第143話 「スター戦略論1」
司会「次の講演は『スター企業はどう生まれるのか:リチャード・コッチのスター戦略論(前編)』です。それでは、よろしくお願いします」
——ありがとうございます。
本日は、ビジネスがいかにして“スター”になるか、その本質についてお話しします。BCGマトリクスというものがありますね。スター、金のなる木、問題児、負け犬。図としてはたいへん美しい。しかし、致命的な欠点がある。
スターは素晴らしい、と書いてある。
だが、どうやってスターになるかは、どこにも書いていない。
投資すればスターになる?
投資せよ、投資せよ、投資せよ。
まるで小切手を書けば天国に行けるかのような書きぶりです。
現実はそう甘くない。金をかけても、基礎がなければ壊れます。
筋肉がない状態で、重りを持たせるようなものです。
スター企業というのは、才能で生まれるものではありません。
鍛えたかどうかです。
BCGマトリクスにはスターと書いてある。だが、鍛え方が書いていない。
これはおかしい。星は、空から降ってくるものではありません。
毎日、同じことをやる。逃げない。言い訳しない。これが基本です。
スター事業には、型があります。私は長年、それを見てきました。
まず、単純化です。
複雑なビジネスは、弱い。技が多すぎる選手は、試合で何も出ません。
やることは二つだけでいい。価格を下げるか、構造を変えるか。
価格を下げるとは、覚悟を決めることです。半端はいけない。
100ドルを90ドルにする?
それは調整です。鍛錬ではない。50ドルまで落とす。
その代り、余計な肉は全部そぎ落とす。
IKEAを見てください。
あれは家具屋ではありません。道場です。
入った瞬間、長い通路を歩かされる。逃げ場はない。
重い箱を持たされる。自分で組み立てる。文句は言わない。
これは教育です。完成した家具を見て、人は思う。
「自分でやった」
この感覚が、人を強くする。IKEAは、客を甘やかしません。便利にもしない。その代り、安くする。そして、誇りを与える。
楽をさせるビジネスは、続かない。楽をさせないビジネスは、残る。
選択肢を減らす。迷わせない。
これはマーケティングではありません。指導です。私は若い頃、
「基本ができていない者は、技を使うな」と叩き込まれました。
企業も同じです。基礎ができる前に、成長を語るな。
スターとは、派手な技を出す者ではありません。
最後まで立っている者です。
以上です。ありがとうございました。質問がある方どうぞ。
参加者「今の話を聞いて、それは一例にすぎないのではないかと思いますが、どうなのでしょうか?」
なるほど。良い質問ですね。
では、もう一度、IKEAを振り返ってもう少し詳しく掘り下げてみましょう。
IKEAがやっていることは、徹底しています。中途半端がない。
まず、入口が遠い。これは重要です。
近道を用意すると、人は逃げます。逃げ道があると、覚悟が生まれない。
入った以上、最後まで行く。これが基本です。
そして、重い箱。中身はバラバラ。説明書はあるが、親切ではない。
しかし、必要なことは全部書いてある。
これは良い説明書です。余計なことを書かない。
ビジネスの資料も同じです。厚い資料ほど、中身が薄い。
IKEAは、客に「考えさせる」ことをやめました。代わりに「やらせる」。
やれば、分かる。分かれば、身につく。
完成した家具は、正直言って完璧ではありません。
ズレていることもある。しかし、人は言う。
「まあ、いい」
この「まあ、いい」が大事です。完璧を求めると、続かない。
続くことが、強さです。
IKEAは、安さで勝っているのではありません。継続で勝っています。
継続は力なりです。基礎を、何年も、何十年も、繰り返す。
流行に乗らない。奇をてらわない。だから、残る。
マーケティングとは、派手な技ではありません。
型稽古です。
毎日、同じ動線。毎日、同じ配置。毎日、同じ値段帯。
飽きる? 飽きたら、それでいい。基礎は、飽きた先にあります。
私は若い人によく言いました。
「新しいことをやりたがるな」
まず、立て。次に、歩け。走るのは、その後だ。
企業も同じです。いきなり走ろうとする企業は、だいたい転びます。
スター企業とは、派手なデビューをした企業ではありません。
10年、20年、同じことを続けて、まだ立っている企業です。
以上、補足でした。ありがとうございました。
(拍手)
司会「以上、カール・ゴッチさんの講演でした」
カール・ゴッチ(Karl Gotch)
2007年没。享年82歳。ベルギー出身のプロレスラーで「プロレスの神様」「無冠の帝王」と呼ばれ、日本のプロレス技術・思想に決定的な影響を与えた。 プロレス界に「基礎・反復・鍛錬」を持ち込み、技よりも身体、理論よりも耐久を重んじた伝説的指導者。
その卓越したレスリング技術と指導力により、アントニオ猪木や前田日明など多くの名レスラーを育てた。
なぜかマーケティングの話にも、そのまま当て嵌ってしまう。