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第142話 「裁判員の星」

    星検事の主張によるとこの時刻に被告が凶行に及んだということになりますが、我々弁護団は被告のアリバイを立証する証拠を提出したいと思います。

    「異議あり」
    「異議を却下します。弁護人は続けて」
    「はい。その時間、被告は居酒屋ダッカーで占いをしていました。証人を呼びたいと思います」
    「異議あり」
    「異議を却下します。証人は証言台へ」
    「証人に尋ねます。あなたの名前は」
    「早川腱」
    「あなたの職業は」
    「ネットカフェ・デジタルの経営者」
    「早川さん。被告人とはどういう関係ですか」
    「…」
    「どうやら証人は極度に緊張しているようです」
    「弁護士さん。ちょっと言い難いんだが…。この手の届く距離にあるギターは一体何のマネだい。被告人との関係はこいつを抜きに語る訳にはいかないんだなあ。ちょいと弾いてもいいかい」
    「おい。君。勝手に触るんじゃない。あ、こら、止めなさい」
    「ジャン、ジャン、ジャン、ジャン
    ジャン、ジャン、ジャン、ジャン
    ジャン、ジャン、ジャン、ジャン
    ジャカジャカ、ジャン、ジャジャン。
    ひゅー。決まったぜ。被告人オペラ座のエリック。占いをやらせたら右に出る者はいないほどの達人。その正体は牛神天一。だがその腕前は日本じゃあ二番目だ。」
    「なんだとお。じゃあ、日本一は誰なんだ。」
    「チッチッチ。俺だ。」
    「被告人は黙って。証人は勝手に被告人と会話しないように」
    「早川さん。あなたは居酒屋ダッカーを知っていますね」
    「はい。常連です」
    「居酒屋ダッカーではどんな凶行が繰り広げられていたのでしょうか」
    「占いです」
    「占いですか。それの一体どこが凶行なんですか。裁判長。お聞きの通り被告は占いをしていただけで、凶行に及んでないのは明らかです」
    「ッズバーッ。弁護士さん。占いを嘗めちゃあいけないな。そこに居るオペラ座エリックは、日本じゃ二番目の腕前だが、オペラを歌いながら星占いで殺人ができるのはこいつしかいないんだ。あまつさえハンドパワーで五百円玉に煙草を貫通させることができるんだ」
    「ちょっと早川さん。さっきから訳わかんないことばかり喋って。あなた一体何者よ。て、それはマリックだろ」
    「ズバッと惨状、ズバッと解決。人呼んで流離いのヒーロー。怪傑ズバッ、いやいや、サイバーーー、イン!」
    「あ、御前は。抽選にも当たってないのにしつこく裁判員をやらせろと五月蝿く付き纏った奴じゃないか。あ、こんな所に琵琶まで持ち込みやがって。警備員」
    「ッズバーッ。バレちゃあ仕方がない。我慢できなかったんでね。行くぞ。オペラ座エリック。年貢の納め時だ。サイバーアタック!」
    「静粛に。証人は証言台に戻って。あ、こら」
    「サイバーキック。飛鳥五郎を殺したのは牛神天一、貴様か」
    「違う、俺じゃない。俺にはアリバイがあるんだ」
    「嘘を言うんじゃない。貴様の企みは全部まるっとごりっとすりっとお見通しだー」
    「そ、それは、トリック」
    「その通り。つまり、アリバイはトリックだったのだ。解説しよう。現場にあったタイヤ痕は、滑り止めの溝がなかった。雨天には使わないレース用のタイヤだ。ええと何タイヤだっけ」
    「それはスリックだろ」
    「そうそう。スリックと言えば、雨天で使うと滑るからスリップタイヤだと思っていた頃が懐かしい」
    「そんなことはどうでもいいだろ。俺のアリバイ崩しはどうなったんだ」
    「そうそう。そうだった。焼くと芳ばしいが食べると臭う吸血鬼の嫌いなものと言えば」
    「それは、ガーリック」
    「その通り。貴様の好物だったな。ガーリックと言えば、飲み過ぎて中毒になることをアルコホーリー…ええと何だっけ」
    「それは、ホリック」
    「その通り。ホリックと言えば、ギリシアの竪琴に合わせて歌う詩で、ほら何て言ったっけ」
    「リリック」
    「その通り。ところでリリックとソリックはソックリだとは思わないか」
    「…。それがどうした」
    「あいや、すまん。解説しよう。貴様は好物の大蒜を頬張りながら、いつもの調子で飲み過ぎて飲酒運転をしてしまった。雨の中で視界が悪いうえに眼鏡を忘れ、本物ソックリの伊達眼鏡で誤魔化そうとした。そして飛鳥は貴様の車に轢かれたんだ」
    「それはいいけど、俺は免許も車も持ってないし、視力だって2.0だぜ」
    「へ?」
    「それに俺はその時間、そこにいる東條とかいう刑事に護送されていたんだぜ」
    「え。こりゃまた失礼しました。」
    「まったくエキセントリックな奴だぜ」
    「そうですか。お呼びでない。と。それでは皆さん、御機嫌よーう。ズバッと惨状、ズバッと解決。怪傑ズバッ、いやいや、サイバーー、イン!」

    飛鳥の仇をとるため星の協力によって裁判所に潜入し、見事玉砕した早川は、通知書が届いても二度とサイバー・インにはならないことを誓い、人知れず荒野の地中に強化服サイバースーツを封印した。そして最期に呟いた。飛鳥…。俺は再起をかけて頑張るぜ。ありがとう、星。

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    142話までは「パブロフの屁」(ぱりぱり噛めん:Parikame) のテキスト復刻版です。見出し形式「第○○話」がテキスト本編、「no.○○」が対応するダイジェスト図解版です。ご贔屓いただけると新作公開の励みになりますのでよろしくお願いいたします。え?頑張らなくていい……ですか

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