メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

喋る黒猫シ゚ルかわいいけど䜕故か毒舌。理由はわからない。【第4話】猫は電車嫌いで、『螏んだ』っお蚀う

    第䞀話はこちらです。

    【第4話】 猫は電車嫌いで、『螏んだ』っお蚀う

    倕暮れの赀い光が、波打぀海を茝かせおいる。窓からその景色を䞀望できる䌊豆のリビング。

    ダむニングテヌブルでぬるくなった湯呑みを、䞡手で包むように持ったたた、カガミの父が、声を朜めお蚀った。

    「申し蚳ないけど、千倏ちゃん。カガミが来れるか聞いおみおくれないかな」

    千倏はスマホのフリックを止め、顔を䞊げ父を芋た。少し考えお、再び手元に芖線を戻しお返す。

    「ここに呌ぶっおこず」

    「ああ」

    「いいね。私もお姉ちゃんに䌚いたい。じゃあ、聞いおみるね」

    「ありがずう」

    千倏は『NYAINE』を開き、姉ずのトヌクを探す。最埌のメッセヌゞは、正月の短い挚拶だった。

    玠早く文字を入力する。

     『お久しぶりです、千倏です。』

    そこたで打っお、指が止たった。

     『お姉ちゃん。』

    蚀葉を付け足し、画面をじっず芋぀める。最埌に䌚ったのは、い぀だっただろう。少し考える。それから続きを入れお、送信ボタンを抌した。

    倕暮れの海の色が窓から入っおきお、郚屋の黒いピアノを淡い赀に染めおいた。


    䞀転しお、そこには倜の海が広がっおいる。

    砂浜が芋枡せる堎所に、階段状の癜いコンクリヌトず、埮かに揺れる朚々。歩道の脇の芝生、その手前に叀びた石造りのベンチがある静かな公園。

    かすかな朮隒ず月明かりの䞭、街灯の暗闇にたぎれお、䞀匹の黒猫がベンチの暪に座っおいるのがわかる。

    その向かいの芝生に、茶色のトラ猫がいた。耳の先が綺麗に尖っおいお、倧人になりかけのきりっずした猫。

    🐈‍⬛「お久しぶり」

    「いらっしゃい。ずいぶん、遠くたで来たね」

    🐈‍⬛「そうかな」

    「あの子は、ただ無事かい」

    🐈‍⬛「うん」

    トラ猫は、前足で芝生をそっず螏んで、浮き出おくる砂の感觊を確かめる。

    「でも、螏んだね」

    シ゚ルのしっぜの先が、斜め45床の角床でピタリず止たった。

    🐈‍⬛「  うん。始たった」

    「やはり、倉えるのは 」

    🐈‍⬛「分かっおる぀もり 」

    倜の静寂に䞀瞬だけ朮隒が倧きく聞こえたような気がしたが、たた静かになっおいく。

    板橋の寝宀。わずかに開いた窓から吹き蟌む颚が、カヌテンをそっず膚らたせおいた。

    ベッドで、カガミが倧きく寝返りを打぀ように手を広げる。毛垃が匕きずられ、その䞊で眠っおいたシ゚ルが䞀瞬、暗闇の䞭で目を開けた。


    䌊豆ぞ向かう日の朝。

    䌑みの日の子䟛のように、い぀もより早く目が芚めおしたった。目が芚めた時、倢の䞭で海を感じた気がした。

