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RE:CODE-歴史修復機関- #023

    前回

    TRRA本部、保護区画。
    施設の中だというのに、その中にもう一つの建物が入っているようだった。

    昭和の学校を思わせるような木造建築の一室。
    窓辺に置かれた椅子に座り、大知は外を眺めていた。

    木造建築の外では、子供たちが庭を駆け回っている。
    その近くでは、ヤエが子供たちを見守っていた。
    穏やかな笑い声が聞こえてくる。

    ふと、サッカーをしている二人組の男の子に目が行く。

    そういえば、海斗もサッカーが好きだったな。

    大知は振り返る。
    小さな木製ベッド。
    その上で、海斗は変わらず眠り続けていた。

    「時間だ」

    部屋のドアが開く。
    成瀬と、コウ、そしてケイが、部屋に入ってきた。

    大知は小さく息を吐く。

    「……そっか」

    小さく、大知は答えた。
    三人と視線は合わない。
    ただ、海斗の寝顔だけを見ていた。

    そんな大知に、コウは何かを言いかけて、口を噤んだ。

    ケイはそんなコウの肩を軽く叩く。
    そして、大知の前へ歩み寄った。

    大知は眠る海斗を見つめたまま口を開く。
    「少しでも、話をしたかったんだけど……
     結局、起きませんでした」
    「そうですね」
    ケイは静かに頷いた。

    「身体に異常はありません」
    そう言いながら、海斗へ視線を向ける。

    「ですが、長い時間を一人で過ごしましたから」
    言葉を選ぶように、少しだけ間を置く。
    「心の回復には、もう少し時間が必要なのでしょう」

    大知は海斗を見つめた。

    なくなった右腕。
    10歳のままの姿。

    その内側では想像もできない時間を過ごしてきた。

    胸の奥が苦しくなる。
    それでも――。

    「……そっか」
    小さく息を吐いた。

    「海斗」

    海斗は何も答えない。
    けれど。

    「俺、帰るよ」
    大知は静かに言った。

    「待ってるから」
    喉の奥が熱くなる。

    「父さんと母さんと、一緒に」
    それでも、大知は微笑んだ。

    静かに立ち上がる。
    「ケイさん。あの、お世話になりました」

    にこりと、ケイは微笑む。
    だが、その笑みはすぐに静かなものへ戻った。

    「海斗君のことは、任せてください」
    「……はい」
    返事を返す。
    けれど、視線は下がったままだった。

    「大丈夫ですよ」
    ケイの声のトーンが、わずかに上がった。
    大知が顔を上げる。

    「海斗君も、必ず帰します」
    どこまでも穏やかな表情を浮かべる、ケイと目が合った。

    「それが、私たちの役目です」
    大知は眠る海斗を見た。
    そして、小さく頷く。

    一歩を踏み出す。
    海斗から視線を外し、成瀬たちの元へ。

    「お待たせしました」
    「あぁ」
    その言葉に、成瀬も小さく頷いた。

    ◇

    オペレーションルーム。
    無数のモニターが浮かぶ黒い空間。

    中央ではイヨが粒子キーボードを高速で叩いている。

    その動きにあわせて、モニターが順次切り替わる。
    大知は何も言わず、その様子を眺めていた。

    「本来なら、ここでのお前の記憶は消すべきなんだが」
    そんな彼に、成瀬が声をかけた。

    「やめてくれよ。そんなの。
     また、海斗を忘れたくない――」
    「あぁ」
    成瀬は頷く。

    「海斗が元の時代に戻れば、歴史は修正される」
    大知は眉をひそめた。

    「その時には、お前がここに来た時間軸も消える」
    「……じゃあ」
    「どうせ消える記憶だ」
    成瀬は肩をすくめた。

    「今ここで消す必要はない」
    「……そっか」
    大知は安堵したように息を吐く。

    「ありがとう」

    「無事に送り出せそうですね」
    そんな様子を眺めながら、九郎が口を開く。
    ノブが壁から背を離した。

    「今回はうまいこと回収できたようだが」
    ノブが口を開く。

    「運が良かっただけだ」
    視線が、成瀬を射抜く。

    「毎回、上手くいくと思うな」
    成瀬は、無意識に拳を握った。

    「肝に銘じます」
    だが、しっかりと言い返す。

    面白くない、そう言いたげに、ノブは「ケッ」と吐き捨てた。

    「帰還座標、固定完了」
    やがて、イヨの淡々とした声が響いた。
    「朝比奈大知、転送可能」

    「大知」
    コウが、声をかける。
    どこか言いづらそうに視線を揺らした。

    そんな彼の様子に、大知は困ったように笑う。
    「なんで、コウがそんな顔するのさ。
     帰れって言ったの、コウだろ?」

    「……そうなんだけどさ」
    コウは笑おうとして、失敗した。

    「なんか、いざとなったら、寂しいっていうか……」
    その言葉に、大知は思わず面食らう。
    そして、思わず笑った。

    「なんだよ! それ」
    「わっ、笑うなよ!」

    顔を真っ赤にして、コウが言う。

    「それに――」
    言葉を続けようとして、コウは一度言葉を切った。

    「最初に、ノイズを引き剥がせてたら――
     大知が、つらい思いしなくて済んだのに――」
    視線が落ちる。

    「上手くできなくて、ごめん」
    拳を、強く握りしめた。

    「まだ気にしてたの」
    「気にするだろ!」
    すぐに、コウは叫ぶ。
    そんな彼の様子に、大知は小さく吹き出した。

    「気にしなくていいのに。
     結果として、大事なことを思い出せたんだから」
    「……でも」
    「あ、そうだ」
    まだ何か言いたげなコウを遮るように、大知は口を開いた。

