第76話 「会員制」
「あーあ、お腹空いたなあ。栄一達はスペースマウンテンゴリラだか何だか知んないけど、すっかり夢中になってお昼御飯要らないって言うし、来週はデズニーランドに連れてけって言うし。今月の生活費、あと五千円しか残ってないよ。これじゃ満点ゴリラ、いや減点パパ、なんちって。誰も聞いてないって。つまんないから其処の食堂で腹拵えでもすっか。御免下さーい」
「会員証の呈示をお願いします」
「え、なんで?」
「当店は会員制になっておりますので」
「そんなあ。お腹ぺこぺこやし他に食堂は無さそうやしどないしよ」
「ご心配には及びません。パスポートさえあれば今すぐ会員証を発行致します」
「なーんだそっかあ。良かった良かった」
「では、パスポートを拝見致します」
「はいはい。パスポートね。はい、これ」
「… 何ですか、これは?」
「え、パスポートですよ」
「ニコニコ魔人ランド『セニョール・サンチェス村』の入園券じゃないですか」
「そうですよ。ちゃんと入口で購入したんですから」
「困りますねえ。お客さん。ちゃんと日本国発行の旅券を呈示してもらわないと」
「へ?モノホンのパスポートが要るんですか」
「モノホンって、あなた。まあいいですけど。とりあえず仮会員証で良ければ、保険証か運転免許証かボイラー三級又は黒帯の呈示で作れますが…」
「作ります。じゃあ、ボイラー三級で」
「本当にいいんですか?」
「え、何か?」
「一週間後に正会員証を取りに来て頂く事になりますけど、それまでに免状はお預りしておきます」
「ま、飯が食えるんならいっか。どうせ家は近くやし」
「残念ながら仮会員証では、御食事は出来ませんけど」
「えええ」
「ご安心下さい。代わりにこの『社員優待割引券しかも特別サービス附』を御利用下さい。全品半額にて御奉仕させて頂きます」
「こりゃ、おおきに」
「それから会員規約に同意して頂かねばなりませんのでサインをお願いします」
「はいはい。『会員キヤクに同意する』っと」
「では、これがお客様の控えとなります。係の者が席へ案内しますので少々お待ち下さい」
「ふう。やっと御飯にありつけるよ」
「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞー。メニューはこちらで御座います」
「なになに『ラーメンセット: 1万円。焼肉食べ放題: 1時間 3万円。ノーパンしゃぶしゃぶ: 5万円。以上』って、三つしかないやん。優待券使ってもラーメンセットが5千円じゃ… んんん、あっちの客はカレー食ってるよ。おいおい」
「あちらは他店のテーブルでして、当店はこのテーブルのみで御座います」
「それって詐欺でないの?」
「まあ世間では、そうとも言いますけど固い事言わずに寛いで下さい。お色気むんむんで御奉仕させて頂きますので」
「仕方ないなあ。じゃあラーメンセット」
「かしこまりました。ではお客様、お好みのスープの味、麺の太さ、御希望の薬味にチェックを入れて会員番号をご記入下さい。会員番号は会員証裏面にございます」
「あのう、仮会員なんですけど」
「あ、仮会員の方ですか。キヤク書の控えをちょっと拝見させて下さい」
「はいどうぞ」
「あ、ラーメンセットは駄目ですね」
「え、何で?」
「お客様は会員ヤキニクに同意されておりますので、焼肉しかオーダー出来ません」
「え、ヤキニクに同意って。ちゃんと『キヤクに同意』ってなってるじゃ… て、こらっ。線で消して書くんでない。びっくりしたなあ、もう」
「会員ギャグですから」
「苦しいギャグはええから、もっと安うならんのかね。高過ぎるで、君」
「あ、やっと本音が出ましたね。でもそんな事言っていいんですかあ。お客様、犬を御連れですね」
「ギクッ」
「飼い犬同伴者は保健衛生法違反につき罰金壱万円を頂戴する事になっておりますぅ」
「そんなん規約に書いてないやん」
「飼い犬規約ですから。新規のお客様という事で特別に見逃して遣ってもいいんですけど」
「ほんなら帰らせてもらおか」
「あ、いえいえ。今のはサービスギャグですので」
「何やそれ。そんなサービスいらんって」
「そうは仰いましても、私もこのギャグに職が懸かっておりますので」
「何でやねん」
「解任規約ですから」
「何やそれは。大体、ラーメンと何がセットになっとんの?」
「讃岐饂飩と信州蕎麦がセットとなっております」
「そんなにぎょうさん食えへんって」
「では蕎麦を外して4500円で如何でしょうか」
「たったの500円引きかい」
「文句が多い客ですね。仕方ないですね。缶インキ薬は如何でしょうか」
「何やねん。それは一体」
「先日、調理人がインク壷を載せたお盆を頭の上でクルクル回して遊んでいたところ、秘伝のドラム缶詰め業務用スープの中に謝って壷を落して仕舞いまして、直ぐに引き上げたのですが色が少々黒ずんで仕舞いました。9割引きになります」
「何やそれは。そんなもん客に出して良心ゆうもんはないんかい」
「だから謝ってから落してるじゃないですか」
「あかんわ。だいたいこの優待券使うても五千円やで。何処にそんな高いラーメンセットがあるんや」
「あ、お客様、その優待券、泣く子も黙る特別サービス附じゃないですか」
「何やねんそれは」
「ちょと拝見させて下さい… お客様、ラッキーですよ。これ、ノーシャブ9割引きですよ」
「何でやねん」
「発券番号が今月のラッキーナンバーに当選しておりますので」
「え、ということは」
「そうです。五千円ポッキリであんな事やこんな事が…」
「じゃあ、それ! それにします」
「では御指名をお願いします」
「じゃ、この韓国美人を」
「ほー、こりゃまた御目が高くていらっしゃる。産地直送ですよ。このぅ。エロじじいっ」
「へへへ。それ程でも。… よっしゃ来た来たっ」
「アンニョンハセヨ。サンチュですぅ。これにお肉くるんで食べるね。じゃ、バイバーイ」
「あ、こら。何で行ってまうねん」
「サンチュ直送ですから。態態、『セニョール・サンチェス村』から取り寄せました」
「何やねん。おまけにこれ、しゃぶしゃぶとちゃうで。只の野菜スープやないか」
「ノーしゃぶ定食ですから」
「詐欺やで」
「姦淫規約に抵触しますから」
「ええ加減にせえ」
「堪忍制ですから」
「もおええわ」
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