    完党に遠足前の子䟛だ、ず苊笑する。䌊豆・海・千倏ちゃん・瑛さん。楜しい予感ばかり。あずシ゚ルもいる。

    ただ、昚日の倜はずおも倧倉だった。シ゚ルがどうしおも、キャリヌバッグに入ろうずしなかったのだ。

    「このバッグに入るの、嫌」

    🐈‍⬛「嫌じゃないけど 入らない」

    「それだず電車乗れない」

    シ゚ルは答えない。䌊豆たで電車で行く぀もりだったのに、シ゚ルをキャリヌバッグに入れようずした瞬間、党身の毛を逆立お『拒吊』を衚珟する。

    「シ゚ル、電車嫌いなの」

    🐈‍⬛「螏たれるから」

    「誰に」

    返事はない。ただの拒吊猫のようだ。倜の遅い時間にこれは迷惑極たりない。そもそも、電車でもバッグに入っおいれば螏たれないはず。

    䜕か嫌なトラりマがあったのだろうか、ずか考えた。

    ──た、いっか。

    結局、私は瑛さんの提案に甘えるこずにした。

    䞀床はお断りした手前、かなり申し蚳ないず思いながら、こちらから連絡を入れたのだが、ずおも快く匕き受けおくれた。圧倒的な察人スキル。尊敬しかない。

    ドラむブがおら、䌊豆方面ぞ行くらしい。理由は、新鮮なお寿叞だった。


    「プロゞェクトもひず段萜したから、矎味しいお寿叞食べたいから、その぀いでに」

    瑛さんはそう蚀っお、運転垭でサングラスを少し䞊げた。

    カヌキグレヌのパンツに玺のニットカヌディガンを矜織った、スポヌティな感じのスタむル。

    圌女の愛車である、たヌるいデザむンの車は、今、海沿いの高速道路みたいな倧きな道路、そしお海が芋える堎所を走っおいる。

    「぀いでの行動力が、ちょっずおかしくないですか」

    「ドラむブもできお、カガミちゃんにも䌚えお、シ゚ルちゃんずも遊べる。私にずっおは埗しかないよ」

    助手垭の埌ろ、埌郚座垭にはキャリヌバッグがシヌトベルトできっちり固定されおいる。䞭身は車で行くず決たった途端、䞭に入るようになった珟金なシ゚ル。

    「シ゚ル、お寿叞食べたい?」

    🐈‍⬛「  」

    シ゚ルは、答えない。バッグの䞭でたったり䞞たっおいる。今日は猫モヌド党開。出発する前も瑛さんず党力で遊んでた。

    沿道の店には、『ワンコず䞀緒にお食事ができたす』ず曞かれた看板が目立぀ようになっおきた。

    「昔から䌊豆っお、犬連れに優しいお店が倚いんだよね」

    「そうなんですね」

    「うちのチヌムの男の子も最近犬を飌い始めたらしくお、カフェに䞀緒に行ったずか、そんな話ばかり。忠犬の駅もあるくらいだし」

    「猫は、やっぱりダメなんですかね」

    「どうだろうね。今床はシ゚ルちゃんを連れお行っおみようか」

    「行っおみたいです」

    「よし決定次はお寿叞ドラむブも䞀緒ね。もちろんシ゚ルも連れお」

    郜内だず、シ゚ルを連れ出す倧矩名分がないけれど、䌊豆のような旅先なら、䞀緒に店に入るのも自然なのだろうか。窓の倖を流れる癜い雲ず、きらきらず光る海を眺めながら、そんなこずを考えおいた。

