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第12話 「漢字変換」

    外来語を平仮名入力すると一発で漢字が出力され、同時に片仮名表記という選択肢も与えてくれるのが親切なエディタアというものであるが、私の使用しているエディタアはかなり偏屈である。漢字は出るくせに片仮名は出なかったり、その逆もあったり、そうかと思えばどっちも出ない時もある。漢字変換の怪とでも言おうかとんでもない漢字が出現したりして、初めのうちは中中楽しめたりするのだが、終いには腹が立ってくる。実際のところどんな変換があるのか、エディタアのヘルプを参照しながら級分類を試みるとしよう。

    先ずは初級コース。英吉利、亜米利加、加奈陀、亜細亜、佛蘭西、伊太利屋(伊太利亜)、獨逸(獨乙)、蒙古、玳、印度、歐羅巴。最後を除いて全部、国名の変換候補である。このうち片仮名へ変換可能なものが、イギリス、アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、タイ、ヨーロッパである。アジア、インド、イタリアは不能である。不能といってもあっちの意味ではないのである。更に進んで米独は、一文字圧縮変換が可能で中中優れている一方で、蒙古は「もんごる」からではなく「もうこ」から変換なので一発変換規約第六条に違反である。又、ドイツは「何奴」とも変換され、ちょっとふざけている。然し、最もふざけているのは玳である。

    理由は幾つかある。先ず、玳は一文字圧縮変換と見えるが騙されてはいけない。初めから一文字なので圧縮変換ではないのだ。危い、危い。危うく騙される処であった。又、他の候補を捜そうものなら一巡する迄に五十三回もスペイスバアを押さねばならず、うっかり見逃してしまうと復、五十三回押す羽目になって仕舞うのである。嗚呼。途中11回目にタイ、16回目に炊い、17回目にたい、28回目に他意、45回目に田井が出現して、うっかり見逃して仕舞わない様に工夫が凝らしてあるのはいいが、言葉として無意味な「炊い」の存在は余計である。そして、45番目に出番が巡って来る田井君は「そろそろ一巡ですよ」と警告を発する重要な任務を背負っている。頑張れ、田井君。と、思いきや、辞書を調べてタイは「泰」である事を知って愕然とする。

    お次は中級コース。葡萄牙、西班牙、墺太利、露西亜、魯西亜、濠太剌利、新嘉坡、和蘭、亜剌比亜。順番に、ポルトガル、スペイン、オーストリア、ロシア、ロシア、オーストラリア、シンガポール、オランダ、アラビアである。ふざけた事にロシア以外はみな片仮名が出ないし、オランダに至っては「御乱打」と出る始末。面白いので一発変換規約第三条に則り表彰したい処ではあるが、片仮名が出ないのでアウト。

    さて上級コース。ここからは片仮名変換が不能なものばかりで、漢字と平仮名の選択肢しかない。瑞西、瑞典、芬蘭、新西蘭、蘇格蘭、愛蘭、波蘭、勃牙利、洪牙利、白耳義、土耳古(土耳其)。似たものが並んでいるので一つが解れば何とか読めそうである。順に、スイス、スウェーデン、フィンランド、ニュージーランド、スコットランド、アイルランド、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ベルギー、トルコである。矢鱈に蘭の文字が目につくが、それは「ランド」だろうと思った人は優れた観察力の人である。でも油断して愛蘭を「アイランド」と読んでしまってはいけない。また、アイスランド、グリーンランドは氷蘭、緑蘭だと思って変換してみても、残念ながら何にも出なかったりする。ちっ、期待して損したよ。

    では超級コース。捷克、埃及、諾威、丁抹、墨西哥、亜爾然丁、伯剌西爾、希臘。これらは、チェコスロバキア、エジプト、ノルウェー、デンマーク、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、ギリシャだが、最後の希臘は「ぎりしあ」と入力する。一発変換規約第何条だっけ、ええと六条に違反である。チェコとスロバキアとは別々に出ない辺り時の流れを感じさせるが、それにしても捷克はチェコとしか読めないのである。うーむ。

    ところで漢字は出ないが片仮名が出る国が唯一つある。それはチャイナである。支那は「しな」からの変換となり、「チャイナは支那ではない。それは差別語だ」という編集者の主張が窺える。China の読み違えが支那じゃないのかとも思われるのだが、言語によっては「きな」とか「かいな」になったりもするし、もっと別な音が当てられていたならばそっちが差別語になっていた筈で、エディタアごときにそんな主張をされてもちょと困るのである。もう一つ、変種としてチリを挙げておく。「ちり」と入力して、地理、塵、智利、散り、と四つも出てくるのでどれが本当なのかよく判らないのである。うーむ。

    ざっと国名が終ったとこで、地名編。倫敦、羅馬、紐育、市俄古、巴里、未蘭、漢堡、馬徳里、莫斯科、澳門。ロンドン、ローマ、二ューヨーク、シカゴ、パリ、ミラノ、ハンブルグ、マドリード、モスクワ、マカオである。怪しいところでは「かいろ」が、回路、海路、懐炉だし、「りすぼん」は栗鼠本である。超怪しい。

    序でに食べ物編。拉麺、焼売、炒飯に檸檬などは漢字も片仮名も両方変換される。ところが、ろーるパンやパイタンは、ρる麺麭、πたん、などと希臘文字になってしまうのは一体。漢字のみ変換する片手落ち群は「ぎょーざ」「ちゃーしゅー」「ちょこれーと」で、餃子、焼豚、貯古齢糖。焼豚は叉焼とも出るが「ちゃーしゅーめん」なら叉焼麺しか出ないのである。一体何方なんだ。それにしても貯古はないだろ、と思うのである。

    人名関連では切支丹、基督、老頭。「きりしたん」「きりすと」「ろーとる」である。老頭が出るか普通。基督もひねくれ者らしく、「きりすと」だと「切捨と」になるが、「きりすときょう」ならちゃんと基督教と出る。教えを切捨てよという事か。ま、実際切捨てられた訳だが「切捨と」はちょっと虚しい響きがある。

    最後に駄目コースとして、漢字変換があっても良いと思われるものを列挙する。ロブスター(大蝦)、タンカー(油槽船)、アップル(林檎)、パートナー(相棒)、デッドボール(死球)、レンタル(賃貸)、ローン(貸付)、ベテラン(老練)、エディター(編集者)、ユーエフオー(未確認飛行物体)、ただ(無料)。最後のは本当に出る。

    そろそろ紙面も尽きてきた。これ以上紹介出来ないのが残念であるが、皆さんも横文字を見掛けたら是非疑って変換に勤しんでみる事をお勧めする。

    ところで一発変換規約って何だよ。

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    142話までは「パブロフの屁」(ぱりぱり噛めん:Parikame) のテキスト復刻版です。見出し形式「第○○話」がテキスト本編、「no.○○」が対応するダイジェスト図解版です。ご贔屓いただけると新作公開の励みになりますのでよろしくお願いいたします。え?頑張らなくていい……ですか

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