第123話 「パンチョ哀悼」
大リーグの野球放送を観ていてよく思うのだが、あの英語解説はいつ聴いても珍紛漢紛である。一つの単語も余さずに聴き取る必要はないのだが、馴染みのない文句が多く、聞き違いから独自の解釈が入って仕舞ったり、聴き取れても意味が解らなかったりで、本当に手に負えない。ルールを知っていれば映像情報は大いに役立って「こういう場面ではこう言う」という按排で理解が進む訳だが、それをラジオの音声だけで遣ってのけた人物がパンチョ伊東である。彼が2002年7月4日に他界してから二年が経過するので、彼の世の退屈凌ぎの一献に、秘蔵のパンチョネタを捧げたいと思う。
「パンチョ伊藤ってもともと何屋さん?」
「パリーグの元審判長だったかな」
「へえ。そうなんだ。でもなんでパンチョなの?」
「昔、迷審判ぶりで平凡パンチョに記事が載ったことがあるらしいが定かではない」
「へえ。じゃ、退場ぉー、の代わりに、ぱんちょぉー、って言ったのかな」
「うむ。乱闘時には果敢に『ぱんちょぉ』とパンチを繰り出したらしい」
「へえ。体格のいい選手を相手にそれはすごいね。流石、審判チョォ」
「ガキの頃は番チョォだったとかで」
「へえ。元番長の審判長とはおっかないね」
「うむ。幼少時に隣家の屋敷で皿を落として割った咎で叱られたらしいが、当時パンチョ少年は潔白だと主張しており、未だに納得してないらしい」
「パンチョォ皿屋敷?」
「うむ。近所でも印象に残る事件だったとか」
「なるほど。強面の印象は伊達に番長だった訳じゃないんだね」
「うむ。パンチョパーマで選手に嘗められないように風貌にも気を遣っているしな」
「パンチョパーマといえば、オリックスのパンチ佐藤は親戚?」
「うむ。パンチョの命名者であるスペンサー選手も、オリックス前身の阪急だ」
「へえ。オリックスって、パンチョファミリーだね。でもあの明るさはラテン系?」
「うむ、パンチョはラテン音楽好きだからね」
「へえ。そうなんだ。トリオ・ロス・パンチョスとか?」
「うむ。パンチョの利いた張りのある声で9代目トップボイスの名乗りを上げたとか」
「へえ。そうなんだ」
「嘘だよ」
「でもあのラテン系の明るさは本物だよね」
「うむ。雨降りでも傘を差さないくらいだからな」
「え、本当なの?」
「うむ。雨が降るとポンチョを愛用」
「成程。流石ラテン系」
「ラテンと言えば地中海。氏はイタリア料理通でもあり、腕前は一般超級。略してパンチョォ級」
「へえ。それはすごいや。どんな料理が得意なの?」
「白身魚のカルパンチョ」
「ワインがよく合う料理だね。好みのワインは赤玉パンチョ?」
「いや、白ワイン。主食のバケットと相性がよく、口癖は『パンちょーだい』」
「好物のデザートはフルーツパンチョとか」
「うむ。でも、一番好きなたべものは、何と言ってもパチパチパンチョ焼きそば」
「いよ。関西人」
「違いまんがな。それではここでパンチョ問題です」
「え?パンチョ問題?」
「一般常識ならぬ一般超識。略してパンチョォ問題。難しいですよお」
「どんと来い」
「では、先ずは小手調べ。いつもパンツ一丁の人は次の三人のうち誰?一番、出前一丁坊や。二番、マッチョ。三番、パンチョ」
「三番サード長嶋。痛」
「惚けんでええがな。答えは?」
「答えは三番パンチョ。パンツ一丁、略してパンチョ」
「よろしい。では、拳骨による打撃を受けた後遺症で脳に障碍を生じた拳闘士は?」
「パンチョドランカー」
「うむ。それでは、台詞を用いず、身振りや表情だけで演ずる劇は?」
「パンチョマイム」
「ではここからが本番。番茶でも入れ点ては美味しい様に、どんな器量の娘でも年頃になれば美しいという諺は?」
「鬼も十八、パンチョも出花。掛かって来なさい。次次」
「うむ。では。駄目な三人の王子を教育すべく書かれた人生の五大戦略話であり、サンスクリット語で五つの章を意味する古代インドの説話集は?」
「パンチョタントラ。きえーい。次い」
「ならば。晩ちょいと、って早口で十回言ってみて」
「晩ちょいと、晩ちょいと、晩チョイと、晩チョイと、番長糸、バンチョイと、バーンチョイと、パンチョイト、パンチョ伊トっ、パンチョ伊藤!」
「仕事帰りにちょいと立ち寄るのは?」
「パンチョォー」
「ぶぶー。居酒屋です」
伊東一雄。享年68。米軍放送の大リーグ中継にかじりつき、独学で英会話を習得。ドラフト会議の始まった昭和43年から同会議の司会進行役を務める。昭和51年、パリーグ初代広報部長に就任。同年、頻繁に渡米し第1次大リーグブームの牽引役となる一方で、ドラフト会議でも阪神1位指名選手(益山性旭投手)の漢字説明「セイはセックスの性」で脚光を浴びる。
お蔭で当時、私の教科書にボールペンで「SEX パンチョ」と落書きする者が後を絶たなかったが、私は鬘ではない。ご冥福を祈る。
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