    ふず埌垭を振り返る。キャリヌバッグのメッシュ越しに、シ゚ルのタヌコむズの瞳が、じっずこちらを芋぀めおいたような気がした。

    倧きな建物が増え、その手前に広がる公園を通り過ぎるず、車は小さな駅のロヌタリヌぞず滑り蟌んだ。

    「ここで降ろすけど倧䞈倫お父さん、もう迎えに来おる」

    「はい、たぶん着いおいるず思いたす」

    「じゃあねカガミちゃん。今床は本圓にドラむブ行こうね」

    「はい本圓にありがずうございたした。運転、気を぀けおください」

    シ゚ルのバッグをそっず抱えおドアを閉めるず、瑛さんのたヌるい可愛い車は、あっずいう間にロヌタリヌの向こうぞ消えおいった。

    倱瀌のないようにお瀌ができおいただろうか、ず少しだけ䞍安になる。埌でちゃんず、メッセヌゞでお瀌を送ろう。


    ロヌタリヌの反察偎から、千倏ちゃんが倧きく手を振っおいた。

    黒い髪が跳ねるように広がっおいる。薄手のブラりスにデニム。背の高さは、もう私ずほずんど倉わらない。

    「おねヌちゃヌん!」

    ──懐かしい、たっすぐで元気で、倧きな声。

    「こんにちわ」

    千倏ちゃんは満面の笑みで駆け寄るず、すぐに私の手元にあるキャリヌバッグのメッシュ窓を芗き蟌んだ。

    「シ゚ルちゃん、久しぶり」

    バッグの䞭の黒いたんたるは、じっず䞞たったたただ。もちろん返事もしない。

    ──千倏ちゃん、シ゚ルず䌚うのは初めおのはずだけど  。

    写真や動画は送ったかもしれないけれど、その呌びかけには少しだけ匕っかかった。

    千倏ちゃんがメッシュ越しに指を近づけるず、シ゚ルはその指先をただ芋぀め、身動きもしなかった。

    少し埌ろから、父がゆっくりず歩いおきた。

    しばらく䌚っおなかったが、あたり倉わっおいない。綺麗なシャツの袖を少しだけ腕たくりしおいる。

    「来たか」

    「うん」

    「シ゚ルちゃんは、私が持ちたい」

    キャリヌバッグを差し出すず、千倏ちゃんは嬉しそうに受け取り、たたメッシュの䞭を芗き蟌む。シ゚ルも今床は、じっず千倏ちゃんを芋返しおいた。

    父が私の荷物に手を䌞ばす。

    「カガミ、持぀よ」

    「あ、ありがずう」

    二人ず䞀緒に車の埌郚座垭に乗り蟌むず、千倏ちゃんが蚀った。

    「おねヌちゃん、お父さんね、本圓はずっず䌚いたがっおたんだよ」

    「千倏ちゃん。シヌトベルト締めおね」

    父がバックミラヌ越しに私ず目を合わせないよう、遮るように蚀った。

    「はヌい」

    父は䞁寧にミラヌを確認しおから、運転を始めた。

    そんな二人のやり取りを芋ながら、気が぀くず私は、青い石のピアスに觊れおいた。

    それに気づいお、すぐ手を䞋ろし、座垭の間に眮かれたキャリヌバッグを揺れないように支えた。


    家に着くず、黄色い゚プロンをした継母が、玄関で迎えおくれた。

    「いらっしゃい、カガミちゃん」

    家の䞭には、矎味しそうな料理の匂いがしおいた。海が芋える、明るい倧きな窓のある家。

    継母さんは最近、グルテンフリヌの生掻をしおいるず蚀っおいた。グルテンが䜕者かは、私には刀っおいない。

    「カガミちゃん、スタむル良いけど、ちゃんずご飯食べおる」

    「はい。パスタずかですが、䞀応料理しおいたす。レトルトの゜ヌスですが」

    「パスタは小麊だから、少し枛らしたほうが良いかもね。でも孊生さんだず忙しいから仕方ないよね」

    「はい。やっぱり時間が無くお」

    「レトルトよりちゃんず野菜ずか䜿った方が身䜓に良いよ」

    「あずは朝食は、パンじゃなく、ご飯ね」

    ──䜕が良いのか、良くないのか、はわからなかったが、話を合わせた。

    それず、祖母の入院に぀いおは、今は蚀わない方が良いかなっお思った。

    今のこの家族にはあたり関係のない事。あずでお父さんにだけ教えおおこう。䞀応、元矩母だったわけだし。

    䜜っおもらった料理は、どれも本圓に矎味しかった。䌊豆だから魚が矎味しいのではない、料理そのものが矎味しいのだ。

    タむミング芋お、グルテンフリヌはスマホでこっそり調べた。ずおも健康に良さそうな感じだけど、味には関係なさそうだった。

    シ゚ルは、郚屋の隅で猫雑誌の付録ブランケットの䞊で眠っおいる。

    この猫が突然人間の蚀葉で喋り出したら、この平穏なリビングにいるみんなは、䞀䜓どんな顔をするだろう。みんなびっくりするだろうな。


    午埌、千倏ちゃんず近くの店たで買い物に出かけた。歩いおいる途䞭、気が぀くず目で海を探しおしたっおいる。建物の間から青い海が芋えた。やっぱりこういう時間は悪くないな、ず思う。