    ガサゴソと、ズボンのポケットを漁る。
    「これ」
    言って、取り出したそれをコウに渡した。
    コウは首を傾げながら、それを受け取った。

    そして、その目を大きく見開いた。
    「助けてもらったお礼。
     っていうには、安すぎるけど」

    手の中には、あの土産物屋で見かけた、
    伊達政宗の騎馬像のキーホルダーがあった。
    「欲しかったんでしょ? そのキーホルダー」

    コウは目を瞬かせた。
    視線が、大知とキーホルダーの間を行き来する。

    何かを言おうとして、わずかに口を開く。
    その瞬間――。

    「駄目だ」
    瞬時に成瀬が口を挟んだ。
    「コウ、返せ」
    びくりと、コウの身体が跳ねる。

    「時間干渉に当たる」
    コウの表情が、目に見えて沈んだ。
    手の中のキーホルダーを名残惜しそうに見つめる。

    けれど。
    「いいじゃん、これくらい」
    大知が口を挟む。

    「ケチ」
    「成瀬さん……」
    コウが、縋るように成瀬を見上げる。

    成瀬は視線を逸らした。
    数秒の沈黙。

    やがて、大きく息を吐き、肩を落とした。

    「……特例だ」
    その瞬間、コウの目がパッと輝いた。

    「ナルは、コウに甘いんですから」
    やれやれと言いたげに、九郎が口を開いた。
    自覚はあるのか、成瀬の目が泳ぐ。

    「時間」

    早くしろと言いたげに、イヨが口を開いた。
    有無を言わさず、粒子キーボードを操作する。

    その動きに合わせて、大知の足元に金色の幾何学模様が姿を現した。

    「じゃあ、行くな」
    「うん。大知、本当にありがとう!」

    言って、コウはキーホルダーを両手で握り締めた。

    「そんなに欲しかったんだ」
    「へへっ。だって嬉しいじゃん」

    コウは照れくさそうに笑う。

    「兄上が、何百年も語り継がれてるなんて」
    「は?」

    コウの言葉に、大知は口を開いたまま固まった。
    思わず彼を見返す。

    その瞬間。

    「転送開始」
    イヨが淡々と告げ、金色の粒子が大知の身体を包み込んだ。

    「ちょ、待っ!
     今なんてっ……」

    我に返ったが、もう遅い。
    言い終わる前に、視界は、白く染まっていた。

    ◇

    風が頬をなでた。
    その感覚に、大知はゆっくりと目を開く。

    目の前には――。
    伊達政宗騎馬像。

    見慣れた仙台の景色。
    行きかう人々の声。
    空。
    雲。
    そして。
    何事もなかったかのように流れる、観光地の風景。
    騎馬像の周りでは、観光客が写真を撮っていた。

    戻ってきた。

    そう思いかけて――。
    ふと、先ほどの会話を思い出す。

    「……」
    沈黙。
    騎馬像を見上げる。

    「はああぁぁぁっ⁉」

    思わず、声が出た。
    周囲を歩いていた観光客の視線が、わずかに大知を見る。

    声を出してしまったことに気づき、大知は慌てて口を押えた。

    「え? え? ちょっと待って」
    けれど、それで混乱が収まったわけではない。

    「伊達政宗の弟って……?」

    大知の顔が引きつった。

    「……伊達政道?」
    ぽつりと、その名を呟く。

    脳裏に、照れくさそうに笑うコウの顔が浮かんだ。

    「ハハッ」

    思わず、笑みがこぼれる。
    最後の最後に、とんでもない爆弾発言だった。

    「そんな大事なこと、もっと早く言ってほしかったなぁ」
    けれど、きっと知っていたら、
    あんな風に、自然に接することはなかっただろう。

    ポケットに手を入れる。
    出てきたのは、スマートフォンのみ。

    あのキーホルダーは、もうそこにはない。

    今体験したことは、夢ではなかった。
    少しだけ、胸の奥に寂しさを覚える。

    けれど――。
    スマートフォンを操作する。

    通話アプリを開き、耳に当てた。
    『大知?』
    「あぁ。母さん?」

    電話の向こう。
    聞こえてきた母の声に、胸の奥が熱くなった。

    「うん。今から帰るよ。
    だから、待ってて」

    伊達政宗の騎馬像を見上げる。
    少し冷たい風が、頬を撫でた。


    次回


     
     

    OMAme

     
     
    歴史×SF『RE:CODE―歴史修復機関―』連載中。 時空を修復する組織TRRAを舞台に、歴史と未来が交差する物語を書いています。 創作大賞2026応募作品。 noteとChat GPTやってたら厨二病再発した人。 日常→https://note.com/omame_essei

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