
第170話「哀愁の喫茶ブランカ」
私は喫茶ブランカのマスター谷源次郎。洋が日本を去ってからはこの店も閑古鳥が鳴く始末さ。バイトもいなくなっちまったし、そろそろ店を畳んでしまおうと思っている。
いろんなことがあったな。え、店の名前の由来を知りたいだって?
じゃあ、とっておきの大サービスだ。最後にぱーっと行くとしますか。
カランカラン(ドアが開き女が入って来る)
「悪いねえ。今日はもう閉店なん…。君は…」
顔を見て驚く源次郎。彼の胸に遠い過去の郷愁が飛来する。
懐かしい顔だった。丸でタイムスリップしたかのような瓜二つの面影。
抱きしめるといつも洗った髪の香りがした。あの青春の頃を思い出す。
まるで若すぎた季節の香りと、結ばれると信じてたあの記憶を。
BGM:相抱之時 毎時君者 髪洗之香自来
BGM:若気過甚 時節之薫 徒信結縁
彼女の名前は佐久間澄子。大学の映画研究会で知り合った。
セピア色した映画が好きで、二人の定番は名画座の古い洋画だった。
やさしくて哀しい愛があるからと、澄子はいつも呟いた。
スクリン見つめて濡れたその頬を、僕の肩に押し当てていたよなあ。
ああ。あの感触をまだ覚えているさ。
BGM:好観褐影之画 柔哀之情 在焉以其愛意深也
BGM:凝視影幕 濡頬寄吾肩 昔日如在
「澄子…」
「え?」
「ああ、ごめんなさい。注文何になさいますか」
慌てて平静を装う源次郎。だが心は此処にあらず。
風吹く胸が探している。あの溜息、あのぬくもり。
願わくば戻りたい。だがもう二度とあんなに誰かを愛することはあるまい。
BGM:風触吾胸思索 君嘆息之温
BGM:願君復来 吾不再得此情矣 如彼深情 復不能与人矣
「もしもし。大丈夫ですか?」
「あ、はい。お決まりですか?これ、よかったらどうぞ。サービスです」
いつだったか研究会の仲間から消息を聞いた。
大人の恋をして、新しい名前になったと聞いたよ。
でも僕の心のスクリーンの中で、君がはしゃぐ、君が泣いている。
二人合わせたコインでも夢が買えたあの頃、いつかヨーロッパへ行こうと約束した。カサブランカを見た夜だった。
BGM:成人之恋 聞君已成 又聞改名為新号
BGM:然在吾心之奥 影幕其中 君或嬉或泣之像猶存
BGM:以両人微銭 亦能購夢 其時今難再矣
願わくば戻りたい。そうさ僕達は…、一つの季節の主役さ…
「ありがとう。とても美味しかったわ」
「どうも。またお越しください」
源次郎はカウンターを拭きながら、もう二度と、と小さく呟いた。
あんなに誰かを愛せない。
BGM:願君復来 吾等 於一季 曾為其主
BGM:風触吾胸思索 君嘆息之温
BGM:願君復来 吾不再得此情矣 如彼深情 復不能与人矣
その旅行のために貯めた金で始めたのが喫茶ブランカって訳さ。
いやあ、湿っぽい話ですまない。
最後に替え歌で盛大にぱあーっと行きますか。ぱあーっと。
和訳:抱締女留止 常時毛君者 洗了髪之香是下
厨師:牡蠣〆ると いつも黄身は 洗った蟹の香味がした
忍者:脇締めると いつも肝は 笑った神の甲羅返した
和訳:丸出若杉太 季節之香左 結暴露留止信二天太
厨師:まるで高すぎた 施設の代わりさ 貪れると信じてた
忍者:まるでバカすぎた 稚拙の降臨さ 嘘バレると信じてた
和訳:世美亜色下映画是好 優市区天哀思惟 愛是在殻
厨師:セピア色したミョウガが好き 優しくて辛子 和えがあるから
忍者:スピア擁したエイガガスキー 矢刺して鎌しい 哀があるから
和訳:掬臨見詰天 濡礼太其頬乎 僕之肩仁押当天天板祢
厨師:スクリュー見つめて 蒸れたそのホウボウを 奥の釜に押し込んでいたね
忍者:スクリュー見つめて 濡れたその鉾を 僕の鼻に押し当ててきたね
和訳:風吹胸是探仕照 君之溜息温盛 (#)
厨師:釜拭く無念が探してる 黄身のタレ液ぬくもり
忍者:風邪ひく群れが探してる 紀伊のため生き抜く森
和訳:御願申上 来戻迄自分 孟二度止 (#)
厨師:鰤伊豆 釜積み もう二度と
忍者:ブリーズ 鎌摘み もう二度と
和訳:杏奈仁誰顔 愛世奈以 (#)
厨師:あんなにタレ缶を 返せない
忍者:按摩乱れ香を 躱せない
和訳:大人之恋乎 下止聞板 新之以名前仁奈太止聞板与
厨師:大人の鯉を 舌と利いた 新しい屋号担ったと聞いたよ
忍者:元名の号を 下と消えた 新しい影名担ったと聞いたよ
和訳:出毛僕乃心乃 酢栗無之中 君是覇者愚君是泣以天煎
厨師:でも奥のトコロテン 掬えん最中 謹賀和しゃぶ 黄身が巻いて炒る
忍者:デモン奥の心の 巣食う臨の魔訶 君が破邪具 君が蒔いている
和訳:二人合世太古印電網 夢是買衣種 安乃頃
厨師:蓋に合わせた濃いレモン 梅が噛めたね あの衣
忍者:札に合わせた方位でも 有名画家居たね あの甲賀
和訳:御願申上伊豆守 来戻迄自分 僕達者
厨師:フリーズ 乾パン喰い 僕たちは
忍者:プリーツ カバー組み 木太刀は
和訳:一角季節乃主役左
厨師:一つの施設の主役さ
忍者:秘匿の使節の主役さ
(#) 繰り返し