第122話 「巴里紀行・下」
4月29日(木)。流石は二星ホテル。朝食は二人で 15EUR もする割にパンと珈琲だけである。予約しておいたTGVの切符を受取りにさっさとパリ・モンパルナス(Monparnasse)駅へ。ホテルから徒歩で10分とかからない点が唯一の取り柄である。TGVはレンヌ(Rennes)駅からバスへと乗り継ぎ、13時前にモンサンミシェル(Mont Saint Michel)へ到着。
ホテルからの電子書簡曰く「島から土手沿いに行って一番手前の四星ホテル」であり、案内本曰く「バスは島の手前で止まる」だそうで、二者の主張を合わせると、終点で降りればホテルは眼前の筈である。だが、期待に反してバスは集落からずっと外れた遠方の島、つまり島の本当に手前まで着いて仕舞い、ならば、観光地だからタクシーくらいいるだろうと思いきや、そんなものは何処にも見当たらず、陸側に向かって只管に土手が延びているのみである。がーん。美しい修道院と名物の羊を写真に収めて、羊の糞を避けながら 2キロの土手を歩いてチェックイン。身軽になって再び徒歩で島まで行き、島内を巡って二日目終了。今日もへとへとである。
4月30日(金)。20EURの朝食を堪能した後、チェックアウトして巴里へ移動。流石に島のバス停まで重い荷物を抱えて歩くのはもう懲り懲りなので、フロント嬢にバスの便を尋ねると曰く「ホテルデラギュールの前から15分毎にバスがある」とのこと。念押しに訊き返して確認もしたので間違いないのだが、雨の中15分間待てどもバスの来る気配はない。島からの出発時刻である9時半まで、徒歩で行ける最小限の20分しか残っておらず、最悪の事態を避けるために矢張り徒歩を敢行する。結局、我々の到着から程無くしてバスがやって来た。遅いよ。徒歩だけにとほほと言いたいところだが、全く洒落になっていない。
レンヌ駅に到着し、入鋏機に切符を入れようとすると既に入鋏の跡がある。何故だ。即座に解答を見出した家内曰く、私の手にある二枚の切符は往路復路それぞれの切符であり、愚かにも私は各自一枚だと思って二枚とも入鋏して仕舞っていたのである。がーん。往路の車内検札では二枚共呈示したにも拘らず、車掌は道理で一枚しか興味を示さなかった訳である。物は試しでもう一度入鋏機に切符を入れてみれば、跡がずれて仕舞い奇妙な形になって傷口を広げる始末。結局、車内検札では往復二枚見せ作戦を敢行。これが功を奏して事無きを得て、13時半に巴里へ到着。
14時丁度にルーブル博物館近くの三星ホテルへチェックイン。食事もせずに速攻でヴェルサイユ(Versailles)へ移動し宮殿を観る。優美な庭園内で、今朝失敬して来た茹で卵と果物を立ち食いしてエネルギー補給を図るも、朝のダッシュが祟ってもうへとへとである。小雨の中20時ともなると園内の人影は疎らになり、19世紀中頃まで屎尿を投げ捨てていた所為でもあるまいが心做しか臭いので、ベルサイユ宮を後に巴里は凱旋門へ向かう。21時だというのに未だ明るい。ヘロヘロになりながら門の上に登り綺麗な夜景を眺めればもう23時。シャンゼリゼで食事をして三日目を締め括れば、今日もへろへろ。
5月1日(土)。メイデーによる各所の休館は折込済。今日は教会巡りに充てる。最初に目指すはノートルダム大聖堂。メトロ4号線シテ駅から地上に出て直に見えるは、絢爛な光を放ちながら威風堂々と聳え立つ教会の塔。「これが噂に高きノートルダム大聖堂か」と感慨に浸りつつ記念撮影を終え、中を拝もうと入口に手を掛けると、休館の張り紙が目に飛び込む。がーん。計画は完璧な筈である。焦りを覚えつつ、裏手に回れば案外正規の入口が開いてるかも、と淡い期待を抱いてぐるりと回れば、裁判所の敷地内にあるという礼拝堂サントシャペルであることが判明。危うくノートルダム大聖堂と信じつつそのまま帰るところであった。裏手に回ったお蔭でヌフ橋が絶好の位置に現われ、またまた記念撮影。そして無事ノートルダム大聖堂へと到達するが、午後のシャルトル観光の行方を占うかの様に靴紐が切れる。
午後は、昼食もとらずにモンパルナス駅から約70分を経て、シャルトル(Chartres)へ到着。お勧めの散策コースに沿って歩くことにする。古い木組の家のある通りを抜け、水辺から見上げる大聖堂は流石世界遺産だけあって美しい。古い二つの教会とのトリオも見逃してはならない。美しい景色の虜となって時間も距離も完璧な計画も忘れて仕舞い、最早散策コースに抗うことも出来ず、地図に描かれた線に従うまま延々、我らは陶器で作られた家「ピカシェットの家」を目指した。だが、メイデーであることをすっかり忘れて仕舞った二人の前に立ちはだかるのは、冷たく閉ざされた門。がーん。全くの無駄足であった。
駅前のドネルケバブの店を後目に、19:55発の電車でパリへ帰還。偶然通り掛かったプチトランでモンマルトル丘へ上がり、サクレクール寺院を観終えるともう23時である。バーガーを買い込んでホテルへ戻るとアクシデントが発生。シャワー中に、局部から紐のような物が垂れ下がっているのを確認する。家内に見せると抱腹絶倒。チーズかサラミの包装材と思しいが、無理に引っ張ると腸を傷つける可能性があるので為すが侭に委せる。フレンチフライが旨かった。今日もへろへろ。
5月2日(日)。巴里観光最終日。完璧な計画によると、ルーブル博物館、オルセー美術館に行った後、14時頃に世界遺産のフォンテーヌブロー宮殿へ行く予定。両館とも別に狙った訳でもないのに、第一日曜日は入館無料なので長蛇の列。結局、昼食時間と排便時間をセーブして頑張ったにも拘らず、両館だけで時間を使い果たす。連日の強行軍もあり疲れたので、一旦ホテルへ戻り排便タイム。局部の違和感もなく無事、紐を排出する。終りよければ全て良し。暫し休憩してエッフェル塔で最後を飾る。やっぱりへとへと。
5月3日(月)。土地鑑も芽生え始め名残惜しいが、帰国である。臨むは午前11時35分巴里発、翌日午前10時の成田着のフライトである。チェックインと買物の余裕をみて8時にホテルを出発。恙無く旅を終えるかに見えたが、機中でアクシデントが発生する。往路で購入したヘッドフォンが、何と復路では無償貸与に変更されており、全く金返せと叫びたいのだが、それにも況して恐ろしい事態が起こる。ワインをちびちびやりながら映画を観ていると終盤になって屁が出そうになったので、終幕を見逃してはならじと何とか我慢はしてみたものの、努力も甲斐無くブリブリと怪音を立てる始末である。慌ててトイレに駆け込んで安全確認をすると、水様便だが被害は最小限で悪臭を放つほど酷くはなく、腹部の痛みも全くない。安全のため降機までアルコールを控えた甲斐あってか無事帰国を遂げ、帰宅の車中、安心して家内に漏れた旨話すと家内は抱腹絶倒である。