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第75話 「コマネチ」

    文字の形態模写というのがある。直立で両手を横に広げて「じゅうっ」と叫んだり、畳に寝そべって「大」と呟いてみたりとかがその典型であるが、ビレッヂ・ピーポウのYMCAとかもその類であり、最近では「命」とか「炎」をやる芸人もいるみたいである。要するに一発芸である。量子力学に馴染みのある人の間では、直立で両手を上方に開いてΨ「プサイ」だとか、今度は腰に手を当ててΦ「ファイ」だとか、両手を斜めに広げて片脚上げてℏ「エイチバー」だとかいうのもある。本来はデンマーク語のØに見られる樣にスラッシュ記号であるのに「バー」と呼ぶのも妙である。因みにΨをフェルミの波動函数、Φをボーズの波動函数という。念の為に言っておくが、坊主の禿げ函数ではない。これらは凝縮現象を論じる際には絶対に欠かせない概念である。

    こういう一発芸は掛け声による説明があって初めて「ああ、似てる。似てる」などと思うのであって、単体では「命」だか「傘」だか「令」なのか分からないし、「炎」だか「出」だか「尖」なのかさっぱり判らないのである。そういった漠然で曖昧な形態に突拍子もない掛け声が付くところが、滑稽たらしめる大きな要因なのであり、これが「十」や「大」だと判り易くていけない。だが、中にはとんでもないものもある。

    コマネチがそれである。「二足歩行のためのパーツと消化器官を収納するメインボデーとを分割し且つ斜めに鋭角で交叉する境界線」を表現する一発芸である。形態模写の観点からすると、単に境界線な訳で模写もなにもそのまんまなことろが恐ろしい。これが掛け声なしに行なわれると、何の事やら全く意に介せないのはおろか、掛け声が「二足歩行のためのパーツと消化器官を収納するメインボデーとを分割し且つ斜めに鋭角で交叉する境界線!」だと長過ぎて舌を嚼んでいけないし、それ以前に憶えるのに苦労しそうである。かと言って単に「境界線!」だったら、間違いなく観客席からバケツやら、薬鑵やら、入れ歯やら、石を入れた臭い靴下やらが飛んで来た事だろうと思う。

    この芸は、体操女子で世を風靡した選手の名と二足歩行のための以下省略を組み合わせたミスマッチの妙である反面、下手をすると名誉毀損で訴えられ兼ねない危険な芸であると言える。国際社会に於いては、斯樣な仕草はセクハラとも取られるので、慎重に行ないたいものである。そこで、その樣な危険を未然に回避するべく「コマネチ」の代わりに新しい掛け声を提唱したい。

    矢張り突飛な言葉を選ぶのが好ましい。例えば、私の持ち芸の「ポックンバ」を考えてみると良い。ポックンバは韓国語で焼飯を意味する。どんな芸かというと、コマネチをやる樣な感じで腰をちょっとだけ落して構え、「ポックンバぁ〜」と発声しながら両手を合わせて浣腸ポーズを取るのである。情けないといったらありゃしない。酒という免罪符があってこそ韓国人に受けるというもので、素面ではちょっと出来ない技である。恥しいというのもあるが、それにもまして韓国を馬鹿にしてるのかと受け取られる事の方が余っ程怖いのである。

    ところでコマネチやらポックンバの共通点は「何だかちょっと聞いただけでは珍紛漢紛な響きのする外国語」だという事であり、どうやら外国語を盛り込むのが良さそうだという事に気がつく。然し、名誉毀損で訴えられない樣に、日本語として定着している言葉を選んだ方が無難と言える。それでは、皆さんもコマネチのポーズをとりながら、元気良く一緒に発声して頂きたい。諄い樣だがコマネチポーズを忘れずに。

    「モーニング娘ぇ〜」

     ファンから怒られそうである。断っておくが、句点がついてないのだから実在の団体とは一切関係ないので、私に突っ掛からないで貰いたい。ポーズを忘れずに。

    「モぉーニング・コールぅ〜」

     なんだか霊媒師が死霊の口寄せをしている樣を思わせる。それだと寧ろ浣腸ポーズの方が似合いであるけれど。両手を二回激しく上下させる事。

    「モーミンク・コート」

     遺伝子操作で牛をミンクに改良して製造したコート。そんな物は未だないが、将来開発されるかも知れない。コートを着たままだとやり悪いかも知れない。

    「モーニング・曙」
     なんか意味が似ててつまらないし、なんだか気持ちが悪い。ならば、

    「モーニング・小錦」
     … ご想像に御任せする。それより、もっと落差のある言葉。そうだ、

    「モーニング・コマネチ」
     いや、だからコマネチは駄目だってば。でもポーズは忘れずに。

    「モーニング・パパイヤ〜」

     フレッシュサタデー、モーニング・パパイヤ。お決まりの「パパいやーん」もここまで堂々とやれば恥じらいは捨てられるかも知れない。勿論、ポーズつきで。え、そっちの方が恥しいだって?

    「欧陽菲菲」

     いや、違った。モーニン珈琲。非しか合ってないけど、飲食関係で攻めるのは案外いいかも知れない。

    「もーみんじ饅頭ぅ〜」 それは別な芸だってば。

    「モーニング・焼きそばぁ〜」
     朝っぱらから焼きそばは、ちょっときつい。ヤキソバン専用かも知れない。

    「モーニング・しゃぶしゃぶ〜」

     旦那、どうですか?って怪しいじゃん。それとも本当に朝からしゃぶしゃぶだったらきつい。ポンズを忘れずに。

    「ボーイング娘ぇ〜」

     そういえば昔、貰った賄賂で高級バアで暴飲した挙げ句、ホステスを九度射たとかいう事件があった。パースを忘れずに。

    「猛妊具娘ぇ」

    …やっぱり名誉毀損かも知れない。ポーズ凝縮。

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    142話までは「パブロフの屁」(ぱりぱり噛めん:Parikame) のテキスト復刻版です。見出し形式「第○○話」がテキスト本編、「no.○○」が対応するダイジェスト図解版です。ご贔屓いただけると新作公開の励みになりますのでよろしくお願いいたします。え?頑張らなくていい……ですか

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