    倕刻が近づくに぀れ、倪陜の光の角床が倉わり、波のきらめきが鋭さを増しおいった。海岞の防波堀に、䞀匹のキゞトラ猫が座っおいるのが芋えた。

    「お姉ちゃん、東京っお楜しい」

    「うヌん 」

    「倧孊はどんな感じ」

    「どっちも、ちょっず倧倉かもね」

    「そっか」

    「でも頑匵れる堎所ではあるかな。千倏ちゃんは、東京の倧孊に行きたいの」

    「ただ分からないけど、いいなぁっお。パンもたくさん食べられるしね」

    「あはは、家だず難しそうだもんね」

    「でも、䞀人暮らしっお倧倉かなぁ」

    「千倏ちゃんなら、きっず倧䞈倫だよ」

    「どうしお」

    「真っ盎ぐだから、ちゃんず頑匵れそう」

    それは、私の本心だった。私ず比べるず、圌女は䞖界をずっず前向きに生きおいけそうに芋える。

    「あはは、ありがずう」

    砂浜を、長いリヌドを匕いた犬が快掻に走り回っおいた。コンクリヌトの遊歩道にも、犬を連れた散歩客が䜕組か行き亀っおいる。

    海颚が優しく吹き抜け、手に持った゚コバッグが、䞭に詰たった品物の圢をくっきりず浮かび䞊がらせおいた。家に戻る頃には、空はもう別の色に倉わり始めおいた。

    玄関を開けるず、廊䞋の奥からシ゚ルがこちらをじっず芋぀めおいた。

    「シ゚ル、ただいた」

    声をかけるず、シ゚ルは耳の先だけをぎくリず動かした。その仕草は、たるでどこにでもいる普通の猫のようだった。


    さらに豪華な、培底されたグルテンフリヌの倕食の埌。

    継母さんに埌片付けの手䌝いを断られた私は、゜ファに深く腰掛け、淹れおもらった玅茶を啜っおいた。祖母が入院しお以来、玅茶を口にするのはこれが初めおだった。

    父も隣の゜ファに座り、静かにお茶を飲んでいる。台所からは、継母さんが食噚を掗う芏則正しい音が聞こえおいた。

    千倏ちゃんが、リビングの隅にあるピアノの怅子に腰掛けた。

    「お姉ちゃんに、聎いおほしい曲があるんだ」

    そう蚀っお鍵盀に向かう圌女の背䞭のラむンが倉わった。普段の匟けるような明るさが圱を朜め、䜇たいが物静かな倧人のそれぞず倉貌する。

    シ゚ルは、いない。たぶん、どこかの暗い堎所にいる。猫は倧事な時にはい぀もいなくなる。

    挔奏が始たった。

    クラシックの曲だろうが、私には曲名が分からない。楜兞の補習を受けおいる身ずしおは、これは臎呜的な問題かもしれない。

    圌女の党身で衚珟されたものが、指先に䌝わり、その音が郚屋に広がる。

    私は゜ファに背筋を䌞ばしたたた、ただ䞡手でカップを抱えおいたたた、聞いおいた。

    指が無意識に、ピアスに觊れる。

    冷たかった。

    ──祖母の家の廊䞋の涌しさが蘇った。

    倖は暑いはずなのに、廊䞋だけ少し涌しかったこず。郚屋の畳。膝の䞊に乗っおきた、黒くお重い、ふわふわ柔らかいもの。

    芚えおいるのは、それだけだ。

    メロディが別のトヌンに移り、今床は暗い食卓が蘇った。

    ──新聞をめくる音。

    五歳の食卓。䜕かを蚀おうずしお、䜕も蚀わなかった母。その盞手は、私だったのだろうか。

    朝食のテヌブルで、母がトヌストを焌いおいお、新聞を読んでいる父。そしお、皿の䞊の目玉焌きを嬉しそうに芋぀めおいる幌い私。

    「音楜、もういい」

    その蚀葉を攟ったのは、確かに私だった。その時、父は䜕も蚀わなかった。母は──。

    食卓の沈黙が嫌だったのか、それずも嘘を぀いお安易な平穏を遞んだ自分自身が嫌いだったのか。今ずなっおは、もう分からない。

    千倏ちゃんの挔奏が終わった。最埌の音が消えるたで、郚屋の䞭の誰もが動かなかった。千倏ちゃんは鍵盀からそっず指を離しお、膝の䞊に眮いた。

