第93話 「石灯籠」
「なんかこのサイト、読みにくくないですか」
「え、なんでやねん」
「だって、旧字使ってたり読めない漢字使ってるですね」
「なにを言うかと思えば、そないなことかい。ジョージはん」
「そないなことって、じゃあ、せいじ君はこの『蜥蜴』という漢字が読めますですか」
「それはトカゲやろ。旧字と全然ちゃうやん」
「ええ?トカゲって『石竜子』と書くんでしょ」
「せきりゅうし、って。あんたもえらいこと知ってまんなあ」
「カメレオンはもともと希臘語で、groundlion を意味するから、直訳すれば簡単アルね」
「あんた中国人かい。せやけどなんでもかんでも青空球児みたいに旧字旧字ゆうたらあかんでっせ」
「え、どうしてですか」
「わてもようわからんけどな、ジョージはんの言う読みやすい字ゆうのは、1949年(昭和24年)に内閣が『当用漢字』いうて定めた新字体で、はやい話が役人が勝手に定めた字らしいでっせ。さし当たって用いる程度のもんに、旧いゆうて差別されるんも納得いきまへんわ」
「なんか小賢しげなことゆうてまんな。けど古いから旧字なんでしょ。せいじはん」
「お、今度は関西人でっか。せやけど古い字ゆうたら古字ゆうのがありましてな、旧字とはまた違う字体があるんです」
「へえ、シンジ君とコージ君ですね」
「あ、うまいこと言いはりますな。でも青空好児と一緒にしたらあかんでっせ。古字ゆうのは例えばでんな、銕とか、弌とか、弍とか、弋(いぐるみ)の下に三とかゆうのがあります」
「え、ぬいぐるみの下に三萬円ですか。どれどれ」
「ちゃいまんがな。どないしたらそないに聞こえるんや。これが昔から正統と認められてきた字体だと、鐵、壹、貳、參になりまんね。せやけど他にも古い字は鐡やら弐やら貮やらあって、もうなにがなんやらさっぱりですわ」
「昔っていつからですか」
「知りまへんがな。由緒正しい伝統的な字体ゆうことですわ。お隣の韓国ではきちーんと伝統守ってはりますわ。せやけど最近は開放政策とやらで、日本から当用漢字が輸入されて風紀も乱れてまんがな」
「ほんとですか」
「いやほんと。昔から漢字の乱れは風紀の乱れと言いまっしゃろ」
「確かに幹事が酒乱だと、風紀が乱れますよね」
「そうでんな。幹事はぴしーっとしたもんに任せんとあかん」
「それで登用幹事っていうんですか」
「そうそう。ってちゃいまんがな。せやけど丸で宴の余興で、幹事が適当に決めたとしか思えへんのが当用漢字なんですわ。例えばええでっか、爭は争に、靜は静に、淨は浄に。ほならなんで諍は諍のまんまなんでっか。統一せんかい」
「争なんですか」
「爭なんです。そうでなくてそうなんです。全く仮名で書いたらややこしいがな」
「争ですね」
「もおええがな。せやけどジョージはん、それだけやおまへんで。險は険に、劍は剣に、儉は倹に、檢は検に、驗は験でっしゃろ。せやけど瞼は瞼のまんまや。而も目蓋ゆうてそっちの方がよっぽど書きにくい字い遣わせよる。書き易うするんやないのかい」
「あ、目蓋は私にも解りますよ。アイマスクですね」
「そうそう。って、ちゃいまんがな。まだありまっせ。碎は砕に、粹は粋に、醉は酔に。卒の部分を卆と略しとるくせに、卆だけは俗字やゆうてのけモンにしよる。一体どういうことやねん」
「あ、のけモンって、新しいポケモンの仲間ですよね。アメリカでもはやってますよお」
「ノキモーン。来週は誰がのけモンになるかなあー。じゃ、おったのしみ! ってなにやらせるねん」
「でも、流石にもうないっしょ。せいじ君」
「そんなことありまへんがな。ぎょうさんありまっせ」
「え、まだあるんですか」
「当たり前田のクラッカーやがな。ええでっか、輕は軽、徑は径、經は経。ほななんで、ひきつるの痙、すねの脛、こみちの逕、くびの頸はそのままなんでっか」
「ふむふむ」
「佛は仏、拂は払。ほな、なんで沸騰の沸や彿や怫や弗は、ぜえんぶムぅにせえへんの」
「むう」
「なんで聲だけ声になって、謦、磬、馨も声にせえへんの?」
「ちょっと待たれい。無茶苦茶言ってますね」
「待たれいって。あんたも古風な言葉知っとりまんな。ま、せやけど当用漢字の狙いゆーたら、榮と栄とか、繼と継とか見てもろたらわかるやろけど、画数減らして書き易うにするゆーのが狙いでんな」
「そうですね」
「ほな、ええでっか。峯が峰、みねが峰ゆう峰やおまへんでえ。讎が讐に、畧が略に、默が黙に。配置が変わっただけで画数一緒や。こりゃまた一体どういうことやねん。酔っぱらった幹事がサイコロ振って適当に決めたんとちゃいまっか」
「クリビツ天仰ときたもんだ」
「あんさんもさっきからけったいな言葉知ってはりますなあ」
「香港で流行ってるんですよ」
「さよか。ま、獵と猟とか、鹽と塩とか、割と納得いくのもあるんですが、中には…」
「中庭とちゃいまっせえ」
「うまい。中には一体どないしたら、そないなるんかゆうのもあります。
皆さん」
「それはいかに」
「舊が旧に、壓が圧に、藝が芸に、廳が庁でっせ。全く酷いときたもんだ」「丸で地震のあとの石灯籠のようですね」
「そりゃまたなんで。ジョージはん」
「よくぞそこまで崩れたもんだ」
「おあとがよろしいようで」
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