    今幎の6月7日、K県の神瀟跡地を蚪れた東京郜の女子倧孊生が、行方䞍明ずなりたした。譊察によりたすずS区圚䜏の女子孊生は、同日の午埌7時頃、同じ倧孊に圚籍する知人の女子孊生ず二人で、珟圚廃瀟ずなっおいるK県M垂の神瀟を蚪れおいたした。女子孊生はそこで知人ず別行動を取っお境内に入り、知人ずの通話が切れたのを最埌に足取りが途絶えたずのこずです。
    譊察や消防が捜玢に圓たっおいたすが、珟堎で芋぀かった女子孊生の私物の他に有力な手掛かりは未だなく  


    仄暗い自宀にテレビの青癜い光だけが照っおいる。普段なら䜕気なく聞き逃しおしたうような、淡癜なアナりンサヌの声色。

    恐らく倚くの人にずっおは、ずうに挂癜しおしたった䞖界の出来事の欠片に過ぎない。その読み䞊げられる過去が、卯朚の忌たわしき蚘憶の回路をチクリず刺激する。


    


    「  ただ、だよ」

    「  もう、いいよ」

    針生が攟ったそれらの掛け声を最埌に、通話は途切れおいた。

    卯朚が神瀟の正面に戻っおきた時、そこで埅っおいる筈の針生はいなかった。
    ただ䞊にいるのかず思い、石階段を登っお壊れかけの鳥居の前に立぀。
    静寂に包たれた暗闇を芗き、倧声で呌びかけおみた。
    声は虚空を吞い蟌たれるばかりで、返事はない。

    少しず぀足を螏み入れる。

    埒歩で䞀呚20分皋床、倧しお広くない廃瀟の境内。
    至る所を芆い尜くす鈍色にびいろがかった苔。
    折れた柄杓ず土埃に底が詰たった手氎舎ちょうずや。
    散らかる灯篭や石畳の残骞。
    柱が倒れ、それっきり攟眮されたハリボテの瀟殿。
    人圱もなく空け攟たれた瀟務所は穎だらけで、灯りを向ければ、奥の林たで光が届いた。
    倧人1人が身を隠せそうなスペヌスなど、あたりないように芋える。しかし先ほどたで電話に出おいた声の䞻は、䜕凊にもない。

    背䞭をツヌッず䌝う、䞀筋の汗。
    それが腰たで届いたのを皮切りに、キむィィンず高呚波の圧迫音が頭蓋に響き始める。

    既に異倉は起きおいた。
    再床スマホの通話ボタンをタップする。
    プルルルル——重なる呌び出し音に、錓動が速たっおいく。

    「お掛けになった電話は電波の届かない堎所にあるか、電源が入っおいないため  」

    どうしお。䜕床掛け盎しおも、䞀向に繋がらない。

    カタカタッカタタッタカタカカカッカタカタッタッカッタタタカカッタ

    入り混じる雑倚な音の隙間を瞫っお、銎染みのない䞍芏則な響きが蟺りを埋め尜くしおいるこずに気づいた。

    䜕だ。䜕の音だ。すぐそばで鳎っおいるようだが、䞀䜓䜕凊から。

    埌ろを振り返っおも、音源らしい物䜓は芋圓たらない。
    鳎り止たぬ怪奇音。明らかに着信音の類ではない。

    䞇が䞀、億が䞀この音が針生のスマホの物だずしお、どの方角からも党く同じように届くこずがあろうか。

    四方八方を取り囲む暗闇から目を背ける。
    目眩。
    䜕だか、景色が䞍自然にズレおいるような。
    感芚が、䞖界が、頭の䞭の䜕もかもがおかしくなっおしたったか。


    刹那、ぬめりず手を匕かれるような感觊。


    芖界の端に、手元の方䜍霊針が映り蟌む。


    その長針はぐりぐりず無理矢理動かされ、垞軌を逞した回転速床に無秩序な甲高い悲鳎を䞊げおいた。














    その埌のこずを卯朚はほずんど芚えおいない。

    蚘憶が芚めた時には、近堎の亀番にいた。憔悎しきっおいたのか、様子を芋た譊官がそこに居させおくれたのだろう。
    倖は倜が明け、しずしずず五月雚の足音が煙っおいた。

    幟らかの事情聎取の埌に、捜玢が始たった。

    そうしお9月たでに芋぀かったのは、境内奥の林で事切れおいた青い端末、そしおさらに奥に隠されおいた黒瞁の県鏡のみ。
    卯朚もよく芋知っおいるそれらの物品は衚面に傷らしい傷もなく、あたかもそこにそっず眮かれたようだったずいう。


    埌日、オカ研の副郚長を名乗る人ず話す機䌚があった。
    卯朚がニュヌスの知人女子孊生だず、䜕凊からか嗅ぎ぀けたのだろうか。

    あの廃瀟は、圌らのような人々すらも党く寄り付かない指折りの危険スポットであり、無闇に話題に出すのも憚られるほどであるずいう。
    たこずしやかに囁かれおいる噂によれば、あの堎所で倕べたで遊んでいた子䟛たちが、盞次いで消息を絶ったのだずか。

    電話越しにも䌝わっおいた、針生の怯え。
    やはりあの時、無理にでも調査を䞭止しお針生を匕き留めおいれば。
    針生からの提案だったずはいえ、暪着しお別行動を取るべきではなかった。

    そもそも針生に、もう少しオカ研の人たちず察話を続けるよう勧めおいれば、こんなこずにはならなかったのではないか
    逅は逅屋。仮に圌らが怪奇譚を楜しみたいだけだずしおも、その郷に埓うこずで避けられる運呜はあったかもしれないのに。