    自分が無意識のうちに、涙が溢れそうになるのを必死に堪えおいたこずに、そこでようやく気が぀いた。

    「お姉ちゃん」

    千倏ちゃんが振り返る。私は、取り繕うようにカップをテヌブルに眮いた。

    「 さすがだね、すごく䞊手」

    「ありがずう」

    千倏ちゃんは真っ盎ぐに私を芋お、埮笑んだ。

    「我慢しおたんだから、やりたいこず、やっおいいんだよ」

    あたりにも屈蚗のない、明るい響きだった。

    「 急に、䜕」

    「ずっず、そう思っおたの」

    「そっか。ありがずう」

    父は、本のペヌゞに目を萜ずしたたた、動かなかった。

    千倏ちゃんは譜面をめくるず、次の曲を匟き始めた。

    今床は䞀転しお、匟むようなリズムの曲。

    千倏ちゃんも、継母さんも、ずおも自由で、それぞれが奜きなこずをやっおいる。


    深倜、テラスに出た。

    䌊豆の倜は、板橋よりずっず暗い。それなのに、海の方角は空ず同化しお広く開けお芋える。ほのかな朮の銙りが颚が吹いおいるこずを感じさせる。

    ふず芋るずシ゚ルは、柵の近くに座っおいた。黒い背䞭が、倜ず同化しお景色の䞀郚に溶け蟌んでいる。

    「シ゚ル」

    黒い塊は、い぀の間にかテラスの手すりの䞊ぞず移動しおいた。芋䞊げる月は、満月から少しだけ欠けたずころだった。

    🐈‍⬛「  」

    「音楜は奜きだけど、私は䜕で音楜やっおるんだろ」

    なぜその蚀葉が出たのかは刀らなかった。でもその蚀葉で良かったのかもしれない。

    再生数は䌞びないし、聎いおほしい人には届かない。楜兞はただろくに読めないし、ピアノだっおたずもに匟けない。

    シ゚ルは海の方を芋぀めたたた、返事をしない。

    ──届かなくおも、やる。

    頭の䞭で考え、そう、決たった。声には出さなかった、はず。

    🐈‍⬛「蚀うず、そうなるかもしれない」

    「  え どうなる」

    シ゚ルは、振り向かないたた答える。

    🐈‍⬛「さあ」

    「シ゚ルっお、そういうずころあるよね 」

    🐈‍⬛「どういうずころ」

    「はっきり蚀わないずころ」

    🐈‍⬛「カガミも、よく蚀わないこずある」

    「それは考えおるから 」

    🐈‍⬛「猫も考える」

    「そっか」

    朮の匂いをかき消すように、少し颚が吹いた。ほずんど走らない車の音が遠くに聞こえる。

    暗闇の䞭で、黒いしっぜがゆっくりず揺れおいる気がした。

    🐈‍⬛「呚目」

    「え、䜕が」

    シ゚ルはもう答えなかった。

    ──確かに、私にずっおは呚目なのかも知れない。それどころか、この家の人はみんな 

    「  それなら、いっか」

    🐈‍⬛「そうだね」

    シ゚ルが、手すりから音もなく、降りおリビングの方ぞ、戻っおいく。私は、ただ海を芋おいたい気分だった。

    ──そうだ、曲目も仕䞊げなきゃいけない。

    そんなこずを䞀瞬考えたけど、やっぱりこんな時間も良いよね。海の䞊の月には少しだけ、雲がかかっおいた。


    和の朝食をいただいた埌、私たちは早めに䌊豆を発った。

    「東京たで乗せおいくよ」ず蚀っおくれたのは父だった。千倏ちゃんも䞀緒に぀いおきおくれるこずになった。

    玄関では、継母さんが私ず瑛さんの分のためにず、健康に良さそうな瑞々しい野菜をたくさん持たせおくれた。

    シ゚ルは、行き先が「車」だず分かっおいるず、嘘みたいにすんなりキャリヌバッグに収たる。

    ──この猫 

    本圓に電車が嫌いなだけらしい。千倏ちゃんが、シ゚ルのバッグを埌郚座垭の真ん䞭に固定しおくれた。

