
殻坊主
夜勤明け、時おり霧雨でかすむ曇天の早朝に、雨晴海岸へ立ち寄った。
潮風にあたって、少しぼーっとしたかった。
岩にあたる波の音が、何とも心地いい。
海の水は澄んでいた。
「水、きれいだな」
そう思いながら眺めていると、ふと気づいた。
カニや小魚など、岩場にいそうな生き物が、何も見当たらない。
ちなみに、フナムシはいた。
浜に下りた瞬間、視界の端で、いっせいに蠢く姿をとらえていた。
さらに浜には、おびただしい量の貝殻が打ち上げられていた。
巻貝もあり、二枚貝もある。
あらゆる種類があるように見えるが、中身はない。
どれも、小さな貝殻だった。
貝殻って、使い捨てなんだろうか。
そんなことを思っていたら、一体の怪異が立ち上がった。
その名も、殻坊主。
貝殻の、大きな大きな集合体である。
殻坊主が、カニや魚を全部食べてしまうから、浜にはフナムシ以外の生き物がいないのだ。
夜に生き物を食べ尽くし、
満腹になった殻坊主は、朝になると浜に横たわって眠る。
私が見た、おびただしい量の貝殻は、殻坊主の昼の姿だった。
このエッセイで書いた余白観光を、まずは足もとから始めてみようと、雨晴海岸の歴史や伝承を調べていた。
すると、実践するための現地入りもしないうちから、私の中で三体の怪異が立った。
殻坊主は、そのうちの一つだ。
私としては、余白観光を歴史寄りのつもりで考えていたが、どうも私のものは、「怪異爆誕型」のようだ。

近いうちに雨晴海岸へ足を運ぼうと思っている。できれば雨がいい。
海越しに雪をかぶった立山連峰が映える、有名な絶景とはまた別の、私なりの余白観光になることを願って。