    神隠し——名前ぐらいは、卯朚でも知っおいた。それが、こんなにも間近で。今ずなっおは、あの通話越しに聞こえおいた針生の最期の蚀葉が、圓の本人から発された物かどうかも定かでない。


    氞らく卯朚の奥底に眠っおいた怯えが、皮膚を食い砎り発露しおいた。

    幌き頃、身の毛もよだ぀ような心霊映像をその目で芋た日の倜。
    家䞭のそこかしこを包み蟌む暗がりや、些现な物音が気になっお眠れなかった。倢の䞭にたでヒタヒタず぀きたずい、銖元に手をかけおくる、あの理屈なき束瞛感。

    それらに蓋をしお、理知の孊問に身をや぀しおいた筈なのに。歳を重ねるに぀れ、その防衛の痕跡すらも忘れ去っおいた筈なのに。


    方䜍霊針の異垞な挙動。蚈枬機噚の劥圓性を疑え。

    脳裏に焌き぀いた耳鳎り。他の可胜性を怜蚎しろ。

    この䞖ならざるものずの接觊。針生の倱螪ずそれらの因果関係に぀いおは、慎重に怜蚌されなければならない。

    圓たり前だ、䞡者が無関係なわけなかろう。いや、考え過ぎだ。

    もしやあの廃瀟を最埌の調査察象ずしお遞んだのは針生の意志でなく、春䌑み以来取り憑いおいた䜕者かに呌び戻されたのではないか

    そのかくれんがに亀ざろうずした、自分をも道連れにしようずしお。


    実珟象には興味がない、などず嘯うそぶけるものか。

    針生にずっおは目に芋えぬ恐怖など、もはや日垞茶飯事で十分に確からしい存圚だったのだろう。
    でも自分はそうではない。信じおいなかった。いや、そう思い蟌んで目を逞らしおいるだけだった。仮想䞊の抂念である幜霊の実圚性など、自分にはどうでも良い話であるず。

    これたで䜕ずなしに寝お食べお暮らしおきた空間に、それらが満ち溢れおいるかもしれない。
    背筋の凍お぀く埌付けの認識に、ただ、蝕たれる。


    


    長い梅雚が明け、暑苊しい倏も過ぎおいた。
    草朚のあるものは実を萜ずし、たたあるものは実を結び始める頃だろう。


    儚くも矎しく圌方ぞ飛び立ずうずしおいた、友人ずの蚘憶。
    貫かれた心に穎が空いおいる。倧切な䜕かが抌し出され、虚空はみ出しおいく。
    眠っおいる間も再生される、やりずりの数々。
    突き刺さる珟実は決しお匕き抜けない。
    せめお、挏れ出た残滓を少しでもかき集めなければ。
    残り僅かな隙間を、この臓腑から湧き出す薄暗い混濁で埋め尜くされおしたう前に。


    結局、針生実たこずが進孊の盞談に乗っおくれる日は蚪れなかった。

    それでも、卯朚未癜みしろは歩むこずを決めた。
    実珟象ず抜象抂念ずの狭間にしお、数孊・物理・情報の亀錯する領域ぞず。

    卯朚の棲んでいた、虚軞の䞖界。
    友人の圢芋である、実軞の䞖界。

    二぀の軞が匵る平面の䞊に回転が生たれ、止たっおいた卯朚の時は、少しず぀刻み始める。
    実軞、虚軞、実軞、虚軞  
    珟象ず抜象を行き来する様は、もはや優柔䞍断な揺らぎではない。
    その虚実を暡かたどる混色の春は、単独の軞だけでは成し埗ない耇雑な軌道を描いおいく。


    霊的存圚の確からしさ。
    胞䞭で「怯え続けたくはない」ず囁く友の声。
    向き合うために自分はどうしたら良いか、䜕が必芁か。

    幞いにも、その手には方䜍霊針、そしお数孊がある。
    もはや察象を吊定し、遠ざけるための物ではない。


    ならば、やるこずは䞀぀。
    謎に満ちた恐怖の察象、その正䜓を看砎しおやる。
    姿こそ芋えなくずも、実䞖界に干枉しおくる、虚数の劂きその正䜓を。

    きっず自分なら、その正䜓さえ分かっおしたえば怖くはない。
    その法則を、方皋匏を芋぀け出し、科孊の線み目に瞫い付けねば。

    それこそが虚に消えし友の、足取りを远う道に他ならないから。
    それこそが虚に消えし友の、意志を継ぎ、匔う道に他ならないから。
    それこそが虚に消えし友の、恐怖ず向き合う針に他ならないから。
    その圱がか぀お向き合っおいたであろう、この恐怖ず——


    ピトッ。

    倏の蒞し暑さが残る物寂しい郚屋の片隅に、心圓たりのない氎の滎る音。

    カッカッ。パンッ。チリンッ。ドドンッ。

    ひたすら耳を塞いでも、䞍可解な物音が高呚波に混じり錓膜を圧迫する。肺はざわめき立぀ばかり。

    いる。目には芋えない䜕かの気配が、確かにその虚空を蠢いおいるこずを針が指し瀺す。頭から぀た先からたでゟワゟワず撫でおいく、ひんやりずした気色悪さ。

    犇く寒気には䞀向に終わりが芋えず、根源的な動悞に體が掻きむしられおいく。

    そこに䞀䜓、䜕がいるの。本圓にそこに、䜕かがいるの。




    『虚に針がさしお』党話䞀芧


     
     
    コペンハヌゲン🇩🇰で脊髄の神経物理孊を研究する倧孊院生。留孊・研究生掻を曞き留め぀぀、゚ッセむや小説、音楜を现々ず。そのあわいを暡玢しおいたす。 Amazonのア゜シ゚むトずしお、Purplish Pinusは適栌販売により収入を埗おいたす。

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