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第39話 「決勝戦」

    時は1986年、昭和61年12月14日。とても秋季とは言えないどんよりとした寒空の下、体育会主催フェニックス秋季ソフトボール大会男子の部及び男女混合仮裝の部の決勝戦の火蓋は切って落とされた。我々は遂に決勝まで登って来たのだ。それにしても男女混合仮裝の部でなくて良かった。若しそうだったら今頃は「仮裝してまで優勝したかったのか」と、情け無い思いをしていた処である。今なら迷わず仮裝の部を選ぶけれども。て、まだ存続しているのか、この大会。否々、仮にそうだとしても約一箇月に亘って、各地に散ったメンバーが毎週広島に集合するのはちょっと大変である。最早、自転車ダッシュの駆け込みというレベルでなく、申込だけして不戦敗は確実である。

    男子の部決勝は午前10時に開始。フェニックスシリーズへの常連メンバーで固めた我々「物理軍団58」チーム(略号《物》)と、ソフトボール同好会OBメンバーから成る「神頼み・篠沢教授に三千点」チーム(略号《神》)とが決勝で激突した。我軍は準決勝で「We are No.1 軍団」チームを9対4で下しての決勝進出だが、対する《神》チームも負けじと「わしゃあ男じゃけん」チームを8対5で下しての進出である。

    双方の戦力を分析してみると、両軍の得点失点比較は何れも1点差。攻撃力、守備力、共に互角の勝負といったところである。それが証拠に決勝進出できなかった「We are No.1 軍団」と「わしゃあ男じゃけん」の三位決定戦は、2対0で「We are No.1 軍団」が辛勝利するという僅差僅少金箔じゃなくて緊縛いや緊迫した試合となった事からも窺い知れる。我々《物》チームから四点も奪取した程のチームが二点しか取れなかったくらい守備力の高いチームを下して、決勝進出を決めたのであるから油断してはならない。きっと《神》チームの面々も同じ事を考えたに違いないのである。

    「我々から5点も奪い取った程のチームが1点も取れなかったくらい守備力の高いチームを相手に、9点ももぎ取って決勝進出を決めたのであるから油断してはならない。けど向うも同じように考えて『我々から4点も奪い取った程のチームが2点しか取れなかったくらい守備力の高いチームを相手に、8点ももぎ取って決勝進出を決めたのであるから油断してはならない。けど向うも同じ事を考えている筈だ。“我々から5点も…”』」などと唯でさえ解り悪いのにその上入れ子構造なものだから途中でどっちのチームの事を喋っているのか判らなくなって、いつのまにか点数を取り違えて自軍が自軍を相手に戦う状況に陥っていたり、左右括弧の数が合わなくなったり、無限ループに入ったりで往生しそうである。んな訳ないか。

    下らない事をいってないで、早速、当時の体育会新聞から決勝の模様を引用した方がよさそうである。

     《物》未典明(理58)と《神》野津神吉(工58)両エースの投げ合いで始まったこのゲーム、最初は投手戦の様相を呈したかに見えたが、《神》チームの守備の乱れから六回表を終わった時点で、5対0の大差のつく内容となった。
     しかし《神》チーム、遂に六回裏、連打連打で一気に四点を取り返した。残るは七回のみ!しかし野獣の様に声を出す《物》チームの迫力が《神》チームを上回った。結局七回表ダメ押し点を取った《物》チームがそのまま逃げ切り6対4で《物》チームの優勝が決定した。自責点ゼロで敗戦投手の野津、無念!
     「最後に花を咲かせました!」と喜ぶ《物》チームの言葉通り、彼らの四年間の執念が爆発した試合であった。
     おめでとう「物理軍団58」チーム。

    これが全貌である。試合の雰囲気を短い文に凝縮して的確に表現した名記事だとは思う。然し、これでは余りに短かくて、それでお前は一体何をしたのだとか、ソフトボールには興味がないだとか、もっと他に面白い話をしろとか、前回は落ちてなかったよねとか、注文したビールと唐揚げは未だかとか、ウインドウズなど普段使わない私に向かってパソコン買ったけどインターネットやワードの使い方や年賀状とか写真の印刷の仕方を教えてくれと言う高齢者約二名もいたりするし、まだ駄洒落も何も入れてない草稿を覗いて「あんたのホウムペエヂ面白うないわ」と鬼の様に手厳しい審判を下す家族想いで美しくて優しい妹もいたりするので、私が解説を兼ねて行間を埋めてみることにする。前回の反省を踏まえ、今回こそは落ちを付ける様に心掛けたい。

    まず最初に不満を述べておきたい。何故エース未のみが紹介されているのか而もフルネームで。別表でいいからスターチングメンバーくらい紹介してもらいたいものである。元国体投手を相手に二度も出塁し、チーム最初の生還を果たして先頭打者の役目を十分に務めた上に、ちょっと足が滑って盗塁に失敗するという技も見せたのは私である。技じゃないって。盗塁失敗の判定に対して「野獣の様に」吼えて抗議した事も記事の一端から窺い知ることが出来る。仲間も唖然としていたが我が軍の士気を盛り上げるために必要な演出と心得る。

    次に、「連打連打で一気に四点」というと聞こえは良いが、詰まった当たりが間を抜けたものとかテキサスヒットばかりだったので打ち込まれて散々という雰囲気ではなかった。とはいえ、この侭ズルズルと行ってしまいそうな嫌なムードだったのは確かである。そんな時、タッチアップのランナーをホームで刺した私の功績は大きいといえる。これで盗塁失敗はチャラだし、皆の士気は昂揚してアウトを重ねる毎に皆、雄叫びを上げてゆく。そりゃもう一点差だし、みんな必死である。

    あれよあれよという間に野獣病は伝染し、もう皆、声を出しまくる狂乱の事態である。声で圧倒してアウトにするのは我が軍の得意戦法である。ボール球でも皆で「ストライク!おらイク!はいった!いったァ!ったあ!よっしゃあ!っしゃあー!腹減ったあ」などと口々に喚いていると、打者も釣られて振ったりするし、際疾いフォウスプレイも皆で気合いを入れて「アウトッ!」と叫ぶと審判も釣られてアウトと言うのである。しめしめ。先刻のはセーフだったよ、審判君。こうして我々は敵の攻撃を四点止まりで抑え、逃げ切るのであった。

    口撃は最大の防御なり。

    そういう訳だから野津投手よ、くよくよするな。君の健闘を讃えて親愛なるエールを贈ろう。君に落ちは無い。

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    142話までは「パブロフの屁」(ぱりぱり噛めん:Parikame) のテキスト復刻版です。見出し形式「第○○話」がテキスト本編、「no.○○」が対応するダイジェスト図解版です。ご贔屓いただけると新作公開の励みになりますのでよろしくお願いいたします。え?頑張らなくていい……ですか

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