第32話 「リンクフリー」
リンクフリーの解釈には二つの説があって、suger-free(砂糖無添加の)や duty-free(免税の)の様な形容詞句として「リンク無しの」と解する「排斥派」と、fall free(自由に落下する)や feel free(自由に感じる)の如く副詞と解して「自由にリンクする」と説く「自由派」がある。両派とも尤もな言い分であるので、紛れないよう適切に遣い分ける事が肝要となる。問題は、これら用法の違いを十分に考慮しないで安易に使っている為に、本人の意図せんとする処と反対になってしまっている事なのである。自民党の会議で一人だけどうも言う事が変だと思ったら何と部屋を間違えた共産党員だったみたいな。最初に気付けよ両党とも。
どっちの意味にせよ私は強い異和感を覚えていることを最初に断っておく。大体、link free なんて表現は日本人の頁でしか見掛けないし、私なら feel free to link the contents here と書く。でも書かないけど。一応 link-free と書けなくもないが、This page is link-free. は英語として変な表現だし、link-free site(リンクの無いサイト)というのも理屈上は不可能である。ウェブに上げた瞬間に好むと好まざると不特定多数の閲覧に供しており、それはブックマークを含めアドレスの記憶を許容つまりは自由なリンク許容を意味するのであって、リンクフリーと標傍するのは譬えるなら馬から落ちて落馬するみたいな過剰な響きがあり、和製英語と断じて終りたい。否、終ってどうする。
さて、両派には「抑圧や拘束から遁れて自由になる」という意味と、鼻から自由じゃなくて「端から自由で気軽な」という感覚の違いがあるのを認識せねばならない。形容詞か副詞かという違いは些細な問題である。排斥派の場合、何から遁れるのか明示の必要があるときに、free from 〜 とか free of 〜 とか前置詞を用いて補足する妙技を見せる。用例を挙げれば sail/run free は元来 sail free from the adverse wind なのであり、fall free は元来 fall free from the force of gravity なのであり、形容詞とされる sugar-free でも This product is free of sugar. が短縮されて Sugar-free productとなったに過ぎないのである。
自由派の free には、テレビの宣伝文句として良くある「今直ぐお電話を」の Call free now だとか、「さあマイク、今日から家族同然にしていいんだよ。あんな事でもこんな事でも何でも遠慮なく言ってくれ。え、忍者と芸者ガールになって見せてくれだって。そ、それはちょっと勘弁してくれないか」という時の Feel free がある。どっちも命令形だが、それは馴々しさ故の表現なのである。そう、link free はちょっと馴々しいのである。「ちょっとそこのお兄さん、リンクしてよ〜」てな感じで。
少し排斥派の補足しておくと、sugar-free や duty-free という表記は形容句であって、後続名詞が明らかな為に省略された形である点に注意されたい。余談だが修飾的形容詞句は単語を繋いで造る事が可能で、free-will action「自由意思の行動」とか a well-known singer「有名な歌手」とかが有名だし、少し長い物だとマーティン・ルーサー・キング牧師の演説 I-have-a-dream speach だとか、I-have-wasted-my-time-reading-what-a-useless-lengthy-stupid-jerk-essay regret「長くてつまらない馬鹿で阿呆な雑文を読んで時間を潰してしまった様な悔恨の念」とかが良く知られた例である。良く知られてないって。
やっと前置きが終わった。
それで、自由にリンクして下さいと言いたいのならばきちんと言う必要がある。そこで品詞を明らかにせねばならない。フリーを「自由に」という副詞とするならば、副詞の役目からして「リンクフリー」のリンクは動詞でなければならず、従って日本語としては「リンクする」とせねばならない。そうして初めて副詞「フリー」は動詞を修飾する権利を得るのであって、フリーフリーと言えば何でも通じると思ったら大間違いである。海老フリー、牡蛎フリー、と言ってみても、おみぇなにいっとるだがに、と言われるのが落ちである。よって英語の意味を正しく反映しつつ日本語としても正しく通用する表現は「リンクフリーする」なのである。
正当性を検証してみる。副詞とは取り除いても文意を大きく変更する事のない詞である。例えば Come over here(こっちへいらっしゃい)に於ける over がそれに相当し、これを取り除いたところで「こっちへ来い」という意味に変わりはない。同様に「リンクフリーして下さい」から「フリー」を取り除いてみると「リンクして下さい」という単純表現に帰着するうえ、リンクして欲しいという願望を損なわずに完璧に保持している。おお。凄いぞ副詞。
折角正しい用法をマスターしても綴りを間違えては台無しであるから、最後に電網を徘徊していて頻繁に見かける愉快な誤記を列記して筆を置く。
rink free … スケートリンクの入場無料券か。
links free … ゴルフ場の無料券か。
mink-free … 当製品はミンク不使用でございます。
ink-free … 本サイトはインク無しで印刷出来ます。
ring free … リング無料券。貰ってもリングには上りたくない。
lint-free … 毛玉、糸屑、がんがん脱れます。
blink-free … 瞬きさせません。でも既にドライアイだし。
wrinkle-free … 皺がとれます。化粧品の宣伝か。
winkle free … 抉(えぐ)り出して下さい。ドモホルン・ウィンクルだったら恐い。
wink-free … ウィンク無し。既に消滅しているか。
wring free … 自由に絞って下さい。何を。
wing-free … 無党派か。それって、排斥派でも自由派でもないという意味か。
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