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第94話 「鼓腹撃笑」

    偶然にも面白いショーを観てしまった。仕事中にネットをするのは良いのか悪いのか。良いも悪いも漁師はネットがなけりゃあ話にならんだとか、デンマークのスーパー NETTO の従業員はネットがなくなると困るだとか、韓国語ではインタネッだとか細かいことを抜きにすれば、基本的には個人事業主がいつ自分の職場でネットをしようと構わないわけである。会社の収益を上げるために、従業員には沢山働いて貰わねばならないからネットはしてはいけないということになっているが、モラルなどというのは人の都合で勝手に決められる場合が殆んどであり、この命題は都合の良否の問題に過ぎないという好例である。

    献金の場合も然りである。見返りを求めたり圧力をかけたりしないということを前提にすれば、個人から集めればきれいな金で、企業から集めれば汚い金ということは全然ない訳で、献金を巡る疑惑などというのも本来は党利党略の鬩ぎ合い、都合の問題に過ぎない。然し、そうは言っても大金を目にすると、人の心はあらぬ方を向いてしまうものであり、皆やっているという状況では競走を勝ち抜くために手を染めざるを得ないのかも知れないし、そこには諍うことの出来ぬ事情があるのやも知れぬ。

    どういう風に献金が行なわれるのか見たことがないのでちょっと判らないが、料亭からの帰り際に襖障子を開けるとお盆に載せられた金子がススーっと出てきたりとか、ちょっと溷へと議員が席を外した隙に鞄の中に金子を忍ばせるのかも知れないし、そうかと思うと鞄に鍵が掛かっていてどうにか金子を中に捻じ込もうとしていると丁度溷から戻ってきた議員が

    「おまえ、何してるんだ」
    「いえ、ちょいと宴会芸の練習なんぞを」
    「おおそうかそうか。芸の練習には鍵がいるであろう。
    して、どんな芸を見せてくれるのかのう。カチャ。」
    「はい。あーら不思議、金子が勝手に鞄の中に消えてゆくう…。
    こーおいう芸にございます」
    「摩訶不思議よのう」
    「左樣で」

    などという事が行なわれているのかも知れないし、玄関で靴を履こうとすると金子が靴の中に入っていたりして、「あっ、こんな処でなにしてるんだ金子ぉ」と、態とらしい台詞をニヤニヤしながら言わねばならないのかも知れない。

    然し、世の中にはもっと面白いことがあるもので、私は偶偶つけたテレビの衆院予算委員会の中継でそれに遭遇する事ができた。正月休み最後の日だったので日付は二月十三日だったと記憶しており、こういうものは滅多に見る機会がないのでついつい見入ってしまった。今や週刊誌で叩かれ放題の鈴木某議員に関する野党の集中放火である。放火って。この日の役者はなんといっても佐々木憲昭議員であったと思う。

    佐々木議員は、未だ発注予算もおりてないのに入札だけは先に行なわれていて、それがたったの二社で而も落札先は後援会幹部の会社の「ムネオ造船」いや根室造船だったり、政府の援助で北方領土につくられた施設「友好の家」が現地では「ムネオハウス」と呼ばれていたり、その食堂にはムネオ議員の写真が飾られ、玄関には「ムネオさん、あなたは私達の友達です」と横断幕が掲げてあったり、更には政府が贈った四輪駆動車が「ムネオ号」と呼ばれているなどと、証拠写真を見せながら次々と笑撃の事実を明るみにしていったのである。とりわけ「ムネオハウス」なる言葉が発せられた瞬間は、会場は爆笑の渦に巻き込まれ、佐々木議員の巧妙な語り口に、私は丸で漫才でも見ているかの樣な錯覚に陥ったのである。まさか「聚斂の臣あらんより寧ろ盗臣あれ」という言葉を正直に遂行している訳でもなかろうが、「笑いごとじゃない」と弥次も飛び出す始末である。恐るべし、ムネオハウス。

    色丹島の誰も利用しない「ムネオ診療所」とか、足寄町へと延びる予定の誰も走らない高速道路が「ムネオ道路」と呼ばれているとかは以前週刊誌で読んだ事があるので、某議員の名前が冠せられる事に多少の免疫はあったものの、流石に「ムネオハウス」と「ムネオ号」にはちょっと参ったのである。新聞報道によれば「本人はネーミングには関与していない」とのことだが、そりゃそうだろうと思う反面、某議員のサイトを調べてみれば案の定というかホスト名までもがムネオだし、ムネオではないにしても「スズキホール」なるものの設立に尽力した旨も記事にされている。私財を投じてケニアの小学校に「スズキホール」を建設し、現地で熱狂的な歓迎を受け、「そこには七万ドルの寄付では買えないプライスレスな笑顔があった」とあるが、どうもこういう状況では某議員に分が悪いようで俗語としての「プライスレス」の意味の方がぴったりくる樣な気もして哀れを誘うのである。渦中の人とあってか、現在ムネオサイトは非常に重たい。

    佐々木議員の後は、緊張して声が上擦った樣な口調のおばちゃん議員が登場し、そんなことでいいのかとも思ったが、その後、他党の議員が鈴木某議員と秘書の会話を纏めた政府報告書をうまく読み上げてくれたので場が繋がった。

    「いろいろあったな。
    そうですね。てんてんてん。
    これで終ってるんですよ。なんですかこれ。
    これじゃ丸で悪徳代官と悪徳商人の会話じゃないですか。
    この後の会話。想像できますよ。
    『これにて一軒落着よのう』って」

    流石にムネオハウスのインパクトには敵わなかったものの、ここでも大きな笑いが起こり、非常に愉快で全く退屈しないショーを観ることができた。猶、「てんてんてん」は三点リーダ又は中黒三つを読み上げたものと思われる。

    この議員を佐々木議員より先に持ってくればもっと面白かったのに、という感想を抱いたのは果たして私だけだろうか。興味は尽きない。

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    142話までは「パブロフの屁」(ぱりぱり噛めん:Parikame) のテキスト復刻版です。見出し形式「第○○話」がテキスト本編、「no.○○」が対応するダイジェスト図解版です。ご贔屓いただけると新作公開の励みになりますのでよろしくお願いいたします。え?頑張らなくていい……ですか

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