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第87話 「エクスカリバー」

    ふと見ると其処には、苔生す岩に突き刺さった一本の剣があった。何だろう。こんなご時勢に。よく見ると奇妙な文字が刻まれている。アーサー少年が岩に刺さった剣を引き抜いて王位継承の証を得た、という話は読んだことがあるが、まさか。半信半疑で手を伸ばして触ってみる。むう。どうも玩具ではないらしい。意を決して抜いてみる。まさかスッと抜けちゃったりなんかしないよね。なーんちゃって。って、ぬぬ抜けるではないか。おいおいマジかよ。まさか妖精が現れたりなんか…、と思いながら辺りを見回していると、後ろから肩を叩く者がいる。

    「私の名はルーサー。私の仕事は聖剣エクスカリバーの使い方を授けること」
     な、なんだよ。このおっさん。
    「君の望みは何だね」
     取り敢えずキングになりたい。そう思った。
    「どんなキングが望みだ。キングにも色々ある。キング・アーサーの様になりたいのか、キング牧師の様な偉人か、アイアンキングか、バーガーキングか、ハイキングか、クッキングか、テレホンショッキングか、それともストリーキングか。ようく考えよ」
     バーガーキングなんかじゃ駄目だ。強くなって、腐った組織の連中を一掃したいんだ。そう思った。
    「では、強くなるための条件は何だと思う」
    「嘘をつかない。優しい心を持つこと。弱い者を苛めないこと」
    「うむ。なかなか良い子だ。だが、それだけでは駄目だ。厭な事があっても我慢して耐えること。口に出さない。そうすれば屹度、強い戦士になれるぞう」
     そう言うとルーサーは宙に消えた。不思議に思っていると更に、宙空から声が響き亘った。
    「良くない事に使うと、エクスカリバーは無くなってしまうので注意しなさい。人に見せても駄目だ。誰にも見られない様に隠しておくこと。いいね」

    隠すったって、この往来の中を誰にも見られない様にするなんて無理だよ。取り敢えず衣服を脱いでエクスカリバーを包み、走って家に持ち帰る事にした。あーん、これじゃ、ストリーキングじゃん。僕は騙されたのだろうか。噫。

    或る時、人気のない閑散とした通りで暴漢に襲われた。取抑えられて身動きが出来ない。僕は目を閉じて助けを求めた。勿論、通行人などにではない。エクスカリバーにだ。すると信じられぬ事に物凄いパワーが漲り、ナイフを振り回す暴漢を一撃で下したのだった。すげーよ。

    また或る時、人気のない閑散とした通りで暴漢に襲われた。取抑えられて身動きが出来ない。僕は目を閉じて助けを求めた。勿論、通行人などにではない。エクスカリバーにだ。すると信じられぬ事に物凄いパワーが漲り、翻筋斗打った暴漢が一撃で下していた。くせーよ。

    だが、敵はもう一人いた。そいつは拳銃を持っている。僕は心の中で叫んだ。エクスカリバー。
    「私が助ける事が出来るのは一日一回限り。残念だが今日はここまでだ。後は自力で闘い給え。じゃ」
     そ、そんな。きいてねーよ。と、言おうと思ったが其んな暇はない。相手は拳銃を持っているのだ。でも相手もちょっとびっくりしたみたいで、なんとか素早く身を躱して迯れる事ができた。ああ怖かった。

    またまた或る時、人気のない閑散とした通りで暴漢に襲われた。取抑えられて身動きが出来ない。僕は目を閉じて助けを求めた。勿論、通行人などにではない。エクスカリバーにだ。すると信じられぬ事に物凄いパワーが漲り、刀を振り回す暴漢を一撃で下すのだった。と、いく筈だったが反応がない。どうしたんだ、エクスカリバー。
    「申し訳ないが、三回目からは一回伍阡円をもらう」
     そ、そんな。きいてねーよ。と、言おうと思ったが、相手は将に刀を振り降ろさんとしている。渋々承知して事無きを得ることが出来た。

    そんな或る時、愛しのエリカちゃんから声がかかった。今夜は元気がないのね。残念だわ。厖然たる姿体を眼前にしながら屹立しないとはなんたる事か。僕は夢中で叫んだ。エクスカリバー。そして三分後、悦びにうち震えるエリカちゃんの姿があった。
    「これで伍阡円は安い」
    「酷い。私の事そんなふうに思ってたの」
    「あっ、いや、違うってば」
    「最低。さよなら」
    「ああ、まってよ」
     その時、ルーサーが現れた。
    「どうやら誤った使い方をした様じゃの」
    「いっ、誤解だってば」
    「馬鹿者。己の欲望を満たさんが為にフォースを使ったであろうが」
    「はっ。しまった」
     フォースじゃねえよと突っ込むのも忘れて、夢中で急いで家に戻ってエクスカリバーを探したけれど、エクスカリバーはもう何処にもなかった。やっぱり突っ込んでおけば良かった。

    そして数日後、事件が起こった。愛しのエリカちゃんの家に強盗が楯籠ったのだ。なんとか助け出さなければいけない。でも相手は銃を持っている。そこで納屋に誘き出して農機具やら縄やら網やら家畜の餌やらを利用してホームアローンばりの仕掛で捕獲する事にした。こっちが子供だから油断したのだろう。うまくいった。警察に電話して、それからエリカちゃんを救出した。でもエリカちゃんは別な男と一緒だった。

    どうしたらいいんだ、ルーサー。何処に行ってしまったんだ、ルーサー。もうエクスカリバーは戻ってこないのか。茫然と彳んでいると、久しぶりにルーサーが現れた。
    「エクスカリバーは実体など存在しないのだ。エクスカリバーは立ち上がる勇気。君の心の中に永遠に存在するのだ。君はもう立派な戦士だ」
     そういいながら、僕の胸を指さした。そうだったのか。ありがとう、ルーサー。

    或る時、人気のない閑散とした通りで暴漢に襲われた。この前と同じ奴だ。まだ懲りてないらしい。僕は目を閉じて精神を集中した。心の中にあるエクスカリバーを念じる為に。するともの凄いパワーが漲り、ナイフを振り回す暴漢を一撃で下したのだったすげーよブラボー。と、いく筈が、完膚無きまでに叩きのめされ、じいちゃんから預った財布を奪われてしまった。

    ルーサーの嘘つき。

    遠のいてゆく意識の中でモックンはそう思うのであった。

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    142話までは「パブロフの屁」(ぱりぱり噛めん:Parikame) のテキスト復刻版です。見出し形式「第○○話」がテキスト本編、「no.○○」が対応するダイジェスト図解版です。ご贔屓いただけると新作公開の励みになりますのでよろしくお願いいたします。え?頑張らなくていい……ですか

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