    倪陜の光が海面に乱反射しお、眩しいほどの快晎。右手にきらめく海を芋ながら、車は海岞線を走る。 父はハンドルを握ったたた、あたり喋らなかった。

    助手垭の千倏ちゃんは、楜しそうにシ゚ルの様子を眺めおいる。私は昔から車に酔いやすいので、できるだけ遠くの景色に芖線を固定しおいた。

    東京が近づくず、遠くに倧きなビル矀ず東京タワヌが姿を珟した。改めおそのシル゚ットを目にするず、䞊京したおの頃の、あの息の詰たるような緊匵感が埮かに蘇る。

    途䞭のサヌビス゚リアで昌食を枈たせ、板橋のマンションに到着したのはお昌過ぎだった。

    千倏ちゃんのリク゚ストで倧孊の建物の前を通り過ぎたのだが、圌女は「宇宙船みたい」ず入孊前の私ず同じ感想を述べおいた。

    マンションの前に着くず、父が車を入り口に寄せお止める。

    車から降りた千倏ちゃんは、私の䜏む建物を芋䞊げ、それから駅の方をきょろきょろず芋回した。埌郚座垭からシ゚ルのバッグを䞋ろし、私に手枡しながら蚀った。

    「お父さん。私、やっぱり東京の倧孊に行きたいな」

    父は、車のドアを閉めようずした手を䞀瞬止めおから、千倏ちゃんを芋た。

    「  ああ」

    千倏ちゃんは笑っお蚀った。

    「やった。だから、たたすぐに来るね」

    「千倏ちゃん、ありがずう。たたNYAINEするね」

    「うん。お姉ちゃんも、曲がんばっお」

    「 え」

    なぜ、その蚀葉が圌女から出るのか。䞀瞬考える。

    千倏ちゃんはハッずしたように瞬きをしお、すぐに蚀葉を濁した。

    「あ、違う。倧孊。授業のほう」

    「 うん」

    父が、車から私の荷物を䞋ろしおくれた。

    「ありがずう」

    「ああ。身䜓に気を぀けおな」

    父は車のドアに手をかけ、䞀瞬だけこちらを向いた。

    「──カガミ、今床は、止めない 」

    蚀葉の最埌は、街の音にたぎれおきちんず聞き取れなかった。

    「うん。気を぀けお垰っおね」

    たた無意識に巊耳のピアスを觊っおいた。

    その時、キャリヌバッグのメッシュ越しに、シ゚ルが䞀瞬だけ顔を動かした気がした。暗闇の奥で、鮮やかな色圩のタヌコむズの瞳が、じっずこちらを芋おいた。

    二人の乗った車を芋送り、゚レベヌタヌで祖母の家ぞず䞊がる。 継母さんから貰った倧量の野菜ず、シ゚ルの入ったバッグは、なかなかの重量だった。

    鍵を開けお入る、誰もいない静たり返ったマンションの䞀宀。

    キャリヌバッグのゞッパヌをゆっくりず匕いた。 シ゚ルが音もなく䞭から出おきお、フロヌリングに前足を突く。そのたた背䞭を倧きく反らせお、しなやかに䌞びをした。 䜕事もなかったかのように、そしおただの黒い猫の仕草で。

    🐈‍⬛「ただいた」

    テラスの窓を倧きく開け攟ち、カヌテンだけを閉めお、少し湿った宀内の空気を䞀気に入れ替える。

    シ゚ルは、リビングの匂いを確かめるようにゆっくりず䞀呚しお、い぀もの定䜍眮ぞ向かった。

    手元の野菜を冷蔵庫に入れる。い぀もの日垞 。

    スマホを取り出しお、瑛さんぞのメッセヌゞを打ち始める。

    ──曲目も、ただ曞きかけ 

    終わったんじゃない。始たったずころだった。

    5話に続く

    第5話

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    Nyalocity & C. は、珟実の執筆者・音楜配信者ずしおの名前ず、小説の䞻人公カガミが音楜を配信するアカりント名です。 連茉小説ずSunoで制䜜した楜曲をリアルタむム芁玠を入れお配信したす。 カガミの劄想ず䞭の人が謎の黒猫シ゚ルの物語をよろしくお願いしたす。

    あなたぞのおすすめ